「やっぱり三日坊主になっちゃった...」
深夜、スマホを見つめながら、小さくため息をつく。
新年の目標だった英語学習アプリは3日で止まり、健康のために始めたストレッチも気づけばやらなくなり、「今度こそ継続しよう」と決めた資格勉強も一週間が限界だった—。
「モチベーションが続かない自分に嫌気がさす」「なぜいつも三日坊主で終わってしまうのか」
そんな自己嫌悪感に苦しむビジネスパーソンは少なくありません。しかし、落ち込む必要はありません。三日坊主になってしまうのは、意思が弱いからではなく、脳の仕組みとして自然なことなのです。
じつは「継続力」よりも重要なのは「再開力」—つまり、途切れても何度でも再スタートできる仕組みを持つこと。
本記事では、脳科学の知見に基づいて、三日坊主を克服し、継続力を高めるための具体的な再開方法を、実践例を交えて紹介します。
「三日坊主」は悪くない
「どうせ三日坊主になるし……」という理由で、新しいことへの挑戦をためらった経験はありませんか? 多くの人が「三日坊主」をネガティブなものとして捉えていますが、脳科学的に見ると、これは私たちの脳の自然な反応なのです。
公立諏訪東京理科大学工学部教授で脳科学者の篠原菊紀氏は、「やる気をつかさどるドーパミン神経系も、モチベーションの継続に不可欠な脳の『線条体』の活動も、チャレンジを開始した当日から2日目には低下し、3日目にはさらに低下」すると述べています。*1
つまり、始めたばかりの頃は「新しい刺激」として脳が活性化するものの、3日もすれば脳は順応して活動レベルが落ち着いてしまうのです。「三日坊主」になるのは、怠けているからでも我慢が足りないからでもなく、私たちの脳が本来持っている自然な反応だと理解すれば、自分を責める必要がないことがわかります。
【脳科学から見た「三日坊主」の真実】
- 最初の数日間は「新しい刺激」として脳が活性化する
- 3日目頃には脳の活動が自然と落ち着いてくる
- これは怠け心や意志の弱さではなく、脳の生理的な仕組み
では、脳のこうした特性を理解したうえで、どのように新しい習慣を身につければよいのでしょうか? 重要なのは発想の転換です。
「一度始めたら絶対にやめずに続ける」という完璧主義的な考え方ではなく、「一度中断しても何度でも再開する」という柔軟な姿勢を持つことが大切です。
一度中断しても
何度でも再開する
する
一度始めた活動が途切れてしまっても、そこであきらめるのではなく、再びスタートする。このサイクルをコンスタントに繰り返すことで、長期的に見れば結果として継続していることになります。「継続は力なり」ではなく「再開は力なり」なのです。
とはいえ、何度も再開するというのもなかなか難しいものですよね。次項では、再開しやすくするためにいまから実践できる具体的なアクションを3つ紹介します。
「何度でも再開する」ための3つのアクション
多忙なビジネスパーソンにとって、新しい習慣を「継続する」ことは想像以上に難しいものです。しかし、重要なのは最初から完璧に続けることではなく、「再開しやすくする仕組み」を取り入れておくこと。三日坊主になってしまっても、スムーズに再開できれば、結果として継続したのと同じ効果が得られます。
1. 「何日続いたか」より「再開回数」を記録する
「再開しても、また途中で挫折するかも……」このように感じると、再開しようという気持ちがしぼんでしまいますよね。
これは「何日間連続で続けられたか」という従来の継続基準に縛られているために引き起こされる感情です。そこで発想を転換し、続いた日数ではなく、「再開回数」にフォーカスしてみましょう。具体的には、習慣トラッカーや手帳に、再開した日を○で記録するだけ。
継続日数ではなく「再開回数」にフォーカスすることで、自分の「立て直し力」という新たな強みに目を向けられるようになります。カレンダーに○印が増えていくことで「忙しくても、これだけ再開できたんだ!」と成功体験として認識できるようになり、自己効力感が高まるのです。
このように「成功体験を記録すること」には、行動を継続しやすくなる効果があることが脳科学的にわかっています。
