心理学において「自分自身を過剰に愛し、特別な存在だと思い込みがちな人」を意味する「ナルシスト」に対し、好意的な印象をもつ人は少数派でしょう。多くの人は、ネガティブな印象をもつはずです。書籍『職場のヤバい奴の頭の中』(東洋経済新報社)の著者である心理学者の内藤誼人先生も、「ナルシストは組織に多くの悪影響を及ぼす」と語ります。そのようなナルシストとは、どのように付き合えばいいのでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学客員教授、有限会社アンギルド代表取締役社長。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。社会心理学の知見をベースにした心理学の応用に注力する心理学系アクティビスト。とりわけ「自分の望む人生を手に入れる」ための実践的なアドバイスに定評がある。『科学的根拠でストレスリセット 見るだけノート』(宝島社)、『戦略的に24時間を自分のために使う 大人の時間術』(総合法令出版)、『仕事に使えるビジネス心理学ベスト88』(廣済堂出版)、『くよくよしたら手を洗おう。』(主婦の友社)、『いいことが起こる人の習慣』(PHP研究所)など著書多数。
承認欲求が異様に高く見栄っ張りのナルシスト
十人十色という言葉をもち出すまでもなく、人の価値観や嗜好、そして性格は人それぞれに異なります。なかには、このご時世にもハラスメントをする人や他人に責任転嫁をする人など、いわば「ヤバい人」もいます。そうした人は、心理学において「ダーク・トライアド」と呼ばれ、次の3つのタイプに分けられます。
- サイコパス(精神病質の人・共感性に欠ける)→他人を意図的に傷つける
- ナルシスト(自己陶酔型の人)→自己中心的で周囲を見下す
- マキャベリスト(目的のためなら、道徳も倫理も無視できる人)→陰で人を操る
前回の記事では、3つのタイプのうち「サイコパス」の見極め方やその対処法について解説しました(『あなたの職場にもいる!? 心理学者が教える「サイコパス人間」の見抜き方と対処法』参照)。今回は、2つめの「ナルシスト」との付き合い方を紹介しましょう。
ナルシストは、「自分自身を過剰に愛し、特別な存在だと思い込みがちな人」を指します。その特徴はいろいろとあるのですが、主なものとしては「承認欲求が異様に高い」「見栄っ張り」「自己顕示欲が高い」といったことが挙げられます。
このことからもわかるかもしれませんが、SNSが広く普及しているいまは、ナルシストが増加傾向にあります。また、SNSの影響を抜きにしても、いまはナルシストが増えていると見ていいでしょう。
かつての農業社会であれば、多くの人がお互いに協力しなければ暮らしを営むことは困難でした。しかし、テクノロジーの発達によって社会構造が大きく変化し、直接的な関わりがある周囲の人と協力しなくとも生きていける時代になったからです。
もちろん最低限の人づき合いは必要かもしれませんが、パソコン1台あればプログラマーやデザイナーとして働くこともできるでしょうし、商売をするにもネットショップで仕入れ・販売・発送まで個人で完結することも可能となっています。そうして、ナルシストが増加する環境が整っているのが現代社会なのです。
ナルシストによって、周囲は疲れてしまう
先にSNSについて触れましたが、相手がナルシストかどうかも、SNSを通じて判別できます。チリ教皇庁カトリック大学の調査により、ナルシストの度合いが高い人ほどSNSでの自撮り投稿回数が多いことがわかりました。
「この人、いつも自分の写真をSNSに投稿しているな」と思うようなら、その人はナルシストである可能性が高いでしょう。逆に、自分の写真ではなく風景やペットなどの写真を多く投稿する人は、ナルシストではないと言えます。
あるいは、その人の写真が、加工・修正されているかどうかも判別ポイントです。オハイオ州立大学のジェシー・フォックス准教授の調査では、ナルシストであるほどSNSに投稿する自撮り写真に加工・修正をしていることがわかっています。自撮り写真が多いうえに、「あれ? 実際の顔じゃないな」という違和感を覚えるようなら、その人がナルシストである可能性はさらに高いと言っていいかもしれません。
そういったナルシストが職場にいる場合、周囲には多くの悪影響が及びます。というのも、ナルシストは、チームやグループでの行動を苦手としているからです。
ナルシストは、周囲からはただのわがままや理不尽に映ることであっても「自分なら許される」と根拠なく考えますし、自己評価が高すぎるがゆえに独断で無謀なチャレンジをしてしまうこともあります。結果として、周囲の人はナルシストに振り回され、シンプルに言えば疲れてしまうのです。
「ほめて受け流す」が対処法の基本
そのようなナルシストとうまく付き合っていくには、とにかく「ほめる」ということに尽きます。
ナルシストであるのは、決して悪いことばかりではありません。私たちは、他人のために本気を出して頑張ろうという気持ちにはなかなかなりませんが、自分自身のためであれば全力で取り組めます。そして、ナルシストは、自分が大好きであるがゆえに、自分自身のためなら普通の人の2倍も3倍も頑張ることができる一面ももっているのです。
ですから、もしみなさんの部下がナルシストであるなら、それこそほめ倒してあげてください。「あなたなら、いまの2倍の仕事だってこなせるんじゃない?」といった具合に、自尊心をくすぐるようなことを言ってあげれば、部下のモチベーションはぐっと高まってバリバリと仕事をこなしてくれるはずです。
もし上司がナルシストである場合には、ほめることのほかに「受け流す」のも手です。「自慢話が多い」というのは、いつの時代でも「嫌われる上司」がもつ特徴のひとつですが、「この人は、もともとそういう人なんだ」と思っていれば、仮にマウントをとられたとしても気にならなくなります。
自慢話をされて「いつもいつも、ほんといい加減にしてほしいよ……」と真っ向から受け止めようとするから強いストレスを感じるのであり、「はいはい、またいつものやつが始まったな」と受け流すことができれば、心理的なダメージを大きく軽減できます。
【内藤誼人先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。