後悔しない人は、考える順番が違う。哲学者が教える「選択思考」7ステップ実践法

小川先生

仕事でもプライベートでも、他人の基準に従っているだけでは「自分で納得のいく選択」はできません。納得のいく選択ができず悩むことは多くの人が経験することですが、企業で働くビジネスパーソンを相手に「ビジネス哲学研修」などを行なっている、山口大学国際総合科学部教授で哲学者の小川仁志先生が、そんな悩める人たちに向けて提唱するのは、「選択思考」というメソッドです。既存の選択肢に縛られず、自分の頭で考え、自分の言葉で答えをつくり出すための実践的な思考プロセスを明かしてくれました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹

【プロフィール】
小川仁志(おがわ・ひとし)
1970年生まれ、京都府出身。哲学者、山口大学国際総合科学部教授。専門は公共哲学、哲学プラクティス。京都大学法学部卒業、名古屋市立大学大学院博士後期課程修了。博士(人間文化)。商社マン(伊藤忠商事)、フリーター、公務員(名古屋市役所)を経た異色の経歴を持つ。徳山工業高等専門学校准教授、米プリンストン大学客員研究員等を経て現職。大学で課題解決のための新しい教育に取り組む傍ら、全国各地で「哲学カフェ」を開催するなど、「市民のための哲学」を実践している。また、テレビをはじめ各種メディアにて哲学の普及にも努め、『世界の哲学者に人生相談』、『ロッチと子羊』(いずれもEテレ)では指南役を務めた。近年は、中小企業から大企業まで業種を問わず「ビジネス哲学研修」を多数実施。哲学思考を活用し、企業のコアメッセージ再定義から新規事業開発、働き方改革、部署間コミュニケーション改善まで、多様なビジネス課題の解決をサポート。深い問いかけと対話を通じて、組織と個人の本質的な成長を支援している。ベストセラーとなった『7日間で突然頭がよくなる本』(PHP研究所)をはじめ、『その悩み、哲学者とお坊さんはこう答える』(法藏館)、『物事の見方が変わるヒント ドラえもんで哲学する』(PHP研究所)、『読むだけで頭がよくなる思考実験42』(三笠書房)、『アイデアの着眼点』(フォレスト出版)、『哲学を知ったら生きやすくなった』(日経BP)など著書多数。

自分のなかの「当たり前」を疑い、自己理解を深める

私が提唱している「選択思考」とは、限られた選択肢のなかから最適なものを「選ぶ」のではなく、自ら「つくり出す」ことを重視する思考メソッドです。私が専門とする哲学の各種思考法をベースに、常識や他人の基準にとらわれず、自分で納得のいく答えを創造するための方法と言えます。

その根底には、「悩むのではなく考える」「最後は自分で決める」「ファイナルアンサーだと考えない」という3つの原則があります。変化が激しく正解が見えにくい時代に、自らの価値観を軸に柔軟で主体的な選択を行うための知的スキルです(『“正解がない時代” に強い人は、選ぶ前に考えている。後悔しない「選択の技術」』参照)。

今回は、さらに一歩進めて、選択思考のより具体的な実践法について解説しましょう。それは、以下の7ステップからなります。

選択思考7ステップ

私自身が実践した具体例を挙げながら、順に解説していきます。選択に迷うときは、なんらかの悩みを持っていることが大半であると思います。その悩みなど複雑な問題をシンプルな言葉にいい換えて、本当に向き合うべき問題を明確にしましょう。

これが、「①核となるワードをひとつ選ぶ」という作業になります。たとえば、誰かとの関係に悩んで今後のつき合い方をどうすべきか悩んでいるなら、「人間関係」を「核となるワード」にするといった具合です。

次の「②定義する」では、現時点での自分自身が「核となるワード」をどのようにとらえているのかをはっきりさせます。あまり考えすぎることなく、「核となるワード」を素直に自分の言葉で表すのです。ここでは、「人間関係とは、苦手な他者とのつき合い方」と定義しておきましょう。

続いて、「③疑う」では、自分が当然だと思いこんでいる定義や考え方を疑い、自分を縛っている固定観念を解きほぐします。たとえば、「『人間』関係とは、人間だけのものか?」「家族との関係も『人間関係』というのか?」「どこまでいけば『苦手』という判断になるのか?」というように、ステップ②で定義した言葉から連想を広げていき、「人間関係とはこういうものだ」という自分のなかのあたりまえを徹底的に吟味するのです。そうすることで、自己理解をより深めたうえで思考に柔軟性をもたせることができます。