脳神経外科医の菅原道仁氏は、「『成功体験』をしたとき、ドーパミンが出ることがわかって」おり、「脳は『またその状態になりたい』と思い、脳の中で、その行動にまつわる部位の働きを活性化させようと」すると説明しています。*2
同じ行動でも「連続何日続いたか」という基準だと挫折感を味わいがちですが、「何回再開できたか」という基準なら成功体験として積み重ねられます。特に三日坊主になりがちな習慣こそ、この方法を試してみる価値があります。
2. 戻ってきたときのために、メモを残す
「再開しようと思ったものの、前回どこまで進んだか思い出すのが面倒……」
このような再開時の「スタートアップコスト」が、再開を阻む大きな障壁になっていることがあります。これを解消するために効果的なのが、「未来の自分へのメモ」を残しておくという習慣です。たとえば「この本は3章まで読んだ」「次はここから復習」などと、付箋やノートの隅に書き残しておくのです。
これはいわば、未来の自分への引き継ぎ。仕事で同僚に引き継ぎをするのと同じように、自分自身が再スタートしやすい状態を整えておくことで、迷いや躊躇が減り、スムーズに活動を再開できます。
『やる気に頼らず「すぐやる人」になる37のコツ』の著者で、先延ばし防止の専門家である大平信孝氏も、リモートワークで集中するコツとして、「在宅勤務中に宅配便の受け取りなどで作業を中断せざるを得ないとき、何の仕事が途中だったのかを付箋に書き残してお」くことをすすめています。「机に戻ってきた未来の自分が、何から手を付けるべきか迷うのを防」ぐことができ、集中力を維持できるのです。*3
現在何をしていて、次に何をすればいいのかを書き残しておくことは、再開しやすくする効果的な方法なのです。
3. 「リスタートアクション」を決めておく
習慣を再開しようとするとき、「きちんと時間をとって本格的に取り組まなければ」という完璧主義が、かえって行動の障壁になることがあります。特に完璧主義傾向のある人ほど、この「すべてかゼロか」の思考に陥りやすいものです。
それを防ぐのに最適なのが、「リスタートアクション」の設定です。リスタートアクションとは、再開初日に行なうシンプルな行動のことで、以下のような例が考えられます。
リスタートアクションの例:
- 「勉強ファイルを開くだけ」
- 「3分間だけ取り組む」
- 「1ページだけ読む」
- 「音声教材を1分だけ聞く」
ポイントは、「これをするだけでOK」と自分に許可することです。つい「せっかく再開したのだから、あれもこれも……」と一気に頑張りたくなるかもしれませんが、それが負担になるのなら本末転倒。初日から完璧に取り組もうとするのではなく、「まず再開すること」自体を成功と定義するのです。簡単にできるアクションをあらかじめ用意しておくことで、「完璧にこなす」よりも「まず戻る」を優先できるようになります。
筆者は、最近サボりがちな中国語の勉強を再開したいと考えています。そこで、「スマホに入れた単語帳の音源を1分だけ聞き流す」という行動をリスタートアクションに設定しました。
実践してみて感じた大きなメリットは、「勉強を再開するのはそんなに大変じゃない」と意識付けられたこと。リスタートアクションは簡単なので、あっさりクリアすることができます。「こんなに楽にできるなら、もう少しやってみようかな」とやる気が出てきて、スムーズに勉強を再開することができました。
また、リスタートアクションもメモしておくと再開しやすいと感じたため、2で紹介した「戻ってきたときのために、メモを残す」のアクションにプラスするといいでしょう。
***
再開できる人は、意志が強いのではなく、「軽やかに再開する工夫」が上手なのです。
だからこそ、継続したい習慣があるなら、最初に「戻り方」も一緒に決めておきましょう。それが、「続けられる人」への最短ルートになります。
*1 日経Gooday|ダイエットは「三日坊主を前提」にするのが正しい?
*2 プレジデントオンライン|1日20回、布団の中で唱えるだけ…脳神経外科医が教える「本当に頭のいい人」が毎晩やっていること
*3 PHPオンライン|専門家が教える「先延ばしする人」「すぐやる人」で分かれる脳の使い方
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。