インタビューは「おしゃべり」ではない。顧客の本音を引き出す技術【新人さんのためのマーケティング講座 Season2 vol.11】

📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season2

Season1では、マーケティングの基礎概念からWeb広告の実務知識までを体系的に解説しました。Season2は、配属されてしばらく経ち、実務をこなしながらさまざまな「壁」にぶつかり始めた方に向けて、より実践的なテーマを掘り下げていきます。

まだSeason1を読んでいない方は、まずそちらからどうぞ。▶ 新人さんのためのマーケティング講座 Season 1【全14回まとめ】 ——マーケティングの基礎知識を徹底解説!

「顧客の声を聞こう」

マーケティングの現場で、この言葉を聞かない日はありません。上司に言われるがまま、顧客にアポを取り、会議室で向かい合い、「弊社の商品についてどう思われますか?」と聞く。相手はにこやかに答えてくれる。メモを取り、「貴重なご意見ありがとうございました」と頭を下げて帰ってくる。

 

それ、何の意味があるのでしょうか。

 

準備なしで行うユーザーインタビューは、あまり意味がありません。むしろ危険ですらある。なぜなら、そこで得られた情報が「顧客の声」という権威をまとって、意思決定に影響を与えてしまうからです。

本記事では、ユーザーインタビューがなぜ難しいのか、そしてどうすれば「使えるインタビュー」になるのかを考えます。

インタビューは「おしゃべり」ではない

多くのマーケターが、インタビューを「顧客に会って感想を聞くこと」だと思っています。

でも、インタビューって、顧客が口にする言葉の奥にある、本当の動機や文脈を引き出す作業なんです。

表面的な「いいと思います」の裏に何があるのか。なぜその商品を手に取ったのか。その瞬間、何を考えていたのか。——これを聞き出すのは、想像以上に難しい。

「どう思いますか?」と聞いて返ってくる答えは、顧客の「本音」ではありません。その場で取り繕った「意見」です。

なんで顧客は本当のことを言わないのか。

なぜ顧客は平気で「嘘」をつくのか

いや、「嘘をつく」という言い方は正確ではないかもしれません。

私自身の話をします。以前、知人に「なんでスタバによく行くの?」と聞かれたことがありました。

本当の理由は、「近くにあるから」「なんとなく」程度のものです。でも、そう答えられなかった。気づいたら「サードプレイスとしての価値を感じていて……」などと、もっともらしいことを言っていました。

恥ずかしい話です。でも、正直に振り返ると、そうだった。

 

顧客が「嘘をつく」わけじゃないんです。人間は、自分の行動の本当の理由を、自分でもよくわかっていない。聞かれると、つい賢く見せたくなる。センスよく見せたくなる。もっともらしい理由を後付けで作ってしまう。

——心当たり、ありませんか?

起業家向けの名著に、ロブ・フィッツパトリックの『The Mom Test』という本があります。タイトルを直訳すると「お母さんテスト」。これは、「あなたのお母さんでさえ嘘をつかざるを得ないような質問をするな」という意味です。

たとえば、あなたが新しいアプリのアイデアを思いついたとします。お母さんに「こんなアプリがあったら使う?」と聞いたら、なんと答えるでしょうか。

「いいわね、便利そう」

そう言うに決まっています。お母さんはあなたを傷つけたくない。あなたの期待に応えたい。だから、本心がどうであれ、肯定的なことを言う。これが「善意の嘘」です。

顧客も同じです。目の前に座っている人間(あなた)を傷つけたくないから、当たり障りのないことを言う。「この商品どう思いますか?」と聞けば、「いいと思います」と答える。それ以外に何を言えというのでしょうか。

意見と未来予測を信じてはいけない

フィッツパトリックは、インタビューで避けるべき質問を挙げています。

「どう思いますか?」——意見を聞いても、社交辞令が返ってくるだけ。

「これがあったら買いますか?」——未来のことを聞いても、当てにならない。人は自分が何をするか、わかっていない。

じゃあ何を聞けばいいのか。過去の事実だけを聞く。

「最後にこの問題で困ったのはいつですか?」

「そのとき、具体的に何をしましたか?」

「それにいくら払いましたか?」

過去に実際に起きたことは、嘘のつきようがありません。記憶違いはあっても、意図的な嘘は入り込みにくい。だから、事実を聞くしかないんです。

📝『The Mom Test』とは

ロブ・フィッツパトリック著の起業家向け書籍。顧客インタビューで「善意の嘘」を引き出さないための実践的な技術を解説しています。タイトルは「お母さんにすら嘘をつかせない質問をしろ」という意味。スタートアップ界隈では必読書とされています。