悩む2人の男性

「人間以外の視点」を使い、思考を大きく飛躍させる

そして、次の「④視点を変える」ことこそが、選択思考のキモといえる重要なステップです。視点を変えることで、新たな気づきやアイデアを生み出し、問題に対する新しい見方を発見します。

ポイントは、「人間以外の視点を使う」という点にあります。「視点を変える」というと、「あの有名な経営者ならどう考えるだろう?」というように、他人の視点を使うことを考えがちです。でも、他人とはいえ同じ人間ですから、それではまったく新しい見方というものは発見しにくいのです。

そこで、たとえば時計やペンなど目についたもの、動物など人間以外の生物、怒りやよろこびとなどの感情、平和や運命といった抽象的概念など、とにかく人間以外の視点を使ってみてください。

私は日常的によくガムを噛んでいますから、ガムの視点から人間関係がどう見えるかを考えてみます。ガムはよく噛むことでおいしさを味わえたり、口内環境に好影響を与えてくれたりします。ですから、ガムが人間関係を見たら、「噛み足りないからうまくいかないんだよ、もっとよく噛んで」と思うかもしれません。

ほかにも、石なら「ぺちゃくちゃ余計なことをいうから問題が起きるのだし、自分みたいに黙っていればいいのに」というように、複数の人間以外の視点から「核となるワード」の見方というものを洗い出してみましょう。

そうするなかで、自分でハッとする、心に響くものが見つかります。それをベースに、「核となるワード」を「⑤再構成・再定義する」というステップへと進みます。自分でハッとするような気づきをもたらしてくれた見方を元にして、「自分の理想」をかたちにするのです。

ここでは、先に挙げた「もっとよく噛んで」「黙っていればいいのに」というふたつの「モノ」からの見方をベースにして、人間関係を「よく噛んでモノにすること」と再定義してみます。

これらのステップについて、「常識的に見てばかげている」「現実的じゃない」と感じた人もいるかもしれません。でも、常識や現実という視点からしかものごとを見ていないために悩み続けているのですから、視点を大きく変えて思考を飛躍させるというこれらのステップは、悩みを解決してよりよい選択をするために欠かせないのです。

ガム

新たなコンセプトが基準となり、よりよい選択を可能にする

そうして「核となるワード」を再定義したら、「⑥コンセプト化する」に進みます。簡潔でユニークな言葉で表す――いわば言葉遊びをすることで、わかりやすくなる、イメージしやすくなる、記憶しやすくなるといったさまざまなメリットが期待できます。

先のステップ⑤では、人間関係を「よく噛んでモノにすること」と再定義しました。つまり、苦手な人を避けるのではなく、そうした人の味がわかるまでよく噛むという意味合いが含まれます。ですから、人間関係という言葉の響きに近いことも踏まえて、「人間噛んで」というコンセプトでどうでしょうか。

そして最後のステップが、「⑦選択する」です。ここまでの6つのステップを経てつくり上げた新たなコンセプトは、よりよい選択をするための自分なりの選択基準です。それさえあれば、もう選択に迷うことはありません。

じつは、この「人間噛んで」というコンセプトは、かつての私自身がつくり上げたものです。私も以前は人間関係に悩むことが多かったのですが、このコンセプトに行き着いて以降、「苦手な人を避けてばかりいても事態は好転しない」「よく噛むように深くつき合ってみたら、相手のすてきな一面が見えてくるかもしれない」と考えるようになり、関係性がよくない相手であるほど近い距離感でつき合うという選択をするようになりました。結果は良好で、いまでは人間関係について深く悩むということはほとんどありません。

私自身がその効果を保証します。みなさんがなにかに悩んでいる、選択できないというようなときには、ぜひ「選択思考の7ステップ」を活用してください。

小川先生

【小川仁志先生 ほかのインタビュー記事はこちら】
“正解がない時代” に強い人は、選ぶ前に考えている。後悔しない「選択の技術」
迷いを手放す人は、「選ばない勇気」をもっている。哲学が導く後悔しない生き方(※近日公開)

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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