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あなたなら、どちらの映画を見たいと思いますか?
ふたつの文章の意味は同じですが、受けとる印象は違うのではないでしょうか。
このように、伝え方で印象が変わることを「フレーミング効果」と言います。
「謳い文句にひかれて衝動買いした」
「資格試験の合格率の低さを見て諦めてしまった」
といったように、フレーミング効果は選択や意思決定に大きく関係しています。
そこで本記事では、フレーミング効果が起こる理由や対策方法を解説します。
合理的な選択をするために、ぜひ参考にしてください。
言い回しで印象が変わる「フレーミング効果」
フレーミング効果は、1979年に心理学者の故ダニエル・カーネマン氏と故エイモス・トヴェルスキー氏が提唱しました。
言い回しによって印象が変わり、物事の認識や選択に影響を与える現象です。
言い回しによって印象が変わり、物事の認識や選択に影響を与える現象
フレーミング効果は、日常のさまざまな場面で見られます。
いくつか例をご紹介しましょう。
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臨床試験で「薬の効果が80%の患者に認められた」
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保険の説明で「99%の人が補償を受けられます」と強調されている
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企業広告で「売上前年比120%を達成」と打ち出している
一見すると「いい話」に思えるかもしれません。
しかし、心理学者のシンシア・ヴィニー氏は「人は情報の一つの表現しか見ていないため、それだけが全てだと認識」してしまうリスクを指摘しています。*1
つまり、ポジティブな言い方をされると、私たちはそれを「いいもの」として受け入れてしまいやすいのです。
先ほどの例も、視点を変えると印象が変わって見えます。
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「効果が80%」→ 20%には効果がなかった
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「99%が補償対象」→ 1%は対象外=その“1%”に自分が含まれる可能性もある
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「売上前年比120%」→ ただし、前期の売上が低かった場合は見かけ上の成長にすぎない
物事の一部しか見えない状態で決断をしてしまうと、損をしたりチャンスを逃したりする可能性があります。
フレーミング効果に惑わされず、様々な側面から判断することで合理的な意思決定ができるでしょう。
フレーミング効果が起こる理由
カーネマン氏とトヴェルスキー氏は、フレーミング効果が起こる理由を「プロスペクト理論」によって説明しています。
プロスペクト理論は「確実な利益が得られる場合はリスク回避を、損失が出る場合はリスク追及をする」という人間の損得勘定と意思決定に関する理論です。*2
具体例で考えてみましょう。次のAとBなら、あなたはどちらを選びますか?
A:50%の確率で1万円がもらえる
B:100%の確率で5千円がもらえる
多くの人は、確実に5千円がもらえるBを選ぶのではないでしょうか。
これは「確実な利益が得られる場合はリスク回避をする」というプロスペクト理論の傾向を表しています。
それでは、次のCとDなら、どちらを選ぶでしょうか。
C:50%の確率で1万円を失う
D:100%の確率で5千円を失う
この場合は、Cを選ぶ人が多いはず。
「リスクをとってでも損失を減らしたい」という心理が働くのです。
つまり私たちは「損をしたくない」という感情によって、意思決定が揺らぐ傾向にあります。
フレーミング効果は、この損得勘定によって引き起こされているのです。
しかし単なる心理効果ではなく、脳の働きとしてもフレーミング効果が確認されています。
イギリスで行われた実験では、被験者に対し「30ドルのギャンブルに参加するかどうか」という選択をふたつの方法で問いかけ、脳の活動を測定しました。*2
- あなたは50ドル持っています。確実に20ドル保持しますか?
- あなたは50ドル持っています。確実に30ドル失いますか?
その結果、損失を強調した2の「確実に30ドル失いますか?」という聞き方をしたときに、感情をつかさどる偏桃体が活性化したのです。
1の聞き方をしたときよりも多くの人が不快な感情を覚え、「リスクをとってギャンブルをする」と回答する傾向が強まったといいます。*2
このことから脳には「損をしたくない」という感情によって、論理的な思考が鈍る性質があるとわかります。
フレーミング効果は、脳内で感情と理性のバランスが崩れたときに起こっているのです。
フレーミング効果に惑わされないために
アメリカの心理学者ディロン・ハーパー氏は、フレーミング効果を理解していることで「私たちはより思慮深くなり、実際には自分の利益にならない決定につながるような策略に陥る可能性が低く」なると述べています。*1
ビジネスや日常にかかわらず、意思決定の場でフレーミング効果に注意することは大切ですが、慣れないうちは「気づくのが難しい」「対処方法がわからない」といった困りごとも起こるでしょう。
そこで、ここからは冷静に的確な意思決定をするための思考習慣を、ふたつご紹介します。
1. 意思決定を記録する
前出のカーネマン氏は、フレーミング効果対策として「意思決定ノート」をつけることをすすめています。
意思決定の記録をつけることで「自分が自分に語っている物語の不完全さをよりよく理解できるようになる」と言います。*3
つまり、自分の意思決定を書き出して客観的に見返すと、認識の偏りに気づきやすくなるということです。
意思決定や思考術に関する著書をもつシェーン・パリッシュ氏が運営するサイト「ファーナム・ストリート」では、意思決定ノートに書くべき内容が挙げられています。
- 状況や問題
- 選択の結果、何が起こるか
- 検討された代替案と、それが選ばれなかった理由
- 何が起こると予想するか、それぞれの予測される結果に割り当てる理由と実際の確率を説明する段落 (信頼度が非常に重要)
- 決断を下す時間帯と、身体的および精神的な気分(疲れていた・急いでいたなど)
*4を参考に筆者がまとめた
重要な意思決定をするときや決断に迷ったときは、ノートに書いてみると冷静になれそうです。
フレーミング効果に気づきやすくなるだけでなく、別の案も検討しながら合理的な判断ができるでしょう。
2. 別の表現に置き換える
カーネマン氏は「リフレーム(再構成)」も有効だとしています。*3
やり方は、言い方を変えるだけ。
たとえば「成功率80%」と聞いたら、「“20%の確率で失敗する” と表現したらどうだろう?」と別の言い方を考えるのです。
ほかの言い方を考えるだけで別の視点が入り、認識の偏りを修正しやすくなるはずです。
また、一度立ち止まって考えれば、フレーミング効果で引き起こされる偏った認識のままに判断してしまうことも減らせるでしょう。
***
フレーミング効果を知り、気づけるようになることで合理的な意思決定につながります。ビジネスや日常で何かを決断する時は、ぜひ身の回りの「伝え方」に注意を払ってみてください。
※引用の太字は編集部が施した
*1 verywell mind|The Framing Effect: How Perception Shapes Decision-Making
*2 Daniel Kahneman, Amos Tversky (1979), “Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk,” Econometrica, Vol.47, No.2, 99.263-292.
*3 Fast Company|Daniel Kahneman’s Advice For Strengthening Your Decision-Making Skills
*4 Farnam Street|Decision Journal: Template and Example Included
藤真唯
大学では日本古典文学を専攻。現在も古典文学や近代文学を読み勉強中。効率のよい学び方にも関心が高く、日々情報収集に努めている。ライターとしては、仕事術・コミュニケーション術に関する執筆経験が豊富。丁寧なリサーチに基づいて分かりやすく伝えることを得意とする。