”考えすぎてしまう人” ほどパフォーマンスが落ちる—瞑想より効く、脳を整える30秒メソッド

脳みそを模したイラスト

仕事が終わり、ようやく自宅に帰って資格試験のテキストを開く。「今日こそ3章を終わらせよう」——そう思った矢先、会議で上司に言われた一言が頭をよぎる。気づけば同じページを何度も読み返しているだけで、内容が全く頭に入ってこない。

仕事のストレスで勉強に集中できない。ビジネスパーソンなら誰もが経験する、この深刻な悩み。職場の人間関係、プレゼンの緊張、積み上がるタスク……こうした仕事の悩みが頭から離れず、勉強時間があっても「考えごとばかりで集中できない」状態に陥っていませんか?

「集中力を高めるには運動やマインドフルネス瞑想が効果的」——そんな情報は知っている。でも正直なところ、疲れて帰宅したあとに運動する気力はないし、瞑想は三日坊主で終わってしまった。習慣化する前に挫折してしまうのが現実です。

もっと簡単に、いますぐ集中力を取り戻す方法はないのか? その答えが「グラウンディングテクニック」です。

本記事では、仕事の悩みで勉強に集中できないビジネスパーソンに向けて、すぐ実践できる「グラウンディングテクニック」の具体的なやり方と効果を解説します。筆者が実際に試したところ、驚くほど集中力が高まり、反芻思考から抜け出せましたよ。

「考えすぎるクセ」がパフォーマンス低下の原因 

勉強に必要な「集中力」や「意欲」の問題を、"自分の性格だから仕方ない" と諦めていませんか? じつは性格の問題ではなく、「考えごとが多すぎる」ことで脳が疲弊し、パフォーマンスが低下している可能性があります。

現代のビジネスパーソンは、上司と部下への対応、成果を出すプレッシャー、仕事と勉強で増え続けるタスク管理など、常に何かしらの悩みを抱えています。さらにSNSやニュースのチェック、チャットの通知対応と、脳が休まる暇がありません。スマホを手に取れば情報が次々と流れ込み、「思考をオフにする」時間は皆無に等しい状態です。

特に深刻なのが、「ネガティブなことを何度も繰り返し考えてしまう」状態です。たとえば、会議での失言が気になって夜も頭から離れない、上司の何気ない一言の真意を何時間も考え続けてしまう——こうした思考パターンが、集中力低下・意欲低下、ひいては脳疲労の原因となります。

心理学ではこの「同じことをグルグル考え続ける」状態を"反芻思考"と呼びます。ウェルネスコーチで健康教育者のエリザベス・スコット博士は、反芻思考について次のように説明しています。

Rumination involves repetitive and passive thoughts focused on the causes and effects of a person's distress. The problem is that these negative thoughts don't lead to solutions. *1

(反芻思考とは、ストレスの原因や影響について繰り返し受動的に考え続ける思考を指します。問題は、こうしたネガティブな思考が解決には結びつかないことです)

※訳は筆者が補った

スコット博士によれば、反芻思考は不安を増幅させる危険因子であることが研究で明らかになっています。不安が高まると、集中力の低下、意欲の減退、慢性的な疲労感といった、抑うつ症状に似た状態を引き起こす可能性があるとのこと。*1

つまり、勉強に最適な脳の状態をつくるには、まず「思考をクリア」にすることが不可欠なのです。では具体的にどうすればいいのか? 次項で、思考をクリアにして集中力を高めるトレーニング方法をご紹介しましょう。

横顔のシルエット

すぐに集中力が高まる「グラウンディング・テクニック」とは?

脳のノイズをクリアにし、集中力を高める方法として注目したいのが「グラウンディング・テクニック」です。

カリフォルニア大学の臨床心理学者、ルビン・コッダム博士は、グラウンディング・テクニックについて次のように説明しています。

Grounding techniques are designed to anchor us in the present moment, pulling us away from anxious thoughts and redirecting our focus to reality. 

(グラウンディング・テクニックは、意識を"いまこの瞬間"に引き戻すための手法です。不安な思考から離れ、現実に意識を向け直すことを目的としています)*2

※訳は筆者が補った

この説明を聞いて「マインドフルネス瞑想と同じでは?」と思う方もいるでしょう。たしかに概念は似ていますが、効果の現れ方に明確な違いがあります。

グラウンディング・テクニックの代表例が「漸進的筋弛緩法(PMR)」です。これは身体の各部位の筋肉に力を入れて緊張させた後、ふっと力を抜く動きを順番に繰り返す方法。たとえば、拳を5秒間ぎゅっと握りしめてから一気に開放する、肩をぐっと上げてからストンと落とす——こうした動作を通じて、意識的にリラックス状態をつくります。

