プレイングマネージャーとは? 良いプレマネ・悪いプレマネの違いを解説

プレイングマネージャーとは1

プレイングマネージャーという役職は、かなり一般的になりました。文字どおり「プレイヤー」と「マネージャー」の役割を兼任するプレイングマネジャーは、現場を動かす枢軸として、とても重宝される存在です。

読者の皆さんにも、現場のスタッフとして働きながら指導役を担っていたり、自分は管理職でありながら現場に立っていたりする方はいるはず。成果へのプレッシャーに追われ、プレイヤーとマネージャーの両立に疲弊し、多すぎる業務量に頭を抱えていませんか?

今回は、プレイングマネージャーとして仕事でうまく立ち回るコツや、部下をマネジメントする極意を学んでいきましょう。

プレイングマネージャーとは

プレイングマネージャーとは、プレイヤーの一人として現場に立つと同時に、管理職の仕事も担うポジションのこと。近年では、現場のスタッフにマネジメント業務を兼任させることが珍しくなくなっており、プレイングマネージャーが増加しつつあります。

飲食店でいうなら、ホールスタッフとして接客業務を行ないながら、ほかのスタッフの指導やシフトの管理などもこなす、店長や現場マネージャーにあたる存在。あるいは、プロ野球などでまれに「選手兼任監督」としてベンチ入りするケースがありますが(元ヤクルトスワローズの古田敦也さんなど)、これも広い意味ではプレイングマネージャーといえるでしょう。

プレイングマネージャーは、現場とマネジメントという両方の視点をもたねばならないぶん、忙しいうえ、難度の高いポジションです。マネージャーとしての役割に没頭しすぎると現場がおろそかになる一方、現場の仕事に追われているとマネジメント業務が進まないので、プレイングマネージャーとしての仕事を全うするには、バランス感覚と広い視野が必要になります。

プレイングマネージャーとは2

プレイングマネージャーが増えた背景

人材コンサルタントの前川孝雄氏によると、プレイングマネージャーという役職が普及したキッカケは、1990年代初頭のバブル崩壊だそう。

バブル崩壊以前、現場に立つプレイヤーと、現場を管理するマネージャーの役割は、比較的きっちりと分担されていました。たとえば、営業部の部長だと、自分は現場に行かず、部下の指導や部内の管理に専念するのが一般的でした。

しかし、バブルがはじけて不景気になると、人件費削減のため、現場スタッフにマネジメント業務を任せる企業が増加。プレイヤーと別に部長職を設けるのではなく、優秀な現場スタッフをプレイングマネージャーに任命することで、管理職の人件費を節約したのです。

このように、プレイングマネージャーは、本来は別々だった役職を一手に引き受けている立場。忙しすぎて仕事が手に余ってしまったり、うまく業務を両立できなかったりと、さまざまなトラブルが起こりやすいポジションが、プレイングマネージャーなのです。

プレイングマネージャーとは3

プレイングマネージャーが陥りがちな失敗

プレイングマネージャーは、現場での役割と管理職としての役割のバランスが難しく、立ち回りが不安定になりがち。心理学者のスティーヴン・マーフィ重松氏によると、プレイングマネージャーが陥りがちな失敗には、主に2パターンあるそうです。

強権的リーダーになってしまう

1つ目は、「強権的リーダー」になってしまうケース。強権的リーダーとは、リーダーシップを発揮しようと張り切り、責任感を強く感じすぎるあまり、自分を中心にしてチームを動かそうとするリーダーです。

強権的リーダーは、「チームのために自分が何かしなくちゃ!」「自分が成果をあげなきゃ!」と、自分のプレーに目が奪われ、ひとりで突っ走ってしまいます。そのため、部下とのあいだに温度差が生まれ、チームワークが乱れてしまう恐れがあるのです。

筆者の経験を挙げます。中学生の頃、音楽の先生が「合唱コンクールに向けて頑張ろう!」と張り切っていたのですが、肝心の生徒たちはそれほど乗り気でなく、先生が熱く指導すればするほど、むしろ白けてしまっていました。

どんなにすばらしい理念をもっていても、自分の思いを一方的にぶつけるだけでは、チームの結束は生まれません。リーダーだからといって、「自分についてこさせよう」と気張らず、メンバーとの相互的なコミュニケーションを怠らないようにしましょう。

