
📘 新人さんのためのマーケティング講座 Season7
Season6では「なぜこのブランドは選ばれ続けるのか」を事例で深掘りしました。
Season7では、より深く「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を解き明かしていきます。
まだ過去のSeasonを読んでいない方は、そちらからどうぞ。
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2026年3月1日、株式会社串カツ田中ホールディングスが社名を「株式会社ユニシアホールディングス」へと変更しました。単なる名称変更ではなく、「脱・串カツ田中」を宣言し、グローバルなマルチブランド企業へと脱皮する意思表示です。*1
そのタイミングで明かされた数字が衝撃的でした——国内既存店313店舗のうち、半数を超える170店舗(54%)が2025年に過去最高年商を更新。*2
「ブームが去れば終わり」と言われた串カツ業態が、なぜここまで「国民の日常」になれたのか。2026年のファミリーインフラ戦略の核心を解剖します。
- 居酒屋業界のタブーを破った一手——2018年の全店禁煙化という「常識の書き換え」
- 「無限串」のヒットとPISOLA買収——マルチブランドで「インフラ化」を加速する
- 「影のインフルエンサー(子ども)」を喜ばせることが、2026年の最強の集客戦略になる
- よくある質問(FAQ)
居酒屋業界のタブーを破った一手——2018年の全店禁煙化という「常識の書き換え」
串カツ田中の転換点は2018年6月1日に遡ります。業界に先駆け、約95%の店舗で全席禁煙化を断行しました。*3
当時の外食業界では「禁煙化は客離れを招く」という常識がありました。しかし串カツ田中が失いたくなかったのは「煙草を吸うサラリーマン」ではなく、「子連れで来たくても来られなかったファミリー層」でした。
禁煙化後、客数に占めるファミリー層の割合は7.5ポイント上昇し20.8%に達しました。*3 「居酒屋は子どもが入れない場所」という既成概念を、物理的に書き換えた瞬間です。
| 項目 | 従来の赤提灯居酒屋 | 串カツ田中(ユニシアHD) |
|---|---|---|
|
主役の ターゲット |
会社帰りのサラリーマン | 子ども・ファミリー層・Z世代 |
| 空間の定義 | 煙草とアルコールのストレス発散場 | にぎやかに体験を楽しむ「近所の遊園地」 |
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リピートの フック |
安さ・いつものメニュー | 体験・ゲーム性(チンチロリン・ソフトクリーム) |
| 2026年の存在価値 | 斜陽化する夜の街の選択肢 | 三世代が機嫌よく集まれる「外食インフラ」 |
ファミリー層を迎え入れるための仕掛けも精巧です。小学生以下のソフトクリーム無料・サイコロの目に応じてサワーが無料や半額になる「チンチロリン」・店舗の約7割が住宅地に立地するという地理的設計。*3 「子どもが田中に行きたいと叫べば、親は断れない」——家族の意思決定のなかで子どもがキャスティングボートを握るという逆転の集客構造を意図的に設計しています。

「無限串」のヒットとPISOLA買収——マルチブランドで「インフラ化」を加速する
既存店の54%が過去最高年商を更新した2025年を支えたのが「無限串」シリーズです。*2
2025年4月24日に発売した1本50円(税込55円)の「無限串」は、2026年3月末時点で累計2,000万本・累計売上10億円を突破しました。*2 「価格を気にせず心ゆくまで楽しんでほしい」という大衆酒場の原点回帰が、日本人の約6人に1人が体験した計算になるまでのヒットを生み出しました。
そしてユニシアHDが2025年12月に完全子会社化したのが、郊外ロードサイドのイタリアンファミリーレストランチェーン「PISOLA(ピソラ)」です。*1 約95億円という大型買収の狙いは明確です——串カツ田中がカバーしきれていなかった「車で来るロードサイドのファミリー需要」を取り込むことです。
「私たちが目指すのは、一過性のブームではなく、長く必要とされ続ける『インフラ』のような存在」——社名変更のプレスリリースに書かれたこの言葉が、ユニシアHDの戦略の本質を表しています。*1

「影のインフルエンサー(子ども)」を喜ばせることが、2026年の最強の集客戦略になる
串カツ田中の事例から学べる最も重要な視点は、「誰の機嫌を最初に取るか」という問いです。
「この業界の顧客はこういうものだ」という固定観念が、見えていない大きな市場を隠していることがあります。居酒屋業界が「サラリーマン男性の市場」だと信じていた間、串カツ田中は「ファミリー層の市場」という未開の地を静かに耕していました。
サービスを実際に利用する本人(親)だけでなく、その背後にいる「影のインフルエンサー(子ども)」を喜ばせる仕掛けを作れるかどうか——これは飲食業に限らず、あらゆるビジネスで応用できる視点です。子どもが「あそこに行きたい」と言えば、親は動きます。子どもが喜ぶSNSが拡散されれば、友人も動きます。*3
2026年のマーケティングは、既存のパイを奪い合うことではありません。誰もが「無理だ」と諦めた属性を迎え入れるために、自らルール(常識)を書き換えること——串カツ田中の全店禁煙化がその原点です。

