「なんで週5出社なの?」とモヤモヤするのは、“脳の自然な反応” でした

デスクに突っ伏している男性

コンサルティング大手のアクセンチュアが全社員に対して「週5日出社」を義務化すると発表し、SNS上で大きな話題となりました。

「なぜ急に?」「リモートワークのよさを理解していない」「時代に逆行している」

ほかの企業でも同様の方針転換が進むなか、このように疑問と不満を抱いた方も多いのではないでしょうか。

この感情、心理学的には「リアクタンス」と呼ばれるものかもしれません。今回は、命令されると反発したくなる「心理的リアクタンス」について掘り下げていきます。

なぜ「命令されると反発したくなる」のか? 

親に「勉強しなさい」と言われた瞬間、やる気がなくなった——子ども時代、こんな経験をした方も多いのではないでしょうか。これは決してあなたが「ひねくれている」わけではありません。人間にとって、とても自然な心理反応なのです。 この現象を心理学では「心理的リアクタンス」と呼びます。

📚心理的リアクタンス(Psychological Reactance)
自由を制限されたり、選択肢を奪われたりしたときに生じる、その制限に反発しようとする心理的な動機のこと。1966年に心理学者ジャック・ブレームによって提唱されました。*1

つまり、人間は「自分で選択する自由」を重視する生き物であり、その自由が脅かされると、反発したくなるのです。

心理的リアクタンスの背景には、人間の「自律性を尊重されたい」という根源的な欲求があります。これは自己決定理論でいう「基本的心理欲求」のひとつであり、満たされないと不満や抵抗感を生むことが知られています。

 「リモートワークか出社かを自分で選びたい」

 「なぜ出社が必要なのか、理由を知ったうえで判断したい」

 「一方的に決められるのではなく、意見を聞いてもらいたい」

これらはすべて、自律性への欲求の表れなのです。

自宅で仕事をしている女性

コロナ禍で得た「選択の自由」

コロナ禍以前、多くの企業では「毎日出社するのが当たり前」でした。しかし、リモートワークの普及により、働く場所を「選択できる」企業が増えました。

「今日は集中したいから家で作業しよう」
「打ち合わせがあるから、今日はオフィスに行こう」

このような「自分で選択する働き方」を数年間体験したあとで、急に「週5出社義務」と言われれば、それは「自由を奪われた」と感じるのは自然な反応といえるでしょう。一度体験した選択の自由が制限されることへの反発は、特に強く感じられるものです。

企業の出社義務化について議論される際によく見られる反応には、リアクタンスの典型的なパターンが現れています。

◇ 典型的な反発コメント
• 「理由が説明されていない」
「なぜ急に全員出社なのか、納得のいく説明がない」
• 「選択肢がない」
「ハイブリッドワークという選択肢すら与えられない」
• 「上からの押し付け」
「現場の意見を聞かずに一方的に決められた」

これらの反応は、出社そのものへの不満というより、「自律性を無視された」ことへの抗議と解釈できます。

木の屑の上に拳を乗せて苛立っている様子を見せるビジネスパーソン

リアクタンスが生む悪循環——建設的でない反発

心理的リアクタンスが問題なのは、本来の目的とは無関係な反発を生み出してしまうことです。リアクタンスによる悪循環は以下のように進行する可能性があります。

  1. 自由の制限 → 出社義務化の発表
  2. 反発感情 → 「なぜ自分で選べないのか」という不満
  3. 関与度の低下 → 業務や職場への積極的な参加意欲の減退
  4. パフォーマンス悪化 → 創造性や協調性の低下
  5. さらなる管理強化 → 上司からの指導や規則の厳格化
  6. より強い反発 → 「また自由を奪われた」という感覚

この循環に陥ると、本来の業務目標とは全く関係のないところで、エネルギーが消耗してしまいます。

顔に本を載せて椅子にもたれている女性

リアクタンスとうまく付き合うには?

