
「集中できないのは、私のせい……?」
たとえば、朝。仕事に取りかかろうとパソコンを開いても、なぜか気が散る。数分おきにスマホに手が伸び、メールの通知が気になり、気づけばまったく違うタブを眺めている。
「やる気がないのかな」「気合が足りないのかも」──そんなふうに、自分を責めてしまうこと、ありませんか?
でも、もしかするとそれは、あなたのせいではないかもしれません。
本記事では、「人間の脳がそもそも集中し続けられない仕組みになっている」という前提からスタートし、その脳とどう付き合えばよいかを考えます。
そして、集中力が切れがちな日常を立て直す、3つの具体的なリカバリー術をご紹介。気負わず読めてすぐに試せる内容です。あなたの「脳の再起動」に、ぜひ役立ててください。
脳は「集中できない」ようにできている
脳は本来、外部からの刺激に対し、敏感に反応するようにできています。それは、生き物にとって集中し続けることがリスクとなるからです。
東京疲労・睡眠クリニック院長で、疲労医学の第一人者、梶本修身氏は、次のように述べています。*1
「そもそも人間は、生理学的にあえて集中しないようにできている」
なぜならば、集中しすぎると、まわりの危険に気づけなくなるからです。
たとえば野生動物は獲物に集中しているあいだ、捕食者に襲われる可能性があります。人間もまた、集中する際には周囲の情報(車や障害物など)を遮断しており、無防備な状態にあるのです。*1
こうした理由から、私たちは進化の過程で「まわりに注意を向けるしくみ」を発達させてきたと考えられています。
また、梶本氏は、「集中し続ける⇒脳神経細胞が活発になり熱を発し続ける⇒オーバーヒート⇒脳のパフォーマンス低下」という流れを挙げ、次のように説明しています。*1
「成長していくと、脳がオーバーヒートにより『脳疲労』状態にならないように、注意を分散させ“集中”しないようになっていく」*1
したがって、あなたの脳が集中しにくいのは、誰でもない、あなたをを守るため。
人間にとってはごく普通のことであり、仕方のないことでもあります。

そうは言っても私たちは、仕事や勉強に集中しないわけにはいきません……!
集中できない脳を立て直すリカバリー術
そこで、注意散漫になりやすい人間にも効果が期待できる、「集中できない脳を立て直すためのリカバリー術」を集めてみました。3つご紹介しましょう。
1. スモールウィン
ひとつめのリカバリー術は「スモールウィン(small win)」です。これは、小さな目標に向かい、立て続けに小さな達成感を得られる状態をつくり、集中力を持続させる方法です。*2
| 内容 | 小さな目標を設定し、小さな成功体験を意識的に得る(例:10分で〇ページまで終わらせる) |
|---|---|
| 効果 | 1日のうち何度も達成感を得られるので集中力が続く |
| リカバリー的ポイント | やる気が低下した脳を、達成感で回復させる |
医師として働きながらハーバード大学へ留学し、並行してボストン大学でMBAを取得した眼科医の猪俣武範氏は、次のように語っています。*2
人は次々に達成感を得られることなら長時間にわたって続けても苦に感じません。すなわち、集中できるのです。
つまり――「1か月で終わらせる」「テキストを全部終わらせる」となれば、なかなか達成感を得られず、集中力を保つのが難しくなりますが――たとえば5分、10分、15分で数ページといった小さな目標にすれば、その都度達成感を手に入れて集中力が持続しやすくなるのです。*2
また、東京大学 薬学部教授の池谷裕二氏らが行なった実験では、休憩を挟んだ短時間集中(15分)の積み上げ型学習が、学習の定着・集中力維持の効果を発揮する可能性があるとわかりました。*3
「こまめな休憩は集中力に関係する『ガンマ波パワー』の回復を促し、集中力維持に貢献すると科学的に判明」したといいます。*3
小さな目標なら、必然的に休憩も合間に入るはず。したがって、スモールウィンは、ガンマ波パワーにも後押しされるのです。
2. シングルタスクに切り替える
ふたつめのリカバリー術は、ひとつのことだけに集中する「シングルタスクに切り替える」テクニックです。
