「この上司と話すと元気が出る」と言われる人に共通する、たった1つの力

安田さん

シリコンバレーのIT企業からはじまり、ここ日本でも2010年代半ば以降から徐々に浸透してきたのが「1on1ミーティング」です。しかし、複数の外資系企業で主に人事畑を歩んできた安田雅彦さんの目には、「日本企業における1o1ミーティングの多くは形骸化している」と映っているそうです。そもそも、1on1ミーティングはなんのために行なうものなのか、その目的と効果的な実践方法を教えてもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

【プロフィール】
安田雅彦(やすだ・まさひこ)
1967年生まれ、愛知県出身。株式会社We Are The People代表取締役、株式会社フライヤー社外取締役、ソーシャル経済メディア「NewsPicks」プロピッカー。1989年に南山大学卒業後、西友にて人事採用・教育訓練を担当、子会社出向の後に同社を退職し、2001年よりグッチグループジャパン(現ケリングジャパン)にて人事企画・能力開発・事業部担当人事など人事部門全般を経験。2008年からはジョンソン・エンド・ジョンソンにてSenior HR Business Partnerを務め、組織人事や人事制度改訂・導入、Talent Managementのフレーム運用、M&Aなどをリードした。2013年にアストラゼネカへ転じた後に、2015年5月よりラッシュジャパンにてHead of People(人事統括責任者・人事部長)を務める。2021年7月末日をもって同社を退職し、自ら起業した株式会社We Are The Peopleでの事業に専念。現在、約30社のHRアドバイザー(人事顧問)を務める。著書に『自分の価値のつくりかた』(フォレスト出版)がある。

部下のモチベーションやエンゲージメントの状態を確認する

仕事におけるあらゆる業務には、必ずなんらかの目的が存在します。しかし、「1on1ミーティング」に関して見ると、日本は海外に比べ導入されてからまだ歴史が浅いということもあり、「なんとなく」形式的に行なわれているケースも目につきます。

私も、「会社からやれと言われているから」「1on1ってやらなきゃいけないんですかね?」「どうやったらいいかわからないんですよ」といった言葉を多くの人から聞いています。目的そのものを把握していないのですから効果を実感することもないでしょうし、「やらなければいけないの?」「面倒だ」という気持ちをもってしまうのも当然です。

では、1on1ミーティングの目的とはなんでしょうか? ひとつは、私が「キャッチアップ」と呼ぶ、部下の「ご機嫌チェック」のようなものです。とはいっても、部下の機嫌をとろうというものではありません。英語では「How are you?」にあたりますが、「どんな感じ?」といったかたちで部下のモチベーションやエンゲージメント(従業員が組織や仕事に対して持つ愛着/端的にいえば「頑張ろう」という熱意)の状態を確認するのです。併せて、直近の業務進捗の確認やフィードバックも行ないます。

ご機嫌チェックの1on1ミーティングは、たとえば隔週で1回15分など、短時間かつ高頻度で行います。なぜなら、モチベーションやエンゲージメントの低下につながる悩みを部下が抱えていたり、心身のコンディションが悪化していたりすれば、パフォーマンスを発揮しづらくなることは明白だからです。部下の心身の状態は絶えずチェックしなければなりません。

もしそういった問題が生じていたら、マネージャーは対策を打つ必要があります。たとえば、部下が無理をして出勤しなければならない環境をつくらないことを最優先するべきですし、「出るなら働く、働けないなら休む」というスタンスを明示し、部下が必要に応じて出退勤を決められるような配慮をすることも必要でしょう。

このご機嫌チェックにおいては、「どんな感じ?」「最近どう?」といった言葉に対し、本音で答えてもらえないことも考えられるでしょう。ですから、言葉では「元気ですよ」「問題ないです」と答えたとしても、表情や声色といった非言語コミュニケーションに変化がないかといったことにも注意してください。もちろん、素直に本音を明かしてくれるに越したことはないですから、日頃からの関係性構築が重要です。

上司と部下の1on1

部下の将来像と目の前の仕事をつなげる

1on1ミーティングのもうひとつの目的は、共有している目標管理シートといったものをベースにして、今期中にやるべきことが順調に進んでいるかを確認することです。いわゆる、「パフォーマンスレビュー」です。

だいたい四半期、あるいは半期に1回程度のペースで、メンバーが出すべき成果に対してモチベーションをキープし、求められるレベルでのパフォーマンスを発揮できるようにするために行ないます。パフォーマンスレビューについては多くの会社で行われていることですから、ここではとくに詳細は述べません。

それよりも私が重要だと考えるのが、「キャリアカンバセーション」と呼ばれる1on1ミーティングです。これは、マネージャーと部下がお互いの理解を深めながら部下のキャリア意識を育んでいくための対話です。パフォーマンスレビューと併せて行ないますが、ペースとしては1年に1回程度で構いません。

ちょっと砕けた表現になりますが、たとえばこんな具合です。

上司:いま何歳になったんだっけ?
部下:34になりました。
上司:俺が転職した年だな。40歳くらいになったとき、どういう自分を想像してる?
部下:人事のキャリアしかないので、営業もやってみたいとは思っています。
上司:だったら、やっぱり今回の営業部とコラボする社内制度づくりには参加したほうがよさそうだね。得られるものもきっと大きいはずだよ。

つまり、部下がもつ将来像に対して、「こういうことをやったらそこにつながる、貢献できる」という中長期的な目標や成長機会を示すのです。「目の前の仕事」と「将来やりたいこと」のあいだに道筋が見えたら、その部下のモチベーションは確実に高まります。もちろん、マネージャーがいつでも絶対的な正解を示せるわけではありませんが、少なくとも過去の経験からヒントやひとつの提案といったものは示すことができるはずです

1on1ミーティング

これからの上司に求められるのは「人間力」

このことに関連することでいうと、やや余談めいた話にもなりますが、今後のマネージャーは「人間力」をこれまで以上に磨いていくことも不可欠だと考えます。

「なぜ上司は上司なのか」という理由を挙げるなら、ひとつは組織図に書かれているからです。あたりまえのことですが、上司は会社からの任を受けて上司という役職をやっているわけです。

もうひとつは、上司のほうが仕事を知っているからという理由です。上司との会話を通じて部下は、自分が知らなかったことを理解したり見識を得たりできます。ところが、このことについては、AIで一定のリーチができるという世界になりました。

先に「マネージャーが絶対的な正解を示せるわけではない」と述べました。もちろんAIが示すのも「正解らしきもの」であることは変わりませんが、「上司よりAIに聞いたほうがいい」と部下に思われてしまっては、上司は上司である存在意義を失ってしまうのです。

だからこそ、「自分も上司のようになりたい」「上司と話しているだけでなぜか元気が出る」といったふうに部下に思われる人間力が、これからのマネージャーには強く求められるのではないでしょうか。

安田さん

【安田雅彦さん ほかのインタビュー記事はこちら】
日本の上司が知らない「世界基準の叱り方」。なぜ “その一言” で、部下は動かなくなるのか?
凹む・調子に乗る・言い返す――よくいる3タイプの部下への世界標準フィードバック(※近日公開)

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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