自己犠牲型リーダーになってしまう

2つ目の失敗パターンは、「自己犠牲型リーダー」。強権型リーダーが「みんな、ついてこい!」というタイプなのに対し、自己犠牲型リーダーは「みんなのために尽くさなきゃ」と考えてしまいます。部下の仕事を肩代わりして遅くまで残業したり、部下に楽をさせようと誰よりもたくさんの仕事量をこなしたりするのが、自己犠牲型リーダーの特徴です。

謙虚で優しいリーダーのように思えますが、自己犠牲型リーダーは、プレイングマネージャーとして好ましい姿ではありません。自分が手を動かすことで仕事を回す「プレイヤー」の思考に偏りすぎており、ほかのメンバーに仕事を振ったり成長させたりする「マネージャー」の視点が欠如しているからです。

プレイングマネージャーが何でも仕事をこなしてしまうと、部下に仕事が回らず、成長の機会がなくなるため、チーム全体の生産性が落ちてしまいます。重松氏によると、部下は「そこまでしてくれなくてもいいのに」と心理的負担を感じ、「仕事を任せてもらえない」と不満を募らせることさえあるのだそう。

自己犠牲型リーダーは、自分一人で仕事を回そうとするので、過労に陥ったり、「部下が使えない」と感じてストレスを溜めたりしがちなことも、大きな問題です。チーム全体を最適化するマネジメント業務も、プレイングマネージャーの大切な役割なのですから、部下に上手に仕事を振る技術も身につける必要があります。

プレイングマネージャーとは4

プレイングマネージャーの仕事術1:ロールモデルをもつ

ここからは、プレイングマネージャーに任命されたときに活用したい仕事術をご紹介していきます。

執行役員や管理職を指導するエグゼクティブコーチの平野圭子氏が言うには、物事を学ぶ最も手っ取り早い方法は、「他人をモデルにする」こと。皆さんも、スポーツや楽器を練習するときは、プロや先生のお手本を見てまねしながら、少しずつ上達していったのではないでしょうか。

仕事においても、「手本」の重要性は同じです。上司や著名人など、自分より優れた人をモデルとすることで、目標が明確になり、より早い成長が期待できます。自分がどんなプレイングマネージャーでありたいかを考え、理想的な人物を探しましょう。

厚生労働省の「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」では、ロールモデルの設定方法として、以下の手順が紹介されています。

1. 伸ばしたい能力・抱えている問題を書き出す

まずは、将来の目標や、現在の悩みを書き出しましょう。適切なロールモデルを探すには、課題を明確にすることが必要だからです。プレイングマネージャーとしての課題としては、以下のような例が挙げられるでしょう。

  • 部下を叱るのが苦手
  • チームの結束力を高める方法がわからない

2. 目標とする能力をもっている人を探す

自分に欠ける能力をすでにもっている人や、課題をクリアできている人を見つけます。その人がロールモデルです。

  • 部下を叱るのが苦手
    →尊敬しているA部長
  • チームの結束力を高める方法がわからない
    →営業部のムードメーカー・B先輩

3. ロールモデルを分析する

ロールモデルとして設定した人物の行動や心構えに着目し、どこが優れているのか分析しましょう。平野氏によると、特に「コミュニケーションのとり方」「仕事の頼み方」「仕事への取り組み方」「部下の育成の仕方」に注目すべきだそうです。

  • 部下を叱るのが苦手
    →尊敬しているA部長
    →叱ったあとは必ず褒めてフォローしている
  • チームの結束力を高める方法がわからない
    →営業部のムードメーカー・B先輩
    自分から積極的にみんなに話しかけ、雑談している

4. 自分に当てはめて実践する

ロールモデルを分析してわかった「優れた点」を、自分に当てはめて実践してください。

  • 部下を叱るのが苦手
    →尊敬しているA部長
    →叱ったあとは必ず褒めてフォローしている
    →叱るときは、フォローの褒め言葉を事前に用意しておこう
  • チームの結束力を高める方法がわからない
    →営業部のムードメーカー・B先輩
    →自分から積極的にみんなに話しかけ、雑談している
    みんなと1日1回ずつは雑談するよう心がけよう

プレイングマネージャーに任命されたものの、部下とどう接していいのかわからない……という方は、尊敬する人の振る舞いをまねることから始めてみてはいかがでしょうか?

