
「忙しいなかで新しい資格を取りたい」「仕事の合間にスキルアップの勉強をしたい」——そんな思いがあっても、がんばりすぎるスケジュールを組んでしまい、結局挫折してしまう……という経験はありませんか?
じつは、勉強計画は “ゆるめ” に組んだほうが、かえって効率よく続けられる可能性が高いのです。
今回は、無茶な学習計画がうまくいかない理由を心理学・脳科学の視点から紐解きつつ、「ゆるめスケジュール」を軸にした具体的な勉強の立て方をご紹介します。
短い時間でもきちんと成果を出せる “タイパ(Time Performance)” のコツや、ゆるめ計画だからこそ得られるメリットを存分に活かして、モチベーションを落とさずにゴールへ進んでいきましょう。
- 「頑張る計画」が挫折を呼ぶ?
- なぜ無茶な計画は挫折しやすいのか —— 心理学・脳科学から見る理由
- 「ゆるめ計画」で得られる3つのメリット
- 「ゆるめ」でもしっかり成果を出す! 勉強スケジュールの立て方
- ゆるめ計画をさらに面白くするアイデア
- 実践例 —— モデルケースで見る「ゆるめ計画」
- 無理しない “ゆるめスケジュール” こそ、学習効率を高める近道
「頑張る計画」が挫折を呼ぶ?
「今度こそ○○をマスターするぞ!」と強い意気込みで勉強を始めても、しばらくするとやる気が低下してしまい、最終的には計画倒れ……。そんな経験を持つ人は少なくありません。特に、社会人は仕事やプライベートが忙しく、思ったほど学習時間が確保できないこともよくあるでしょう。
このとき、多くの人が陥りがちなのが「始める前のモチベーションが高いからといって、ハードな勉強計画を立ててしまう」というパターンです。しかし実際は、予定通りにいかず焦りが募り、モチベーションが急速に下がっていく——そのような悪循環が生まれやすくなります。
じつは、「余裕を持たせた “ゆるめスケジュール” をあえて組むほうが、結果として確実に学習を続けられる」という逆説的な事実があります。
以下では、その根拠を心理学・脳科学の観点から解説しつつ、具体的な “ゆるめ計画” の立て方を見ていきましょう。
なぜ無茶な計画は挫折しやすいのか —— 心理学・脳科学から見る理由
◆完璧主義と “失敗” の恐れ
「最初から完璧にやらないと意味がない」と思ってしまう完璧主義傾向があると、計画が少しでも崩れた瞬間に「やっぱり無理だ」と投げ出してしまうリスクが高まります。
行動経済学で語られる “損失回避バイアス” の観点では、人は「得るもの」より「失うもの」を大きく捉えてしまいがちなので、進捗が遅れると、そのマイナス面ばかりを拡大して感じるのです。無茶なスケジュールほど、挫折のきっかけを作りやすいとも言えます。*1
◆脳の学習メカニズム:インターリーブ効果
一度に長時間同じ科目や同じタスクばかり取り組むより、複数の科目やスキルをローテーションさせる「インターリーブ学習」が有効とされます。同じ分量を連続で詰め込み学習(ブロック方式)するより、短いセッションを交互に行なうほうが、脳に新鮮な刺激が入りやすく、記憶の混同も起こりにくいのです。*2
無茶な計画で「今日は英単語3時間、明日は文法3時間」といった大きなかたまりを確保するのは、脳に過度な負担をかけがち。むしろ、細切れ時間を使いつつ科目を分散したり、日替わりでトピックを変えたりといったゆるめの設計が、結果的に学習効果を高めます。

「ゆるめ計画」で得られる3つのメリット
1)モチベーションが落ちにくい
ゆるめのスケジュールは「これなら続けられそう」という安心感があり、小さな達成感を積み重ねやすいのが利点です。少しずつでも計画を消化できれば「できた!」という成功体験が生まれ、次の勉強へのやる気を維持できます。
2)脳のパフォーマンスを最大化しやすい
睡眠時間や休息をしっかりとり、短い学習セッションを複数回に分けて行なうほうが、脳の疲れを溜めにくいだけでなく、内容が定着しやすいと言われています。インターリーブ学習法や分散学習を取り入れることで、集中力を保ちながら着実に学習を進められるのです。
3)日常へフィードバックしやすい
「土日だけガッツリ詰め込む」という勉強法だと、平日に学んだ内容を復習する暇がありません。一方、ゆるめの計画なら、平日の細切れ時間に小まめに復習でき、週末に “実験” や “振り返り” を行なう余裕も生まれます。
学習内容を仕事やプライベートで試行しやすいため、習得した知識やスキルが現実世界に応用しやすいのです。
「ゆるめ」でもしっかり成果を出す! 勉強スケジュールの立て方
◆5日分を7日で割る —— 週末を含めて余力を持たせる
まずは基本の考え方として、「平日5日間で終わる量」をあえて1週間(7日間)に割り振りましょう。どうしても平日は仕事に追われたり、急な残業が入ったりすることがありますが、そんなとき土日にも回せる仕組みにすれば、計画が崩れにくくなります。
たとえばテキストを5章進めたいなら「5章/5日」で計算せず、7日間のうち、土日に “調整枠” として1章分を回すイメージにしておくわけです。慣れてきたら「やや余裕があるな」と感じるかもしれませんが、その“余裕”こそがモチベーションと継続性を支える鍵になります。
◆細切れ時間×スモールタスク —— 分散学習のすすめ
学習時間を連続して確保できないと嘆く必要はありません。通勤や昼休みなど10分〜15分あれば、単語暗記や問題演習を少しずつ進められます。脳科学の研究でも「短時間×繰り返し」のほうが長期記憶に残りやすいことがわかっています。*2
