大事な判断を行うときに、皆さんはどんなことを心がけていますか?
なるべく多くの要素を考える、信頼できる人にアドバイスをもらう、色々な方法があると思いますが、そこに共通するのは「分析的に考える」ということではないでしょうか。大きなお金が動く、先の人生を決定するなど、重大な選択をする場面では、万が一にも後悔のないように「それはどういう選択なのか」というのを分析することが大切ですよね。
しかし、分析的に、理性的に物事を考えようとしても、実際は上手くいかないこともあると思います。「どうしてあのとき、あんな判断をしてしまったのだろう」と後悔しても既に遅く、嘆くことしかできなかった、という経験はありませんか?
そこで今回は、冷静な「分析」をするために必要なことをご紹介します。
頭が良くてもミスをする
まず、どうして判断ミスが起こるのでしょう。
「分析」に失敗してしまうのは、能力不足だけが原因ではありません。本当は「分析する力」を備えているのに、それを発揮することができないというケースが数多く存在しているのです。
米オハイオ州ケース・ウェスタン・リザーブ大学の実験によると、人間の脳内で社会的、道徳的、感情的な思考である「共感」に関わる領域が活性化しているときには、「分析」に関する領域は逆に抑制されているということが分かっています。この実験では45名の健康な学生に「他者の気持ちを考えさせる問題」と「物理学的思考を要する問題」をそれぞれ提示し、脳の活動をMRIで解析しました。その結果、文章問題、ビデオ問題両方の形式において、「共感」と「分析」の領域の片方が活動している間には、もう一方は抑圧されているという事実が明らかになったそうです。
この事実は、アスペルガー症候群や自閉症の患者が、「共感」に不自由を負うと同時に高度な「分析」能力を発揮する例や、神経発達症の一種で「優し過ぎる病」とも呼ばれるウィリアムズ症候群の患者が、高い共感能力と同時に分析能力の欠如を見せることなどとも合致する結果とみなすことができます。
また、非常に冷静で頭の良い人が、まさかというような詐欺に引っかかってしまったという例は、「共感」によって「分析」の能力が封じられてしまった状態と言えます。
冷静な判断のために
ではどのようにすれば冷静な判断を心がけることができるのでしょうか。
「感情的にならず、理性的に」と考えていたとしても、なかなか上手くいくとは限りません。誰かとつい口論になってしまったときのように、感情的になっている状態では、自分が理性的でないことに対して無頓着になってしまいます。上記のとおり、「共感」の領域が活性化しているときは、「分析」の領域が抑制されています。ですから、もしあなたが「共感」モードに入ってしまっている場合には、「分析」モードを立ち上げる前に、一度「共感」モードをオフにする必要があります。
感情的になってしまったときには、適度な気分転換を入れて、一度問題をスッパリと忘れてみることです。問題を頭から追い出すために、集中力を要するパズルやゲーム、身体を使うスポーツに熱中してみましょう。そうすることで、思考のテンションが中立に戻って来るはずです。
また、その他にも瞑想が効果的だということがわかっています。早稲田大学研究戦略センター教授で、脳神経科学が専門の枝川義邦氏は、以下のように解説しています。
「理性の脳」の活動性を高めるには、どのようなことが有効なのでしょうか。最近の脳の研究では、瞑想(めいそう)が効果的だということが分かってきています。瞑想の習慣がある場合には、前頭前野の活動性が高く、扁桃体の活動性が低く抑えられるようになるといいます。いわゆる「達観」に近い状態になれば、混迷極める実社会においても、心穏やかに合理的な判断が可能になるのです。
(引用元:NIKKEI STYLE|理性的リーダーになるには「瞑想」が効果的?)
達観している状況というのは、「共感」とは真逆の状態になります。瞑想の目的は「自分自身を客観的に見る」ということですから、瞑想を習慣化することで、どんなときでも冷静な「分析」モードに切り替えられるでしょう。
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重要な判断を下すときこそ、「共感」作用に惑わされず、冷静に「分析」したいものですね。
(参考) Science Daily|Empathy represses analytic thought, and vice versa: Brain physiology limits simultaneous use of both networks Wikipedia│アスペルガー症候群 Wikipedia│自閉症 Wikipedia│ウィリアムズ症候群 NIKKEI STYLE|理性的リーダーになるには「瞑想」が効果的? 早稲田大学|研究戦略センター