Jobs-to-be-Done——顧客は商品を「雇用」している

もう一つ、インタビューの質を変える視点があります。クレイトン・クリステンセン教授が提唱した「Jobs-to-be-Done(JTBD)」という考え方です。

 

要するに、こういうことです。

顧客は商品を「買う」のではなく、人生の課題を解決するために「雇用」している。

 

たとえば、朝の通勤電車でコーヒーを買う人がいます。この人は「コーヒー」を買っているのでしょうか。

違う。この人は「退屈な通勤時間を少しでもマシにする」という課題を解決するために、コーヒーを「雇用」している。

この視点に立つと、競合の定義が変わる。コーヒーの競合は他社のコーヒーだけじゃない。スマートフォンのゲームも、ポッドキャストも、ドーナツも、同じ課題を解決するために雇用される候補になる。

「雇用」の瞬間を1分1秒で再現させる

JTBDに基づくインタビューでは、顧客が商品を「雇用」した瞬間の文脈を徹底的に掘り下げる。

 

「その商品を買おうと思ったのは、具体的にいつですか?」

「そのとき、どこにいましたか?」

「何がきっかけで、その商品のことを思い出しましたか?」

「他に検討したものはありましたか?」

「最終的に決めた理由は何でしたか?」

 

ポイントは、顧客に「映画のワンシーンのように」その瞬間を再現してもらうこと。

抽象的な理由ではなく、具体的な状況。時間、場所、気分、周囲の環境。こういう文脈(コンテキスト)を聞き出さないと、「なぜその商品が選ばれたのか」はわからない。

「便利だから買いました」みたいな答えでは、何もわからない。

「朝7時23分の電車に乗る直前、改札の横のコンビニで、いつものコーヒーが売り切れていたから、隣に並んでいたこれを手に取りました」——こういう具体的な話が聞けたら、やっとインサイトに近づける。

📝「Jobs-to-be-Done(JTBD)」とは

ハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・クリステンセン教授が提唱した理論。顧客は商品そのものを求めているのではなく、人生の特定の「ジョブ(課題)」を片付けるために商品を「雇用」するという視点。この考え方により、真の競合や顧客の深層ニーズが見えてきます。

なぜインタビューは「高度なタスク」なのか

ここまで読んで、「なるほど、過去の事実を聞いて、文脈を掘り下げればいいのか」と思った人もいるでしょう。

理屈はそうです。でも、実践は恐ろしく難しい。

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最大の敵は、聞き手である「あなた自身」だからです。

確証バイアスとの戦い

人間には「確証バイアス」という癖があります。自分の仮説を証明する情報ばかり集めて、反証する情報は無視してしまう。

 

あなたは「この商品は○○という理由で売れているはずだ」という仮説を持ってインタビューに行く。すると、顧客の発言の中から、その仮説を裏付ける部分ばかりが耳に入ってくる。反証する発言は「例外だ」「この人は特殊だ」と無意識に切り捨てる。

結果、インタビューは「仮説を確認する儀式」になってしまう。

何時間話を聞いても、あなたの頭の中にあった仮説がそのまま「顧客の声」として出力される。これでは、最初からインタビューなどしないほうがマシです。

「透明な観察者」になる訓練

優れたインタビュアーは、自分を「透明な観察者」にできる。自分の仮説、期待、願望を脇に置いて、目の前の人間が語る事実だけに集中する。

これは、すぐには身につきません。

「今、自分は都合のいい解釈をしていないか?」「この質問は誘導になっていないか?」と、常に自分を監視し続ける必要がある。

 

