「資格試験、挑戦してみようか。でも難しそうだし、自分には無理かな」と考える人と、「資格試験、難しそうだけど挑みがいがあるな。たとえ落ちても学んだことは無駄にはならない」と考える人……。
今後、どちらがビジネスパーソンとして飛躍的に成長するかは、言うまでもないことでしょう。「挑戦する心」を持ち続けることは、仕事で成功をおさめるためには欠かせません。そこで、今回は挑戦心を持つための「10のしないこと」を考えてみました。
リストアップした10の項目は、“するべきこと” ではなく “しないこと”。厳しいルールを課して、無理に自分を変えようとするものではありません。もともと新しいことに挑戦するのが苦手な人も、歳を重ねるごとに挑戦心が弱まってきた人も、いま一度、挑戦する心の持ち方について考えてみましょう。
挑戦できる人・できない人の違いは「新奇探索性」にあり
挑戦する「心」というと、性格の問題と考えてしまうかもしれませんが、そうではありません。「挑戦心には『新奇探索性』という脳の性質が関わっている」と、脳科学者の中野信子氏は説きます。
新奇探索性とは、「これまでの安定を捨ててでも、新しいものに挑戦しよう」という性質のこと。これには、報酬系の神経伝達物質であるドーパミンが関係しています。新しい刺激に触れると、脳内ではドーパミンが放出されて快感が生まれ、再び快感を得ようとして脳は次の新しい挑戦を求めるようになる――このような新奇探索性によるプラスのサイクルが、挑戦心が強い人の脳内では形成されているのです。
ただし、新奇探索性には遺伝による個人差があります。そのため、もともと挑戦心が弱い人がいることも事実です。では、彼らはずっと挑戦心を持てないのでしょうか? いえ、そうではありません。中野氏は、新しいことに挑戦するのが苦手な人は、まず「新奇探索性が弱いと自覚を持つ」ことが大切だと言います。そのうえで、自分の意思で少しずつ行動を変えれば、挑戦心を強くしていける可能性があるのだそうです。
では、具体的にどのように行動を変えればよいのか? その目安となるのが、今回の「しないことリスト」です。
挑戦する心を持ち続けるための「10のしないこと」
というわけで、少しずつ行動を変えるヒントになる、挑戦する心を持ち続けるための「10のしないこと」を考えてみました。
食事や服装、まずは日常生活から変えてみよう
中野氏は、「新奇探索性の強弱の違いは、日常生活の一幕でもわかる」と言います。たとえば、新奇探索性が強い人は、新しいショップがオープンしたらすぐに足を運びますが、弱い人は興味を示しません。こうした日常に即したところから少しずつ、行動を変えてみてはいかがでしょうか? それが挑戦する心を上向かせる第一歩になるはず。そこでリストアップしたのが、1~3の項目です。
「1. 食事を行きつけの店ですませない」
たとえば、ランチの店が決まっている人は、新規の店を開拓してみましょう。もう経験済みの店でランチをする場合なら、お気に入りのメニューばかり注文しないで新たなメニューに挑戦するとよさそうですね。
「2. 服装を固定化しない」
服装の固定化は時間やお金の節約になる一方で、挑戦心を強くすることは期待できません。あなたはいつも同じ系統の服を買ったり、着回しが決まっていたり、いつも同じバッグで出勤したりしていませんか? ぜひ、今まで買ったことがないブランドの服を買ったり、髪型や小物使いでコーディネートに幅を持たせたりしてみましょう。
「3. 普段読む機会がない本を食わず嫌いしない」
読書では、普段読まないジャンルの本も手に取ってみましょう。抵抗がある場合は、医学博士の加藤俊徳氏がすすめる「図書館や本屋で、普段読まない本のジャンルのタイトルだけを黙読する」という方法を試してみるといいかもしれません。そこから、カバーに書かれていることや著者のプロフィールなどにも目を通し、徐々に理解を深めていくと、抵抗感がなくなるとのこと。これなら、オンラインのブックショップでもできそうですね。
脳は失敗を重ねることで、「挑戦」を心地よく感じる
4~8は、仕事面での行動を少しずつ変えるための「しないこと」です。
「4. 目標がないダラダラとした状況を作らない」
国立精神・神経医療研究センター医師の功刀浩氏いわく、ドーパミンを増やすには、常に目標を持って仕事に臨むことが大切だそう。ドーパミンは目標を達成したときに分泌されるため、達成しやすい小さな目標やタスクを設定するのが効果的とのこと。「1時間以内に資料を作成しよう」など、自分なりに目標を立てて、ダラダラした状況を作らないようにしましょう。
「5. 褒め言葉を否定しない」
また、「褒められたことに対して喜びを感じると、ドーパミンが増える」と脳科学者の澤口俊之氏は言います。だからこそ、挑戦心を養うためには素直に褒め言葉を受け止めましょう。褒められると謙虚に「そんなことありませんよ」と否定する人もいますが、その必要はないのです。
「6. 叱られることを悪いことと考えない」
