相手に自分の思いが伝わらないとき、あなたはどのような行動を取っていますか? 思いを伝えたいという気持ちが強ければ強いほど、うまく伝わらないことにイライラしてしまいがちですよね。でも、そんな状態になれば、ますます相手に伝わりにくくなってしまうだけです。
今回は「どうしても思いを伝えたい!」というときにぜひ試してほしい、交渉における基本テクニックをご紹介します。
【格言】
相手を自分の思いどおりにするには、
まず相手の意見を受け入れること
大学院で音楽理論を学び作曲家として活躍するフランス系ユダヤ人のAさんは、意見を聞かない相手と出くわしたときに、先に相手の意見を受け入れる方法を選びました。
Aさんが書いた曲が気に入らなかった、パーカッショニストのCさん。奏法、楽器、なにもかもが無理のある選択だと考えたCさんは、Aさんのいうことに耳を貸しません。そこでAさんは先に折れ、こんな風に伝えました。
「この前の話を考えてみたのだけれど、やはりCさんが正しいと思う。Cさんのいっていたことに賛成するわ」
このことで、Cさんは「実際に演奏するのは自分であり、その現実的なアドバイスを受け入れたということは、Aさんにもちゃんと判断力があるようだ」と、Aさんに対して一目置くようになったのです。
それから二晩ほど置いて、Cさんが「頑張ればできたかもしれない……」と思いはじめたころを見計らって、Aさんは再び提案を試みました。それも、「あなたがやれるように修正をするので」と譲歩の姿勢も忘れずに。するとCさんは、Aさんの意見を聞くようになったのです。
相手の意見をまずは受け入れることが、交渉のコツとなり得るのです。
【プロフィール】
中野信子(なかの・のぶこ)
1975年、東京都に生まれる。東京大学工学部卒業後、同大学院医学系研究科修了、脳神経医学博士号取得。脳科学者・医学博士・認知科学者として横浜市立大学、東日本国際大学などで教鞭を執る。脳科学や心理学の知見を生かし、マスメディアにおいても社会現象や事件に対する解説やコメント活動を行っている。レギュラー番組として『ワイド!スクランブル』(テレビ朝日系/毎週木曜コメンテーター)『英雄たちの選択』(NHK BS プレミアム)『有吉ゼミ』(日本テレビ系)、近著に『サイコパス』(文藝春秋)、『ヒトは「いじめ」をやめられない』(小学館)などがある。
Photo◎佐藤克秋
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交渉の基本は、相手の心理や置かれている立場に立って考えること。相手の意見を受け入れるなんて一見矛盾するような行動に思えますが、どんな人でも自分の意見を受け入れてくれる相手には好感を抱き、その存在を認めたくなってしまうものです。
特別な交渉事にとどまらず、「まずは人の話を聞く」ことを心がけると、ちょっと苦手な人との普段の会話もうまく進めることができるかもしれませんね。