心理学の訓練を受けたカウンセラーや、質的研究の専門家が何年もかけて身につける技術です。

「顧客に会って話を聞いてきて」と気軽に頼める仕事ではありません。

インサイトに近づくための4つのルール

じゃあ、専門家でない私たちはどうすればいいのか。

完璧は無理でも、マシにするためのルールはあります。

ルール1:「どう思いますか?」を禁止する

インタビューの質問リストを作ったら、「どう思いますか?」「いかがでしたか?」を全部消す。代わりに、「いつ」「どこで」「何を」「いくらで」という事実を聞く質問に置き換える。

ルール2:環境情報を徹底収集する

JTBDの視点で、購買や利用の「文脈」をしつこく聞き出す。時間、場所、気分、きっかけ、比較対象。こういう情報がないと、顧客の行動は理解できない。

ルール3:複数人で構造化分析する

一人でインタビュー結果を解釈すると、確証バイアスにやられます。必ず複数人でインタビュー記録を読み、異なる視点から分析する。「この発言は別の解釈もできるのでは?」と指摘し合える関係が大事です。

ルール4:録音と逐語録を残す

メモだけでは、聞き手のバイアスがかかった情報しか残らない。録音して、できれば逐語録を作る。生のデータにいつでも戻れるようにしておく。

数字の背後にある「人間」を忘れるな

ユーザーインタビューは、顧客とのおしゃべりではありません。

過去の事実を聞き出し、文脈を再現させ、自分自身のバイアスと戦う。簡単な仕事ではないです。

 

データ分析は「何が起きたか」を教えてくれます。広告のクリック率、購買のコンバージョン、離脱のタイミング。

でも、データは「なぜ起きたか」を教えてくれません。

「なぜ」を知りたければ、一人の人間に向き合って話を聞くしかない。

 

数字を見るのは簡単です。

でも、数字の背後には生身の人間がいる。その人がなぜその行動をとったのか。そこまで踏み込めるかどうかが、インタビューの価値を決めます。

 

【本記事のまとめ】

1. インタビューは難しい
顧客とのおしゃべりではなく、言葉の奥にある本音を引き出す高度な作業。

2. 顧客は「善意の嘘」をつく
意見や未来予測は信じるな。過去の事実だけを聞け。

3. 顧客は商品を「雇用」している
JTBDの視点で、購買の文脈を1分1秒単位で再現させる。

4. 最大の敵は「自分自身」
確証バイアスと戦い、透明な観察者になる訓練が必要。

5. 組織でルールを守る
意見質問の禁止、環境情報の収集、複数人での分析、録音の保存。

 

【インタビュー質問チェックリスト】

□ 「どう思いますか?」「いかがでしたか?」を使っていないか?

□ 「買いますか?」「使いますか?」と未来予測を聞いていないか?

□ 過去の具体的な行動を聞いているか?

□ いつ、どこで、何がきっかけで、という文脈を聞いているか?

□ 自分の仮説を確認するための誘導質問になっていないか?

ユーザーインタビューに関するFAQ

Q. インタビューは何人くらいに行えばいいですか?

A. 一般的には5〜8人で「飽和点」に達すると言われます。新しいインサイトが出なくなったら十分です。ただし、数より質。100人に浅い質問をするより、5人に深く文脈を聞くほうが価値があります。

Q. オンラインと対面、どちらがいいですか?

A. 可能であれば対面をお勧めします。表情、間、身振りなど、言葉以外の情報が多く得られます。ただし、オンラインでも録画を残せば後から見返せるメリットがあります。状況に応じて使い分けてください。

Q. 社内に専門家がいない場合はどうすればいいですか?

A. 外部の専門家に依頼するか、社内で訓練を積むかの二択です。まずは本記事で紹介したルールを守ることから始めてください。「どう思いますか?」を禁止するだけでも、インタビューの質は変わります。

(参考文献)

*1: Rob Fitzpatrick『The Mom Test: How to talk to customers & learn if your business is a good idea when everyone is lying to you』(2013)
*2: クレイトン・M・クリステンセン『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』ハーパーコリンズ・ジャパン(2017)

▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season2

配属されてしばらく経ち、実務で壁にぶつかり始めた方へ。より実践的なテーマを掘り下げます。

Season1(全14回)はこちら|マーケティングの基礎概念からWeb広告の実務知識まで

【プロフィール】
岡 健作(おか・けんさく)

スタディーハッカー 代表取締役社長
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
X→@oka_kgs / Instagram→@oka_ken2010 / 著書(amazon)

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