1回30分を2回に分けるだけでも十分ですし、スマホアプリや携帯用の単語帳、メモアプリを活用すれば、移動中でも気軽に学習が進められます。
さらに、「今日は英単語→明日は文法→明後日はリスニング」のようにローテーションさせれば、インターリーブの効果が狙え、飽きにくく記憶混同も抑えられるでしょう。
◆ 睡眠をしっかりとる —— 「寝る」ことも勉強のうち
いくら時間をかけても、脳が休まっていなければ効率はガタ落ちです。睡眠は単に体を休めるだけでなく、記憶の整理・定着に不可欠なプロセス。
特に、資格試験など長期的な学習が必要なときは、徹夜や夜更かしよりも「少し早く寝て、早朝に1時間勉強する」ほうが覚えたことを忘れにくくなります。週末にちょっとだけ多めに睡眠をとって平日の疲れをリセットする “回復日” を入れてもいいでしょう。

ゆるめ計画をさらに面白くするアイデア
◆小さなご褒美ルール
「今日のノルマが終わったら、おいしいコーヒーを飲む」「週末のタスクをクリアしたら新作映画を観る」など、達成のたびに小さなご褒美を設定すると、つらい勉強でも「ここまで頑張れば◯◯がある」と思えてモチベーションを保ちやすくなります。脳の報酬回路を活性化できるので、特にゆるめスケジュールと相性がいいでしょう。
◆ 週末こそ “実験デー”
平日に進めた内容を、週末に“まとめ”や“実験”として深く掘り下げるスタイルも有効です。たとえば英語を学んでいるなら、週末にオンライン英会話で実際に使ってみる、“早起きして試験形式の模擬テストをやってみる” など、変化をつけると楽しく成果を確認できます。
◆ タイパ思考を取り入れる
忙しい人ほど「1日の勉強時間をどう確保するか」にこだわるより、「限られた時間でいかに最大の学習効果を得るか」を考えるほうが効率的です。暗記アプリや問題集の活用、またはオンライン講座などで15分単位の学習をこなす……そんな “タイパ” 重視の考え方なら、ゆるめ計画でもしっかり結果を残せます。
実践例 —— モデルケースで見る「ゆるめ計画」
英語学習をしたいAさんの1週間プラン(例)
平日(5日間)
- • 通勤電車の10分×往復2回で単語暗記。昼休みに5分だけリスニング(英語ニュースを1本聞く)。
- • 帰宅後30分を文法テキスト1単元に割りあてる。ノルマは1日1単元だけに絞る。
週末(2日間)
- • 土曜は睡眠をしっかりとって脳を回復。日中に1時間だけ集中勉強して復習をまとめる。
- • 日曜は"実験デー"としてオンライン英会話に挑戦、あるいは模試形式の問題を30分だけ解いてみる。
ポイント
- • 5日分の学習内容を7日にまたがせることで、突発的な仕事や急用が入っても計画崩壊しにくい。
- • 細切れ時間を活かす+インターリーブ(単語/文法/リスニングを並行)で脳への負担を軽減しつつ、記憶定着を促す。
無理しない “ゆるめスケジュール” こそ、学習効率を高める近道
- 無茶な計画は挫折を呼びやすい
人間はモチベーションが高いとき、つい過大な目標を立てがち。しかし “損失回避バイアス” の影響で、少しでも計画が崩れると諦めやすくなる傾向があります。 - 適度な余白を持たせた学習のほうが、実力が着実に伸びる
5日分→7日分配、細切れ時間での分散学習、インターリーブを組み込むなど、脳の仕組みに則した学習スタイルを確立しよう。 - “タイパ” と “ご褒美ルール” で楽しむ勉強を
せっかく勉強するなら、ちょっとした報酬設定や時短ツールを活用し、短時間でも効果を上げる方法を探ってみてください。
忙しい社会人が新しい知識や技能を身につけるには、徹夜や厳しいノルマばかりのスケジュールより、“ゆるやかだけど続けやすい計画” に切り替えるほうが結果的に成功に近づけます。
「いまの勉強計画、ちょっと自分には厳しすぎるかも……」と感じたなら、ぜひ再チェックしてみてください。1日の勉強時間を少なくしても、5日分を7日に割ってみても、睡眠時間を削らない——こうした工夫が、あなたの学習効率とモチベーションを大きく底上げしてくれるはずです。
結果的に、「意外とスムーズに進んだ」「続けることにストレスがなくなった」そんな嬉しい変化を味わえるでしょう。
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ぜひ、ちょっとゆるめの勉強スタイルで、これからの学習ライフをもっと楽しく、もっと確実に充実させてみてください。
*1 Bjork, R. A. (1994). Memory and metamemory considerations in the training of human beings.
*2 Rohrer, D. (2012). Interleaving helps students distinguish among similar concepts. Educational Psychology Review, 24(4), 605–615.
大谷佳乃
「なぜ?」という疑問を大切に、日常に潜む人とモノとの関係性を独自の視点で読み解くライター。現在は、私たちが何かを選ぶときに働く「見えない力」に注目し、そのメカニズムを探求中。休日は、古書店で先人たちの知恵に触れるのが、自分にとっての「特別な時間」。