プレイングマネージャーとは5

プレイングマネージャーの仕事術2:業務バランスを見直す

プレイングマネージャーは「プレイヤー」と「マネージャー」という2つの顔をもつため、多忙を極めることもしばしば。両方の仕事をバランスよくこなすのが理想とはいえ、状況によっては、「プレイヤー」としての仕事量と「マネージャー」としての仕事量の比重を変え、どちらかに集中することも必要です。

経営者・投資家の俣野成敏氏によると、プレイングマネージャーの役割を全うするのは、そもそもとても難しいことであり、両立が困難になる場面も訪れるのだそう。プレイングマネージャーは、プレイヤーとしての個人成績と、マネージャーとしての成績の両方が問われるので、完璧に結果を出そうとすれば、どうしても無理が生じてしまいがちなのです。

プレイヤーとしての仕事とマネージャーとしての仕事、どちらを優先すべきかは、そのときどきの会社の状況や、今後のキャリアに対するあなた自身の考えによって変わります

たとえば、会社があなたに、プレイヤーとしての実績をより強く求めている場合。マネジメント業務は必要最小限にとどめ、プレイヤーの業務に多くの時間を割くべきでしょう。あなた自身が「プレイヤーとしてキャリアを積みたい」と望んでいる場合も同様です。反対に、あなたが将来、本格的に管理職に就きたいと考えていて、マネジメントスキルを磨きたいのであれば、プレイヤーとしての仕事量やノルマを減らせないか、上長に相談してみましょう。

いずれにせよ、自分の仕事量やバランスを客観的に見直し、自己管理することも、プレイングマネージャーに求められる能力なのです。

プレイングマネージャーとは6

プレイングマネージャーの仕事術3:部下のモチベーションを高める

プレイングマネージャーは現場を指揮するリーダーですから、部下のモチベーションを高めることも重要なミッションです。現場の士気が上がればチームの実績も向上しますし、部下が意欲的に動いてくれれば、あなたの負担は軽減されます

とはいえ、部下のやる気を引き出すのは簡単なことではありません。モチベーションは目に見えないものですし、部下たちの仕事に対する考えはそれぞれ異なるからです。

そんなとき参考にしたいのが、平井氏が紹介している、以下の方法です。

方向性を定める

部下のモチベーションを高めるには、目標を定め、仕事の方向性を明確にすること。目指すべき目標があって初めて、やる気が生まれるのです。

あなたが受験勉強に励んでいたときを思い出してください。「今日は問題集を1ページ進めよう」「入試の3ヵ月前までに、試験範囲をひととおり終わらせよう」のように明確な目標があると、その目標に早くたどり着きたい、達成できずに終わりたくないという負けん気が生まれ、モチベーションにつながったのではないでしょうか。

仕事の場合も同様です。売上金額などの客観的な指標を使い、具体的な目標を定めましょう。すると、いい意味での緊張感が生まれ、「何を」「どの程度」頑張ればいいのか明確になるので、パフォーマンスが上がりすいのです。

平井氏によると、目標設定によって仕事のモチベーションを高めるためには、以下の6つに注意するといいのだそう。

  • 目標を数値化する
  • 目標達成期限を定める
  • 目標達成のための行動を明確に定める
  • 目標達成/未達成を判定する基準を明確に定める
  • 目標が複数ある場合、達成の優先順位を定める
  • 目標達成の過程でどのように成長できるかを明確に示す

客観的で具体的な目標を設けることで、部下は「やるべきこと」を明確に把握でき、志をもって働けるようになります。

リクエストする

部下をさらに成長させるには、ときどき「リクエスト」をするのが有効です。「売上を今の2倍にしてほしい」「新商品のアイデアを出してほしい」といった課題を与えられれば、部下は課題をクリアするために知恵をしぼることになり、自然と成長します

私たちは、仕事に慣れてくると、しだいに決まったスタイルに固着していき、自ら成長を志したり、新しくチャレンジしたりすることは少なくなるもの。「成長しなくても十分業務は果たせている」と思うので、リスクに身をさらしてまで新しいことを始める必要性を感じられないのです。

そんなとき、プレイングマネージャーからの「リクエスト」は、チームに漂うマンネリ感を打破し、新しい行動を起こさせる契機になります。もちろん、プレイングマネージャーからのリクエストの内容があまりに無茶すぎたり、数が多すぎたりすると負担になってしまうので、チームの様子を見ながら適切な課題を設定しましょう。

