
子どもの頃、虫を追いかけたり、図鑑を夢中でめくったり、「なんで空は青いの?」が止まらなかった。あの頃は、誰に言われるでもなく、ただ「知りたい」という気持ちだけで、何時間でも集中できました。
でも、いつからか学びは「やらなきゃいけないこと」に変わってしまった。「リスキリング」を始めたものの、モチベーションが続かない。知識を積み上げても成果を感じられず、気づけば疲れてしまっている。
その原因は、あなたの努力が足りないからではありません。子どもの頃に持っていた「好奇心」を、どこかで置き忘れてしまったからです。本記事では、好奇心があるとどれだけ学びが変わるのか、そしてあの頃の「知りたい!」という気持ちを取り戻す方法を紹介します。
好奇心があると、学びが劇的に変わる
「好奇心が大事なのはわかる。でも、それって気持ちの問題じゃないの?」
実は違うんです。好奇心があるかどうかで、学習の効果が科学的に変わることがわかっています。
① 記憶の定着率が30〜40%も上がる
カリフォルニア大学の研究では、好奇心が高い状態で学んだ情報は、そうでない状態と比べて記憶の定着率が30〜40%も高いことが明らかになっています。*1
同じ1時間を勉強に使っても、「やらなきゃ」と思いながらやるのと、「知りたい!」と思ってやるのでは、頭に残る量がまったく違うんです。
しかも面白いのは、好奇心が高まっている時は、興味のない情報まで一緒に覚えやすくなること。これを「副次的学習効果」と言います。ワクワクしている時は、脳が学習モードになっているんですね。
② 学習が「快感」になる
好奇心が刺激されると、脳内でドーパミンが分泌されます。これは、報酬系と呼ばれる脳の仕組みが働いている証拠。*1
つまり、好奇心があると学ぶこと自体が気持ちよくなるんです。ゲームで新しいステージに進むときのワクワク感や、謎が解けた時の「あ!」という快感。あれと同じことが、学習中に起きているわけです。
一方、「やらなきゃ」という義務感だけで学んでいると、この報酬系は働きません。だから疲れるし、続かない。
③ 知識が「使える知識」になる
心理学の研究では、好奇心駆動型の学習は、テスト対策型の学習と比べて長期的な知識保持率が高く、異なる文脈への応用力も優れていることが示されています。*3
「テストのために暗記したけど、すぐ忘れた」という経験、ありませんか?それは、好奇心なしで詰め込んだ知識だから。
でも、「面白い!」と思って学んだことは、何年経っても覚えていて、しかも別の場面で「あ、あれ使える!」とつながります。
つまり、好奇心は単なる「やる気」の問題ではなく、学習の質そのものを変えるエンジン。「じゃあ、どうやってその好奇心を取り戻せばいいの?」ご安心ください。明日から使える方法を、これから紹介します。

好奇心を取り戻す4つの習慣(初級編)
特別な準備はいりません。日常の中で、ちょっとした工夫をするだけです。
① 「あれ?」を拾う習慣
通勤中の広告、同僚の業界用語、ニュースの聞き慣れない言葉。日常の小さな「あれ?」をスマホのメモにサッと残しておくだけでOK。
後で「これ気になってたやつだ」と思い出せます。この小さな「あれ?」が学びの種になります。
② 短時間で人に話してみる
学んだことを誰かに1〜2分話してみましょう。説明しようとすると「ここよくわかってないな」と気づき、「もう少し調べよう」という気持ちが湧いてきます。
実は、自分の考えを他者に伝える行為そのものが脳の報酬系を活性化させることが研究でわかっています。*2
③ 未知のジャンルを1割だけ混ぜる
いつもの学習に、ちょっと違う分野を少しだけ加えてみましょう。マーケティングを学ぶなら「行動経済学」の動画を1本、プログラミングなら「デザイン思考」の記事を読む。
この「分野の1割ミックス」が、「あ、ここつながってる!」という新しい発見を生みます。
④ 保留メモを持つ
調べきれなかった疑問は、すぐに解決しようとせず「保留メモ」に残しておきましょう。哲学者フッサールの「エポケー(判断の保留)」*4 という考え方にも通じます。
後日、関連情報に触れたとき「これ前に気になってたことだ!」とつながる瞬間は、本当に気持ちいいですよ。

