幸福は「遺伝」と「行動」が9割。人間と幸せの意外な関係。

幸せそうに働くビジネスパーソン

「昇進すれば幸せになる」

「年収が上がれば満足できる」

「理想の相手と結婚すれば人生バラ色」

私たちは環境を変えることで幸福になれると信じている。転職サイトを眺め、婚活アプリをスワイプし、引っ越し先を検索する。より良い環境を求めて。

ところが、心理学の研究が明らかにした事実は意外だった。

環境の改善が幸福感に与える影響は、わずか10%にすぎない。

では、残りの90%は何が決めているのか? 答えは「遺伝」が50%、「行動」が40%だった。*1

本記事では、これらの驚くべきデータをもとに、人間の幸福がどのような仕組みで決まっているのかを見ていく。

「もっと幸せになりたい」と感じている方には、環境を変える前に、まずはこの事実を知ってほしい。

幸福感の50%は「遺伝」で決まっている

楽しそうにノートパソコンを見るビジネスパーソン

幸福感の50%は「遺伝」によるものだ。このことは、アメリカのカリフォルニア大学リバーサイド校の心理学教授ソニア・リュボミルスキー氏、ミズーリ大学の心理学教授ケノン・シェルドン氏、カリフォルニア大学サンディエゴ校の経営学教授デビッド・シュケード氏らが行なった調査によって明らかになったものである。

遺伝的要因:50%
私たちの性格や気質、生まれもった感情の傾向など。変えるのが難しい領域。

環境的要因:10%
収入、宗教、健康状態、人間関係などの外的なもの。

意図した活動:40%
日々の思考や行動など、自分で意識的に選びとっている習慣や態度のこと。*1を参考にまとめた

この「遺伝50%」が何を意味するのかは、研究では詳しく説明されていない。しかし、同じ出来事に対しても人によって感じ方に大きな差があることは、誰もが経験しているだろう。

昇進を「やった! 認められた!」と喜ぶ人もいれば、「責任が重くなって面倒だな」と感じる人もいる。この違いが、生まれもった感情の傾向によるものだとすれば、幸福感の個人差の大部分は最初から決まっていることになる。

環境を変えても幸福感は「最初だけ」で元に戻る

やる気に満ちたビジネスパーソン

環境要因がたった10%しか影響しないという事実は、私たちの直感に反する。

「お金があれば幸せになるはず」「良い環境にいれば満足できるはず」

しかし、同じ研究者らが大学生を対象に行なった調査では、次のような結果が得られている。

  • ポジティブな「活動」の変化があった人は、時間が経っても幸福感を維持
  • ポジティブな「環境」の変化があった人は、幸福感を感じたのは最初だけで、時間が経つと元に戻ってしまった *1を参考にした

たとえば、長年の努力が認められて昇進した場合、「評価された」「収入が増えた」「部下をもつようになった」といった「環境」の変化で大きな達成感や幸福感を得るだろう。

しかし、業務負荷の増加、人間関係のストレス、成果へのプレッシャーなどに直面していく過程でその幸福感が薄れてしまうかもしれない。

環境の変化による幸福感が一時的なものに終わってしまう理由は、研究では明確にされていない。ただ、私たちが日常で経験することを考えれば、どんな良い変化にも慣れてしまうのだと言えるのではないだろうか。

「行動」による幸福感だけは持続する

デスクで考えるビジネスパーソン

一方で、ポジティブな「活動」の変化があった人は、時間が経っても幸福感を維持したこともわかっている。*1

なぜ「環境」による幸福感は一時的で、「行動」による幸福感は持続するのか?

環境は受動的だ。昇進も昇給も結婚も、それ自体は「与えられるもの」である。一方、行動は能動的だ。感謝の気持ちをもつ、新しいことを学ぶ、誰かを助ける。これらは自分で選択し続けることができる。

研究では、昇進や報酬など「環境の変化」で得た喜びをただ受け取るだけでなく、「自分はどんな価値を生み出したのか」「これからどのように貢献していきたいか」と考えることで、「環境の変化」を「意図した活動」へとつなげられるとしている。*1

このように、環境による幸福感に意味を見いだし、それを軸に行動を選び続ければ、幸福感はより深く長続きするということだ。

よって、意図した活動による幸福感のほうが、環境要因よりも持続しやすいことが明らかなのである。*1

「前向きなことを3つ書く」だけで変化が起きる

ノートを書く人の手元

具体的な「意図した活動」の例として、前向きなことを毎日3つ書くという方法がある。これを1週間続けると、続けなかった人よりも幸福感が上がり、落ち込む回数が減ることがわかっている。*2

慶應義塾大学医学部名誉教授の坪田一男氏は、「良いことを思い浮かべながら書くうちに、ポジティブなことを考える時に使う神経ネットワークが強化され、物事を前向きに考える力が鍛えられ」ると説明している。*2

このように、40%を占める「意図した活動」の領域では、比較的単純な行動でも変化を起こせるようだ。

生産性との関係:幸せだから成果が出るのか?

人差し指を挙げ明るい表情を見せるビジネスパーソン

ハーバードビジネスレビューで発表された研究により、「幸せな人はそうでない人よりも生産性が平均で31%高く、売上が37%大きく、創造性が3倍高い」と明らかになった。*3

さらに別の研究では、「生活の満足度が低い従業員は、幸せな従業員よりも1ヵ月当たり平均1.25日多く仕事を休んでいる」という報告もある。*3

ただし、これらの数字は相関関係を示すものであり、因果関係は明確ではない。幸せだから成果が出るのか、成果が出るから幸せになるのか、それとも第三の要因が両方に影響しているのか。

遺伝的要因が50%を占めるという事実を考えれば、生まれつき幸福感を感じやすい人が、同じ成果からより大きな満足を得ているという可能性もある。

9割が決まっているなら、どう考えるべきか

遺伝50%、行動40%で既に90%が決まっている。残りの環境はたった10%。

この事実をどう受け止めるべきだろうか?

まず、環境改善への過度な期待は現実的ではないということだ。転職しても、引っ越しても、結婚しても、その効果は思っているより小さく、一時的かもしれない。

一方で、40%を占める「意図した活動」の領域は、自分でコントロールできる範囲だ。この領域で、自分なりの方法を見つけることが重要なのだろう。

50%の遺伝的要因は変えられないが、それを理解することで、自分がどのような特性をもっているかを知ることができる。

***

「幸せになろう」ではなく「自分の幸福の仕組みを理解しよう」。

そこから、現実的な幸福との付き合い方が始まるのかもしれない。

※引用の太字は編集部が施した

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