ホワイトすぎて辞める若手たち。"肩透かしリアリティショック"の正体

部下がいるビジネスパーソンの優しい笑顔

「普段から気をつかって接しているつもりなのに、なぜか部下が辞めてしまう……」 そんな経験や不安を抱えたことはありませんか?

じつは、「やさしすぎる上司」ほど、部下の離職リスクを高めてしまう可能性もあるのです。部下のためを思っているのにうまくいかない。そんな悩ましい問題を、いまこそ解消しましょう。

なぜ「やさしい上司」がいる職場から人が離れるのか 

「パワハラをしない」「相手を尊重する」「相手の気持ちを考えて接する」 これらは、現代の職場において重要なマネジメント姿勢です。

しかし――「強く言うと辞めてしまうのでは?」という観点で “やさしさ” だけに偏ると、むしろ部下のエンゲージメントを維持できないことがあります。

1. パフォーマンスが落ちる

認知心理学の知見を基に検証した2023年の研究によれば、ルーチンワークにおいて心理的安全性とパフォーマンスの関係は単純な比例関係ではありません。一定の水準を超えるとむしろ逆効果になることが実証されています。*1

つまり、心理的安全性が高すぎると、緊張感が薄れ、ルーチンワークでの注意力や集中力が低下。その結果、業務上のミスが増えたり、生産性が落ちたりする可能性があります。

この状況で、ミスをしてもあまり指摘されない場合、部下は成長の手応えを感じられず、将来への不安を募らせてしまうでしょう。

1. 肩透かしリアリティショック

また、近年は「肩透かしリアリティショック」という言葉が聞かれます。これは、「厳しい環境を覚悟したのに、実際は思った以上に緩かった」を意味する言葉。*2

株式会社人材研究所ディレクターの安藤健氏は、退社を考える若手からはこうした声が聞かれると述べ――*2

  • 「研修のときより緩い」
  • 「全然マネジメントしてくれない」

次のように警鐘を鳴らしています。*2

「優しすぎる」環境が、成長を渇望する若手社員の期待を裏切り、早期離職につながるという逆説的な現象が起きているのです。

「退職願」と書かれた封筒と便箋

離職を防ぐための3つの実践法 

これまでの内容をふまえると――

部下の離職を防ぎ、組織内で「安心しながら挑戦できる」環境をつくるためには、やさしさだけに頼るのではなく、具体的なマネジメントの工夫が欠かせません。

以下に、心理的安全性と成長機会の両立を図るための方法をご紹介します。

1. やさしい声かけ+明確な指示

目標と期待が明確に定義され、チームがそれらを達成するために協力し合っている場合、効率性が向上し、従業員のエンゲージメントが高まり、全体的な仕事のパフォーマンスが向上するといいます。*3

この知見をもとに、うまくバランスをとってみましょう。

▼ 実践例:やさしさに加え明確な指示も与える

  • 企画・提案系:「今回はA社への提案書作成を任せます。最初の構成案を3案くらい出してみてください。完璧じゃなくていいので、まずは叩き台として。一緒にブラッシュアップしましょう」

  • 製造・現場系:「今月の生産ラインの改善案を考えてみてください。まずは課題を3つ洗い出してもらえると助かります。うまくいかなくても大丈夫、次週のミーティングで一緒に検討しましょう」

  • 営業・販売系:「既存顧客へのフォローアップを今週5社お願いします。訪問前に各社の課題を簡単にまとめておいてください。困ったことがあればいつでも相談してね」

  • エンジニア系:「この機能の実装方法を2〜3パターン検討してください。試してみて詰まったら声かけて。来週のミーティングで一緒に比較検討しましょう」

  • カスタマーサポート系:「今週の問い合わせトップ3の傾向を分析して、改善案を出してみてください。まずは気づいたことをラフでいいのでまとめてもらえれば。そこから一緒に深掘りしましょう」

ポイントは、明確なタスク、「完璧じゃなくていい」というメッセージ、上司がサポートする姿勢です。これにより、部下はどう動いていいかわかり、判断に迷わず、安心して仕事ができるはずです。

関係性が良好な上司と部下

2. 小さな成功体験を意図的に設計

人は成功体験を通じて自己効力感(自分ならできるという感覚)を高めます。これは、離職防止とエンゲージメント向上において極めて重要な要素です。

そこで、部下に対して成果が出やすく短期間で完結するタスクから任せ、段階的に成功体験を積ませましょう。

▼ 実践例:スモールステップで段階的に仕事を任せる

たとえば、新しいプロジェクトを任せる場合、いきなり全体を丸投げするのではなく、以下のように段階を踏みます。

  1. Step1  : 資料の一部作成
    「まずはこのセクションだけ担当してみて。フォーマットは既存のものを参考にしていいから、1週間後に見せてください。途中で困ったらいつでも相談してね」
    → ポイント:小さく限定された範囲、参考資料あり、相談しやすい雰囲気
  2. Step2  : 企画案の骨子作り
    「Step 1がうまくできたので、今度は企画の骨子をつくってみてください。3つくらいアイデアを出してもらえると助かります。完璧じゃなくていいので、まずはラフで。一緒に詰めていきましょう」
    → ポイント:前回の成功を認める、創造性を求めるが失敗OK、上司が伴走
  3. Step3  : 全体統括
    「ここまでのステップで力がついてきたと思うので、今回はプロジェクト全体を任せます。困ったときは相談してください。定期的に進捗を確認しながら進めましょう」
    → ポイント:信頼を示す、でもサポート体制は維持

難易度を細かく調整することで、「ちょうどいい負荷」をかけることができ、安心と挑戦の両立を実現できるはずです。

また、各ステップで成功を承認することで、部下の自信とモチベーションを段階的に高めることができます。

自信を高めているビジネスパーソン。上司と同僚に見守られる。

3. 難易度の戦略的にコントロール

仕事の割り振りはマネージャーが最も影響力を発揮できる領域です。難易度が高すぎると萎縮し、低すぎると退屈になる。このバランスを意図的にデザインすることが、部下の成長と離職防止の鍵となります。

心理学では、「ちょうどいい挑戦レベル」をラーニングゾーン(ストレッチゾーン)と呼びます。現在の能力より少しだけ高く、努力すれば達成できる領域です。*4

▼ 実践例:「70%の確実性」を目安にタスクを設計する

理想的な難易度は、部下が「努力すれば達成できそう」と感じるレベル。(あくまでも目安として)70%くらいの確率で成功できそうな仕事を選びます。

  • 50%以下:難しすぎて挫折しやすい
  • 70%前後:挑戦のしがいがあり、成長を実感できる←コレ
  • 90%以上:簡単すぎて退屈、成長実感が薄い

たとえば、初めて提案書をつくる部下には「構成案だけ」、何度か経験がある部下には「全体の作成」というように、同じ業務でも範囲を調整します。

適切な難易度の仕事を任せることで、部下は「自分のレベルを理解してくれている」「成長を期待されている」と実感でき、心理的安全性と成長機会の両立につながるでしょう。

***
「やさしさ」は出発点。成長を支える関わりへと進化させてこそ、真のマネジメントです。できることから始め、「育てながら信頼される上司」への一歩を踏み出してみませんか? 

【ライタープロフィール】
上川万葉

法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。

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