
転職すべきか、今の会社に残るべきか。
AプランとBプラン、どちらを選ぶべきか。
ランチのメニュー、どれにしようか……。
もっと情報を集めれば、もっと比較検討すれば、正しい答えが見つかる。
そう信じて考え続けているうちに、頭は疲れ果て、結局決められないまま時間だけが過ぎていく。
実は、その「考えすぎ」こそが判断を狂わせる元凶かもしれません。
- 1日35,000回の決断が、あなたを消耗させている
- 「考えすぎ」の3つの致命的なコスト
- 「コインで決める」? そんな無責任な方法が…
- でも実は、これは「運任せ」ではない
- コインが決めるのではない。あなたの「反応」が決める
- いつ使うべきか、使うべきでないか
- 3秒コイントスをより効果的にする2つのコツ
- 選んだ後が本番——ポジティブ思考で「正解」にする
- 完璧な正解は、最初から存在しない
1日35,000回の決断が、あなたを消耗させている
明治大学法学部教授の堀田秀吾氏によれば、私たちは1日に約35,000回の意思決定をしているといいます。*2
朝、何を着るか。何を食べるか。どのタスクから手をつけるか。メールにどう返信するか。
これだけ多くの選択を迫られれば、「決断疲れ」が起こるのは当然です。そして疲れた脳は、ミスを犯しやすくなり、決断を先送りし、パフォーマンスが低下するという悪循環に陥ります。

「考えすぎ」の3つの致命的なコスト
慎重に考えることは大切です。しかし、度を越えた「考えすぎ」には、想像以上の代償があります。
情報が多すぎると、判断が劣化する
「もっと調べれば、より良い判断ができるはず」——そう思いませんか?
ところが心理学者アルバート・ダイクスターハウス氏らの研究は、その常識を覆しました。4台の車からお買い得な車を選ぶ実験で、じっくり考えたグループよりも、直感的に選んだグループのほうが正答率が高かったのです。*3
情報量や思考時間が一定ラインを超えると、私たちの判断は鈍化します。「まだ比較が足りない」と情報を集め続けるほど、本質を見失ってしまうのです。
考えすぎると、満足度が下がる
「A案とB案、もう少し検討してから決めよう」
慎重に選んだほうが後悔しないと思いきや、研究では素早く決断したほうが満足度が高い傾向が示されています。考えすぎは機会損失を招き、「あのとき決めていれば」という後悔の種になります。
理想と現実の間で、精神が消耗する
「転職してキャリアアップしたいけど、今の人間関係を失いたくない」
「高額セミナーを受けたいけど、効果があるか不安だ」
理想と現実の間で揺れ動く状態——「認知的不協和」——が続くと、自己評価が揺らぎ、ストレス反応を引き起こします。*4
「コインで決める」? そんな無責任な方法が…
では、どうすればいいのか?
ここで突拍子もない提案をします。
コインを投げて決めてください。
「は? 真面目に悩んでるのに、運任せにしろと? 」
そう思うのは当然です。重要な決断を、コインの表裏に委ねるなんて無責任に聞こえます。

でも実は、これは「運任せ」ではない
デンマークの数学者ピエット・ハインは、こんな言葉を残しています。*1
迷ったらコインを投げるのは運任せではない。宙にある一瞬、心は「どちらを望むか」を教えてくれる。
たとえば、A案とB案で迷っているとします。コインを投げて「B」が出た瞬間——
「なんだか、モヤモヤする」
「え、Aがよかったのに…」
そう感じたなら、あなたの深層心理は「Aを望んでいる」のです。逆に「B」が出て「ホッとした」なら、それがあなたの本音です。
コインが決めるのではない。あなたの「反応」が決める
つまり、コインの結果そのものに従うのではありません。
結果を見た瞬間の自分の心の反応——それこそが、最終的な決断の材料になるのです。
考えすぎて頭でっかちになった思考を一旦リセットし、3秒で本音を可視化する。それがこの「3秒コイントス」の本質です。
いつ使うべきか、使うべきでないか
もちろん、この手法は万能ではありません。使う場面を見極める必要があります。
▼使うべき場面
- 優劣つけがたいとき
- 後戻りできるとき(やり直しが効く)
- 期限が迫っているとき
- 自分に決定権があるとき
▼避けるべき場面
- 一度決断したら後戻りできないとき
- 倫理面や安全面が関わるとき
- 自分以外にも大きな影響があるとき
- 説明責任が求められるとき
3秒コイントスをより効果的にする2つのコツ
1. 自分の「決められない理由」を把握しておく
「顧客を失う不安が強くて、新規開拓に踏み出せない」「失敗を恐れて、現状維持を選びがち」——自分の思考のクセを事前に理解しておくと、コインへの反応がより明確に読み取れます。
2. チーム内でルール化する
「反発を感じたら、その反応を判断材料にする」とチームで共有しておけば、個人の迷いをチーム全体の意思決定に活かせます。

選んだ後が本番——ポジティブ思考で「正解」にする
3秒コイントスは「本音を可視化する」のに役立ちますが、重要なのはその後です。選んだ選択を、自分で正解にしていく。
そこで鍵になるのが「ポジティブ思考」です。
- 具体的な目標に落とし込む:「失敗しないようにする」ではなく「3日以内に提出する」
- 行動を細分化して小さな成功体験を積む:「リサーチは2時間で終わらせる」
- 限られた条件でもできることをする:「集めた情報で資料をまとめる」
コインで本音を引き出し、ポジティブ思考で行動につなげる。この2ステップが、意思決定の質と満足度を飛躍的に高めます。

完璧な正解は、最初から存在しない
「もっと考えれば、正しい答えが見つかる」——その信念が、あなたを考えすぎの罠に陥れているのかもしれません。
情報が多すぎると判断は劣化し、考えすぎると満足度は下がり、迷い続けることで心は消耗します。
3秒コイントスで思考をリセットし、本音を引き出す。そしてポジティブ思考で、選んだ道を正解にしていく。
完璧な正解は最初から存在しません。あなたが選び、行動することで、それが正解になるのです。
*1 goodreads|Quote by Piet Hein: "Whenever you're called on to make up your mind,..."
*2 堀田秀吾(2025),『決めることに疲れない 最新科学が教える「決断疲れ」をなくす習慣』, 新潮社.
*3 ダイヤモンド・オンライン|「どれにしよう…」と迷わない! ラーメン屋で即決できる「失敗しない選び方」とは?
*4 あしたの人事オンライン|認知的不協和とは? 理論や分類、ビジネスにおける具体例、克服方法など紹介
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。