好奇心を持続させる4つのコツ(上級編)
初級編で好奇心が戻ってきたら、次はそれを長く続けるための工夫です。
① 全体像をまず押さえる
いきなり専門書を開くと「自分はどこにいるのか」が見えなくなります。YouTubeの解説動画や入門書で、まず「全体像」をつかみましょう。
地図を持たずに森に入ると迷子になりますが、地図があれば安心して進めます。
② 仮説を保留する力
「たぶん、こうだと思う」という仮説が浮かんだとき、すぐに結論を出さず数日間寝かせてみましょう。時間を置くと、別の視点から見えてくることがあります。
心理学では、不確実性を受け入れる力がある人ほど、創造的な思考ができることが示されています。*5
③ やり方を自分で選ぶ
「資格を取れ」と言われても、そのまま「やらされている」と思うとやる気は出ません。「この分野を理解したいから、資格を通して学ぶ」と自分の目的に変換しましょう。
自分で選んだと感じるだけで、モチベーションの質が変わることが研究でわかっています。*6
④ 失敗ログから成長を可視化する
うまくいかなかったことを「失敗ノート」に記録しておきましょう。
数週間後に見返すと、「あれ、今はできてる」と自分の成長に気づけます。成長の実感は、最高のモチベーションです。
ポイントは「完璧を求める」より「プロセスを楽しむ」こと。好奇心は、正解探しではなく、発見のプロセスを味わえるかどうかで決まります。
| 好奇心を取り戻すコツ(初級編) | 好奇心を持続させるコツ(上級編) |
|---|---|
| ① 「あれ?」を拾う習慣 | ① 全体像をまず押さえる |
| ② 短時間で人に話してみる | ② 仮説を保留する力 |
| ③ 未知のジャンルを1割だけ混ぜる | ③ やり方を自分で選ぶ |
| ④ 保留メモを持つ | ④ 失敗ログから成長を可視化する |

リスキリングを続けるために
リスキリングの目的は、知識を積み上げることではありません。変化に対応できる「思考の柔軟性」を育てることです。そして、その柔軟性を生み出すのが「好奇心」。
好奇心があると、科学的にこんな効果があります
- 記憶の定着率が30〜40%向上する
- 学習そのものが気持ちよくなる
- 知識が「使える知識」になる
子どもの頃のように、「知りたい!」「面白い!」と思えたら、学びは続きます。義務感で無理やり続けるより、ずっと楽で、ずっと効果的です。
今日、ひとつだけ「あれ?」を探してみてください。通勤中の広告でも、ニュースの見出しでも、何でもいい。そこから、あなたの次の学びが始まります。
好奇心をエンジンにすれば、学びは義務から解放され、キャリアも人生も自然とアップデートされていきます。
毎日の小さな「あれ?」を大切に、ぜひ探求を楽しんでください。
*1: Gruber et al. (2014) "States of curiosity modulate hippocampus-dependent learning via the dopaminergic circuit"|Neuron
*2: Tamir et al. (2012) "Disclosing information about the self is intrinsically rewarding"|自己に関する情報を開示することは本質的にやりがいのあるものです - PubMed
*3: Long-term retention and transfer effects of curiosity-driven learning - Research in educational psychology
*4: Wikipedia|エポケー
*5: Kornilova, T. V., & Kornilov, S. A. (2010). Intelligence and tolerance/intolerance for uncertainty as predictors of creativity. In Creativity, Personality, and Education (pp. 65–86). Moscow University Press.|1683_blok.pdf
*6: Ryan & Deci (2000) "Self-Determination Theory and the Facilitation of Intrinsic Motivation, Social Development, and Well-Being"|selfdeterminationtheory.org
橋本麻理香
大学では経営学を専攻。13年間の演劇経験から非言語コミュニケーションの知見があり、仕事での信頼関係の構築に役立てている。思考法や勉強法への関心が高く、最近はシステム思考を取り入れ、多角的な視点で仕事や勉強における課題を根本から解決している。