プレイングマネージャーとは7

プレイングマネージャーの仕事術4:自分抜きでも仕事が回るようにする

プレイングマネージャーは現場に立っているため、率先して仕事を回していることが多いと思います。みんなの先頭に立って一生懸命動くことは、プレイヤーとしてはすばらしい姿かもしれません。しかし、マネージャーという立場を考えると、あまり好ましいかたちではないのです。

プレイングマネージャーの先導によって現場が動いていると、現場のスタッフはあなたの指示がなければ動けなくなってしまいます。子どもが親に自転車のお尻を支えてもらいながら走っているのと同じで、いつまでも「自立」できないのです。すると、あなた自身も、いつまでも現場から目を離せず、マネジメント業務に割く時間がなくなってしまいます

「マネージャーがいなくても問題なく仕事が回る」というのが、現場が目指すべき理想の姿です。普段から部下の自主性を重視し、部下たちが「自分たちの力で目標を成し遂げた」と感じられるような環境を整えてあげましょう

そもそも、プレイングマネージャーは、あくまで「過渡的なキャリア」とみなされることもしばしば。さらに上級のマネージャー職へステップアップする準備期間として、プレイングマネージャー職を経験させる企業も少なくないのです。

そのため、プレイングマネージャーとして働くあいだは、昇進して現場を離れる可能性を常に考慮しておきましょう。プレイングマネージャーがいなくなっても現場がうまく回るようにチームを育成し、知識・スキルをマニュアルなどにまとめて残しておくなどしてください。

プレイングマネージャーとは8

プレイングマネージャーとしての働き方を学べる本

最後に、プレイングマネージャーとして働くうえで参考になる本を3冊ご紹介します。プレイングマネージャーとして行き詰まりを感じている方は、本記事と併せてぜひ参考にしてみてください。

『プレイングマネジャーの教科書 結果を出すためのビジネス・コミュニケーション58の具体策』

キャリアアドバイザー・田島弓子氏の著書。マイクロソフトでの営業部長の経験から得た、実践的なマネジメント術が詰め込まれています。「プライドの高い部下にはこう接しよう」「年上の部下とうまくやる方法」など、実際のシチュエーションで役立つ具体的なアドバイスばかりです。

プレイングマネジャーの教科書

プレイングマネジャーの教科書

  • 作者:田島 弓子
  • ダイヤモンド社
Amazon

『プレイング・マネジャー 最強の仕事術』

コンサルタント・高島健二氏による著書。固定観念にとらわれず新たな未来をデザインできるリーダーの思考術を、数々のコンサルティング経験に基づいて解説しています。「悩むことと考えることは違う」「ビジネスにおける “コミュニケーション能力” とは」など、プレイングマネージャー以外のビジネスパーソンにも役立つ知見が詰まった一冊です。

プレイング・マネジャー最強の仕事術

プレイング・マネジャー最強の仕事術

  • 作者:高島 健二
  • ダイヤモンド社
Amazon

『7000人のプレイングマネジャーを変えた8つの法則』

『7000人のプレイングマネジャーを変えた8つの法則』では、組織開発・人材開発コンサルタントの生田洋介氏が、研修やコンサルティングの経験から得た見識を交えつつ、プレイングマネージャーに必要なスキルを解説しています。プレイングマネージャーに必要な要素を「8つの法則」に絞ったシンプルな構成なので、自分の知識を整理しておきたい方にもオススメです。

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プレイングマネージャーの業務は難しく大変ですが、そのぶん大きなやりがいも得られるポジションです。ワンランク上のプレイングマネージャーを目指したい方は、ぜひ本記事の内容を参考にしてみてくださいね。

(参考)
ダイヤモンド・オンライン|プレイングマネージャーが陥る落とし穴
東洋経済オンライン|「管理職とプレイヤー」を両立する人が陥るワナ
All About|プレイングマネジャーが部下やチームに対して持つべき3つの視点
STUDY HACKER|ロールモデルとは? ロールモデルの効果&探す方法
All About|部下のモチベーション・やる気を上げる3つのポイント
リクナビNEXTジャーナル|プレイングマネジャーの仕事の仕方とは?「現場とマネジメント、どちらも成果を上げるのは無理」ならどうしたらいいのか?
田島弓子(2010),『プレイングマネジャーの教科書 結果を出すためのビジネス・コミュニケーション58の具体策』, ダイヤモンド社.
高島健二(2011),『プレイング・マネジャー 最強の仕事術』, ダイヤモンド社.
生田洋介(2012),『7000人のプレイングマネジャーを変えた8つの法則』, 中経出版.

【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。

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