感情と事実を分けて考える

まず重要なのは、「感情的な反発」「実際の問題」を分けて考えることです。

✓ 感情
「強制されるのが嫌だ」
✓ 事実
「週5出社になると通勤時間が2時間増える」

感情の部分はリアクタンスによるものかもしれませんが、事実の部分は正当な課題です。この区別ができると、建設的な対応が可能になります。たとえば通勤時間の問題であれば、時差出勤の活用、通勤ルートの見直し、オフィス近くへの引越しの検討など、現実的な解決策を探ることができるでしょう。

出社の意味を自分なりに再定義する

リアクタンスを軽減するには、制限されたなかでも「自分なりの意味」「選択の余地」を見つけることが有効です。出社を「強制された苦痛」ではなく、「新しい機会」として捉え直すことで、心理的な負担を軽減できます。

  • 同僚との偶発的な会話から生まれるアイデアを積極的に活用する機会
  • 集中を要する重要なプロジェクトに取り組む専用時間として活用
  • チームビルディングや後輩指導など、対面でこそ効果的な業務に注力

小さな選択肢を意識的につくる

全体的な方針は変えられなくても、日常の細部で可能な範囲で自分なりの選択権を行使することで、自律性の感覚を回復できます。

  • オフィス内での作業スペースの選択
  • 昼食の取り方や休憩時間の過ごし方の工夫
  • 通勤ルートや時間帯の調整
  • 業務の優先順位づけ

感情の客観視を習慣化する

指示を受けたときの自分の感情を冷静に分析する習慣をつけることで、反射的な反発を抑制できます。

❓ いま感じている反発は、内容への反対か、強制されることへの反発か?
❓ もし自分が同じ内容を提案したとしたら、どう感じるだろうか?
❓ この反発は建設的な解決につながるだろうか?

このような自問自答により、感情と理性のバランスをとりながら状況に対応できるようになります。

笑顔で歩いているビジネスパーソン

組織側への示唆──「指示の伝え方」がすべてを変える

管理者側の視点でも、リアクタンスを理解することは重要です。同じ内容でも、伝え方次第で受け手の反応は大きく変わります。

リアクタンスを軽減する4つの原則

1 理由を明確に説明する
「なぜその判断に至ったのか」の背景を具体的に伝える。業績データ、市場動向、チーム効率性の分析結果など、客観的な根拠を示すことで納得感を高める
2 選択肢を可能な限り提示する
完全な自由は与えられなくても、「週5出社だが時差出勤は可能」「特定曜日は在宅勤務可」など、限定的でも選択権があることを明示する
3 意見交換の機会を設ける
「この方針について率直な意見を聞かせてください」として双方向のコミュニケーションを図り、一方的な決定ではないことを示す
4 段階的な実施を検討する
急激な変化ではなく、「来月は週3出社、再来月から週5出社」など、調整期間を設けることで心理的な負担を軽減する

同じ「週5出社」でも、伝え方によって受け手の反応は劇的に変わります。

リアクタンスを誘発する伝え方
「来月から全員週5出社です。詳細は後日連絡します。」
リアクタンスを軽減する伝え方
「プロジェクトの効率向上とチーム連携強化を目的に、来月から段階的に出社日数を増やすことを検討しています。まず皆さんのご意見をお聞かせください。個別の事情がある場合は、できる限り調整したいと思います。」

後者は、同じ結果でも「自分の意見が考慮されている」「選択の余地がある」と感じられるため、協力的な姿勢を引き出しやすくなります。

まとめ──建設的な関係構築に向けて

心理的リアクタンスは、人間の基本的な心理反応です。重要なのは、この心理を理解したうえで、建設的な方向に向けることです。

個人ができること

  • リアクタンスを感じたときは、感情と事実を冷静に分けて考える
  • 制限のなかでも自分なりの意味や選択肢を積極的に見つける
  • 反発で終わらず、建設的な提案や対話を心がける

組織ができること

  • 指示や方針変更の際は、理由と背景を丁寧に説明する
  • 可能な範囲で選択肢や意見交換の機会を必ず設ける
  • 急激な変化ではなく、段階的な移行を基本とする

出社義務化という変化も、適切なコミュニケーションがあれば、組織と個人の双方にとって有益な結果をもたらす可能性があるのです。

***
「なんで週5出社なの?」という反発の背景には、複雑な心理的メカニズムが働いています。それを理解することで、自分の感情とも、組織ともうまく付き合えるようになるのではないでしょうか。

(参考)

*1 NLP-JAPAN ラーニング・センター|心理的リアクタンスを活用して人を動かす方法
*2 Brehm, J. W. (1966). ”A Theory of Psychological Reactance.” Academic Press.

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STUDY HACKER 編集部

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