加えて、叱られることに対する受け止めも大事。叱られるのは誰しも嫌だと感じがちですが、脳科学的に見ればそう悪いことではないからです。澤口氏によると、叱られたときにはノルアドレナリンの分泌が促されるのだそう。これは、「悔しいから頑張ろう」というやる気につながる神経伝達物質。挑戦心の醸成には欠かせない存在です。一方で、叱られない状況が続くと、それ自体が報酬となってしまい、現状を変えようとする意欲が失われるのだとか。叱られたときは、「見返してやろう」「やる気に火をつけてくれた」とプラスに捉えましょう。
「7. 一度の失敗で『自分には無理』と決めつけない」
医学博士の川﨑康彦氏は、できるかどうかわからないといった不安定な状況に身を置くことでも、ノルアドレナリンが分泌されると言います。ノルアドレナリンは失敗に対する恐怖心を消してくれるため、最初は失敗を苦痛に感じても、二、三度くり返すうちに逆に挑戦することが心地よくなるそうです。たった一度の失敗で「自分には無理だ」と考えるのはもったいないことですよ。
「8. できないことを時間やお金のせいにしない」
また、「時間がない、お金がない……だから自分には厳しいかも」という未知の世界へ飛び込むことによっても、ノルアドレナリンを分泌させる不安定な状況を作り出すことができます。自分がやらないことを、時間やお金のせいにするのはやめましょう。先述の通り、「少しずつ」行動を変えればよいのです。語学勉強する時間やお金がない人でも、「帰宅後の1日15分」から、「まずはお金がかからない単語アプリ」から始めてみるといったことならできるのではないでしょうか。
まだ実績のない自分も人間として尊敬し、認めてあげよう
最後は、偉人・成功者の言葉をもとにした「しないこと」を紹介しましょう。
「9. まだ実績のない自分でも『たいしたことない』と思わない」
これは、哲学家ニーチェによる哲学概念「力への意志」に基づいたもの。ニーチェは、「自分はたいしたことがない人間だなんて思ってはならない。(中略)最初に自分を尊敬することから始めよう。まだ何もしていない自分を、まだ実績のない自分を人間として尊敬するのだ」と述べています。
これを踏まえ、『超訳 ニーチェの言葉』を手掛けた作家の白取春彦氏は、「同じ能力を持っている人でも、自分を卑下する人より自分を尊敬できる人のほうが、考えがポジティブで積極的に挑戦できる」と言います。たとえば仕事で「これ、やってみないか?」と聞かれたとき、前者は「自分には難しい」と考えてしまいますが、後者なら「やってみます」と即答できるでしょう。実績の有無にかかわらず、ありのままの自分を自分で認めてあげることが大切なのです。
「10. 自分の中にある情熱を蔑ろにしない」
こちらは、いまあるものを失う可能性を考えて、挑戦に二の足を踏んでいる人へ向けたものです。こうした葛藤は、世界的な成功者も当然経験しています。アマゾンの創業者であるジェフ・ベゾス氏もそのひとりです。ベゾス氏は起業にあたって、上司から「今の好条件の仕事を失うことになる損得をよく考えてはどうか」と提案されました。そして、48時間かけてじっくり考えたそうです。
その結果、ベゾス氏が選択の指針にしたのは「情熱」でした。当時のことをベゾス氏は、「挑戦しなかった場合、あとで『挑戦しなかったこと』を後悔すると考えた」と語っています。失うものが多い人ほど、新たなことへ挑戦するときの悩みは深刻かもしれませんが、このように情熱に従った選択も尊いものではないでしょうか。
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挑戦心を持ち続けるのは、自分の可能性を広げるためにも大切なことです。新たな挑戦が苦手な人も、挑戦心が弱まってきた人も、ぜひ「10のしないこと」を参考にして、チャレンジする意欲を持ち続けてくださいね。
(参考)
ログミーBiz|「日本人は遺伝的に挑戦が苦手」脳科学でわかる国民性を中野信子氏が解説
GOETHE|新奇探索傾向を味方につける~中野信子 Passionable Brain~ 第1回
saitaPULS|自分の「新奇探索性」を自覚して自分を大切にして生きる【脳科学者に聞いた!vol.82】
加藤俊徳(2010),『アタマがみるみるシャープになる! 脳の強化書』,あさ出版.
朝日新聞Reライフネット|ココロとカラダに幸せホルモンのご褒美を 分泌に大事な食事や腸について知ろう
PHP Online 衆知|脳科学から見えてきた!やる気を高める4つの方法
川﨑康彦(2016),『ハーバードで学んだ脳を鍛える53の方法』,アスコム.
佐藤優,白取春彦,上田惇生,小川仁志,本多弘之(2013),『賢人の思想活用術』,幻冬舎.
戸塚隆将(2017),『世界の一流36人「仕事の基本」』,講談社.
【ライタープロフィール】
かのえ かな
大学では西洋史を専攻。社会人の資格勉強に関心があり、自身も一般用医薬品に関わる登録販売者試験に合格した。教養を高めるための学び直しにも意欲があり、ビジネス書、歴史書など毎月20冊以上読む。豊富な執筆経験を通じて得た読書法の知識を原動力に、多読習慣を続けている。