何度も失敗したはずなのに、またもやリスクを冒し、再び同じ失敗をしてしまう……。きっと自分はチャレンジ精神が旺盛で、めげない性格なのかも?
――前向きなのはいいことですが、何度も同じリスクを冒してしまうのは、脳の前頭前野が働いていないからかもしれません。最新の研究から「意思決定」と「脳の働き」の関係を理解し、前頭前野を元気にする活動を始めましょう。
こんな失敗を繰り返したら要注意
「1日に入れられるアポイントは3件が限度だけど、1件に1時間かかるところを30分で切り上げて、今日中に6件入れてしまえば、早めに休みがとれる!」
――こんな風に「休める」という大きなご褒美に目がくらみ、1時間以内に打ち合わせが終わったこともないのに、リスクの高い行動に出てしまってはいませんか? もしくは、
「資料はまだできていないけど、いつもは9時出勤のところを、7時に出勤して作業すれば間に合うはず。きっと2時間あれば大丈夫だろう。今日は早めに帰っちゃおう!」
――長く続けていても作業効率は落ちていくだけなので、サッと仕事を切り上げるのには大賛成です。しかし、当日ギリギリに作業しようなんて、リスクが高すぎるのではないでしょうか。
以前にも、同じことをしてうまくいかなかったなら、それはまさに前頭前野が活動していない証拠。最近の研究結果が、そう示しています。
ニューロンの活動により意思決定が異なる
2018年12月6日に学術誌『Neuron』に掲載された、オーストリア・ウィーン医科大学などの研究では、脳の前頭前野ニューロンの活動によって、「安全な選択」をするか「危険な選択」をするかが予測できるとわかったそうです。
この実験で研究者らは、ラットに「報酬が小さくても安全な道」と、「大きな報酬を得られる可能性はあるけれど、まったく報酬を得られないリスクもある道」を与え、どちらかを選ばせたそう。その際、前頭前野におけるニューロン活動を抑制されたラットは、完全なリスクを負って、なおかつ持続的な失敗さえも無視したのだとか。
この実験で明らかになったのは、意思決定の際のニューロンの活動に特徴があるため、どう選択するか予測できるというものですが、脳の前頭前野の活動が低いと、失敗を経験しても、リスクが高いほうを選択してしまうということも示されたわけです。 実際、ギャンブル中毒の人の、前頭前野のニューロン活動は非常に低いのだそう。
もう失敗を繰り返さないために
たとえば、前例のないことに関する選択を迫られたとき、運を天に任せて一か八かの賭けに出ることもあるでしょう。そんなサクセスストーリーを耳にすることもありますよね。
しかし、一度は賭けに出て失敗したとしても、のちに成功した人々は、同じ失敗を繰り返すようなことはなかったはず。輸送用機器メーカー本田技研工業の創業者である本田宗一郎氏も、「失敗は恐れるな」といいましたが、「同じ失敗はするな」とも教えています。
前項の研究で焦点が当てられた脳の前頭前野は、こめかみから額にかけてと、その上部に位置する脳の領域。社会性を司り、ワーキングメモリを支え、注意、集中や計画、判断に関する実行機能を担い、記憶や学習に深く関連しています。
その前頭前野をしっかり働かせることで、リスクマネジメントが万全になり、同じ失敗を繰り返さないようになるはずです。
前頭前野を働かせる5つの行動とは
1.よく噛む
東邦大学名誉教授の有田秀穂氏監修によるシオノギヘルスケアの情報ページでは、よく噛むことで脳内の血流が増え、前頭前野のほか、運動野や感覚野、小脳なども活性化すると伝えています。とにかく朝昼晩、食事の際にはよく噛むことを心がけましょう。
2.短時間の軽い運動
筑波大学体育系・征矢英昭教授らの研究チームは、2014年に、短時間(10分程度)の軽運動(ウォーキング・ヨガ・太極拳など)が、前頭前野の実行機能を向上させると明らかにしています。また、2018年9月24日付で米総合科学誌『PNAS』に公開された同教授らの研究では、こうした軽く短い運動が、記憶力を高めることも実証しています。仕事の休憩時に10分間だけ社内や近辺をウロウロしてみるのもいいかもしれません。
3.休憩(情報をシャットアウト)
脳科学者で早稲田大学教授の枝川義邦氏は、前頭前野の機能が低下したときには「昼寝」をするようすすめています。それが無理ならボーっとするだけでもいいそう。重要なのは、外から入ってくる情報をシャットアウトすることなのだとか。したがって、もちろん休憩時にスマートフォンを眺めるのはNGです。
4.紙の辞書を使って調べる
東北大学加齢医学研究所所長の川島隆太氏が行った実験では、国語辞書を使って調べものをしているときは前頭前野が活発に働いているのに対し、スマートフォンを使って調べものをしているときは、まったく働いていないことがわかったそう。ネット検索は効率がいい反面、脳にはメリットがないと示されたわけです。ぜひPCの横に、紙の辞書を置いてみてください。意外にも、つい手にとるようになりますよ。
5.アナログなゲームで遊ぶ
マテル・インターナショナル株式会社が実験監修に杏林大学名誉教授・古賀良彦氏を迎え、ボードゲーム「ブロックス」で遊んでいるときと、スマートフォンの対戦型ゲームで遊んでいるときの脳の働きを比較したところ、ボードゲームで遊んでいるときのほうが、前頭葉(前頭前野はこの領域に含まれる)の脳血流量が増加し、活性化していると明らかになったそう。先を読もうとすることや、対面のコミュニケーションが鍵とのこと。休日に家族や友人と楽しんでみてはいかがでしょう。
*** 脳の前頭前野が活動を低下させているときに起こりうる弊害と、前頭前野を活性化する方法を紹介しました。
1.よく噛む 2.短時間の軽い運動 3.休憩(情報をシャットアウト) 4.紙の辞書を使って調べる 5.アナログなゲームで遊ぶ
これらの活動で、前頭前野を元気にして仕事の生産性を高めてくださいね。
(参考) Medical University of Vienna|Risk or safety: Neuronal activity in the brain permits prediction of intuitive decisions Neuron| Activity of PrefrontalNeurons Predict Future Choices during Gambling THE21オンライン|脳科学者が教える「記憶の作業台」の整理法 シオノギヘルスケア|噛むと脳が活性化|元気をつくる!噛んで健康|WELL噛む! PR TIMES|マテル・インターナショナル株式会社のプレスリリース|スマホ時代に激震!これからはスマホゲームよりボードゲームを買うべき!?ボードゲームは“脳の司令塔”である前頭葉を活性化 東洋経済オンライン|スマホが脳の発達に与える無視できない影響 筑波大学|お知らせ・情報|注目の研究|短時間の軽運動で記憶力が高まる! ~ヒトの海馬の記憶システムが活性化されることを初めて実証~ ビジネス哲学研究会著, 編集(2013),『逆境こそチャンスなり! 心を強くする名指導者の言葉』, PHP研究所.