それってテクニックと言えるの? とご指摘を受けそうですが、ご覧のとおり、明白な理由があります。
| 内容 | マルチタスクや小刻みな情報の切り替えをやめ、ひとつの作業に集中 |
|---|---|
| 効果 | 脳のワーキングメモリを圧迫せず、認知的リソースを節約 |
| リカバリー的ポイント | 「散らかった脳」を、一列に整列させて回復 |
前出の猪俣氏によれば、「人間の脳は、基本的にマルチタスクが苦手」。複数のことを並行して進めるより、「いまはこれだけ」と決めて進めるほうが脳に合っているのです。*2
そうしたことから、猪俣氏は、
- シングルタスクの実行
- 集中力が途切れたら……
- 別のシングルタスクに切り替える
といった繰り返しなら、「切り替えのタイミングで集中力が復活し、結果的に集中力を持続させることが可能」だと伝えています。*2

3.「538の呼吸法」を使う
そして最後は、呼吸を利用して自律神経の「交感神経と副交感神経」を活性化させ、集中力を高める「538の呼吸法」です。*4
| 内容 | 呼吸テクニックで自律神経に影響を与える |
|---|---|
| 効果 | 交感神経も副交感神経も活性化している状態を導いて、集中状態をつくる |
| リカバリー的ポイント | 自律神経の状態を整えることで、自律神経と密接な関係がある集中力を回復 |
『深い集中を取り戻せ――集中の超プロがたどり着いた、ハックより瞑想より大事なこと』(ダイヤモンド社,2021)の著者で、「集中」について研究を行なう株式会社Think Lab取締役の井上一鷹氏は次のように述べています。*4
集中状態をつくることには自律神経も関わっており、自律神経の交感神経と副交感神経がともに活性化している状態がベストです。その状態をつくるために、呼吸を利用しましょう。
その井上氏が推奨する、集中力アップに効果的な呼吸法は以下のとおり。
- 5秒間深く息を吸う
- 3秒間息を止める
- 8秒かけてゆっくり息を吐く
井上氏は、「集中したいときに必ず行なうようにしてルーティン化することで、その効果をさらに高めることができるでしょう」と話します。*4
注意点と工夫
最後に、実践して気づいた注意点と工夫について、お伝えします。
- 「小さな目標」や「シングルタスク」は時間を意識することが大切なので、キッチンタイマーなどで常に時間を計りながら進めるのがおすすめ。
- 「呼吸」は心のなかでカウントするかたちでOK。そうすることで、マインドフルネス効果も生まれる気がする。
- 呼吸法は、集中力が切れたサインにどれだけ早く気づけるかがポイント。注意が散漫になったときの自分を手帳やノートに言語化しておくと自覚しやすい。
(筆者の例:文章の上を目が滑る、お菓子が食べたくなる、本棚に並んだ本の背表紙を眺め出す)
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集中できないのは、脳があなたを守ろうとしているからです。だからこそ、「集中力を立て直す工夫」さえあれば大丈夫。
小さな達成感で脳を動かし、作業をひとつずつこなすこと。簡単な呼吸法で、気持ちもリズムも整えていけるはずです。
集中できない日も、自分を責めずに冷静に、「脳と味方になる方法」を取り入れて前進しましょう。
*1: 日本の資格・検定|「人間は集中力が続かない生き物」医師が脳のメカニズムを解説【勉強効率アップの秘訣 Vol.1】
*2: STUDY HACKER|“医学博士×ハーバード留学×MBA取得” を実現。勉強の達人が教える「集中力持続法」
*3: PR TIMES|株式会社ベネッセコーポレーション|学習時間を細かく分けた「45分」で「60分」と同等以上の学習効果を発揮 “長時間学習”よりも短時間集中の“積み上げ型学習”が有効であった
*4: STUDY HACKER|集中のプロが厳選「超集中テクニック」5つ。深い集中のために “これ” を視界に取り入れて
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。