「漸進的筋弛緩法(PMR)」の研究では、以下の効果が報告されています。

 
  • PMRを実施した後、すぐに不安が有意に低下した(Carver & O’Malley, 2015)
  • 急性の不安と慢性的な不安の両方に軽減効果が見られた(Cougle et al, 2020; Liu et al, 2020; Chen et al, 2009)
  • ほかの方法と比較して、その場での不安低下効果が顕著だった(Keptner et al, 2021) *2

つまり、グラウンディング・テクニックは「不安軽減の即効性」に優れているのです。

マインドフルネス瞑想が継続的に行なうことで効果が高まる「筋トレ」だとすれば、グラウンディング・テクニックは集中モードに切り替える「スイッチ」。勉強前や集中力が途切れたときに、その場ですぐ実践できる点が最大の強みと言えるでしょう。

  • マインドフルネス瞑想
    =継続的に行なうことで効果が高まる「筋トレ」
  • グラウンディング・テクニック
    =集中モードに切り替える「スイッチ」

赤いスイッチ

グラウンディング・テクニックの具体的なやり方

では、グラウンディング・テクニックは具体的にどう実践すればよいのでしょうか。機能医学の専門家、メリッサ・ヤング医学博士が推奨するのが「3・3・3テクニック」です。

where you focus on three things you can see, hear and touch. Don’t overthink it. *3

(「見えるもの」「聞こえるもの」「触れられるもの」、それぞれ3つに意識を向けるだけです。深く考えすぎる必要はありません)

※訳は筆者が補った

やり方は驚くほどシンプル。たとえば、デスクで勉強しているときなら次のようなものに意識を向けます。

 
  • 見えるもの:机の隅に置かれた観葉植物の葉脈、窓の外のゆれるカーテン、マグカップの取っ手
  • 聞こえるもの:遠くから聞こえる車の走行音、エアコンの静かな稼働音、隣の部屋のかすかな生活音
  • 触れられるもの:椅子の背もたれの硬さ、シャーペンのグリップの質感、机の表面の冷たさ

つまり、あれこれ考えて注意散漫になる脳を、“現実に触れる” ことを通して集中モードに切り替えるのです。

勉強の集中力を上げるために「グラウンディング・テクニック」を実践してみた

実際にグラウンディング・テクニックを試すと、どんな効果が得られるのでしょうか。筆者が最も疲労困憊する「夜の勉強時間」で実践してみました。

筆者が「3・3・3テクニック」で意識を向けたのは——
  • 見えるもの:机の上のマグカップ、窓際で揺れるカーテン
  • 聞こえるもの:冷蔵庫の低いモーター音、エアコンの稼働音
  • 触れられるもの:シャーペンのグリップ

どれも、いつも家にある身近なものです。あらかじめ時間を設定したわけではなく、勉強中に「集中できない」「意識が散漫になっている」と感じた瞬間に実践しました。すると、次のような効果を実感できました。

  • 脳の疲れによる「目の疲れ・頭の重み」が軽くなった!
    まず、驚いたのが身体感覚の変化です。シャーペンのグリップの凹凸に意識を集中させると、目の裏側がギュッと締まる感覚がし、それまで感じていた目の疲れが和らぎました。同時に脳のノイズが静まり、頭全体を覆っていた重さも軽減されていきました。
  • 繰り返すほど、集中力が高まった!
    もうひとつの発見は、回数を重ねるごとに集中力が増していくこと。「また気が散ってきたな」と感じるたびに「3・3・3テクニック」を実践すると、脳が「ひとつのことに意識を向ける」状態に慣れていき、次第に深い集中状態に入りやすくなりました。
  • 場所や時間の制約がなく、すぐできる!
    瞑想との決定的な違いは、場所や時間を選ばず、その場で即座に実践できる点です。今回使ったのはすべて自宅にある日常的なもの。しかも瞑想のように10〜15分の時間を確保する必要はなく、わずか30秒程度でも十分な効果がありました。

もちろん個人差はあるでしょう。しかし、日常的に脳の疲れを感じていて勉強に集中できない方にとっては、試す価値のある方法です。特別な準備も不要なので、ぜひ今日から取り入れてみてください。

***
気が逸れたり心配ごとで勉強に集中できないとき、“30秒だけ”でも五感に意識を向けてみてください。「心ここにあらず」の状態から抜け出し、勉強に集中できるはずですよ。

(参考)

*1 verywell mind|What Is Rumination?
*2 Psychology Today|Grounding Techniques for Anxiety
* 3 Cleveland Clinic|13 Grounding Techniques for When You Feel Overwhelmed

【ライタープロフィール】
青野透子

大学では経営学を専攻。科学的に効果のあるメンタル管理方法への理解が深く、マインドセット・対人関係についての執筆が得意。科学(脳科学・心理学)に基づいた勉強法への関心も強く、執筆を通して得たノウハウをもとに、勉強の習慣化に成功している。

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