【本記事のまとめ】
1. 「居酒屋の常識」を全店禁煙化で書き換えた——ファミリー層という未開の市場を総取りした決断
2018年6月の全店禁煙化で、業界が「無理だ」と諦めていたファミリー層を取り込んだ。禁煙化後にファミリー層の割合が7.5ポイント上昇し20.8%に達した。ソフトクリーム無料・チンチロリン・住宅地立地の7割という設計が「子どもが行きたい場所」を作り、親を動かす集客構造を生んでいる。
2. 「無限串」累計2,000万本とPISOLA買収——マルチブランドでインフラ化を加速
1本50円の無限串が日本人の約6人に1人が体験する大ヒットとなり、既存店54%が過去最高年商を更新。95億円でのPISOLA完全子会社化で、串カツ田中がカバーしきれないロードサイドのファミリー需要も取り込む。「一過性のブームではなくインフラのような存在」という社名変更の宣言がすべてを表している。
3. 「影のインフルエンサー(子ども)」を喜ばせることが最強の集客戦略になる
サービスを利用する本人(親)の背後にいる子どもの機嫌を取ることで、家族の意思決定のメカニズムをハックする。「この業界の顧客はこういうものだ」という固定観念を疑い、誰もが諦めていた属性を迎え入れるためにルールを書き換えることが、2026年のマーケティングの本質だ。
よくある質問(FAQ)
全店禁煙化でサラリーマン客が離れた後、客単価は回復しましたか?
禁煙化直後は課題がありました。ファミリー層はアルコールの消費量が少ないため、客単価が禁煙化前の2,400円台から2,200円前後まで落ち込む時期がありました。しかしその後、無限串などの低価格・高回転商品の投入と客数の大幅増加によって、売上全体を大きく引き上げることに成功しています。2025年には既存店54%が過去最高年商を更新しており、「客単価を下げた代わりに客数を圧倒的に増やす」という戦略が機能した結果です。
「子どもを喜ばせる」戦略は、飲食業以外にも使えますか?
使えます。「影のインフルエンサー」という視点は、意思決定の背後にいる存在を喜ばせることで購買を誘発するという原理で、業種を問わず応用できます。たとえば不動産では子ども部屋や学校区、保険では子どもの未来の保障、旅行では子どもが楽しめるアクティビティが「親を動かすフック」になります。自社のサービスで「本人(購買者)の背後で意思決定に影響する人物は誰か」を問い直すことが出発点です。
「脱・串カツ田中」という宣言は、ブランドにとってリスクではないですか?
短期的なリスクはあります。「串カツ田中」という認知は強力なブランド資産であり、社名変更によってその認知が薄れる可能性があります。しかし中長期的には、「串カツ田中ホールディングス」という社名のままではPISOLAのような異業態や海外展開の際にブランドイメージの制約になります。ユニシアHDは「串カツ田中という業態は維持しながら、持株会社名をグローバル・マルチブランドに対応させる」という戦略であり、ブランドを捨てたのではなく「ホールディングスとしての定義を広げた」という解釈が適切です。
*1|ユニシアホールディングス公式プレスリリース「串カツ田中ホールディングス、3月1日より『株式会社ユニシアホールディングス』へ社名変更。第二創業期を迎え、グローバルライフスタイル企業へ。」(2026年3月4日)。2026年3月1日付社名変更・「UNISIA」の意味(UNI×SEA)・「一過性のブームではなく長く必要とされ続けるインフラのような存在」という経営ビジョン・PISOLA完全子会社化・創業者貫啓二氏の代表取締役会長兼社長就任を確認
*2|ユニシアホールディングス公式プレスリリース「累計売上10億円突破!串カツ田中の名物『無限串』がシリーズ累計2,000万本を記録!」(2026年3月31日)。無限串シリーズ累計2,000万本・累計売上10億円突破(2025年4月24日〜2026年3月下旬)・1本50円(税込55円)・「日本人の約6人に1人が体験した計算」・既存店313店舗のうち半数を超える170店舗(54%)が2025年に最高年商を更新・大阪アメリカ村店の年商2億円突破を確認
*3|Business Insider Japan「串カツ田中が切り開く"ファミレス酒場"という新境地:なぜ崖っぷちから逆転できたのか?」。2018年6月1日の全店禁煙化・禁煙化後にファミリー層の割合が7.5ポイント上昇し20.8%に達したこと・小学生以下のソフトクリーム無料・店舗の約7割が住宅地立地・サイコロのチンチロリンサワーキャンペーン・「居酒屋が短命で終わるのは、親から子へ客層を引き継げないから」という貫社長の言葉を確認
▼ 新人さんのためのマーケティング講座 Season7
「なぜこの構造(仕組み)は崩れないのか」を事例で深掘りしていきます。
- 第1回:なぜニトリは、インフレの時代でも「お、ねだん以上。」を維持できるのか
- 第2回:ノジマが証明した「モノを売る瞬間」ではなく「顧客の人生に関わる時間」を競う戦略
- 第3回:なぜUSJは、「天才マーケター」が去った後も、成長し続けられたのか
- 第4回:なぜBUYMAは、在庫を一切持たないまま、世界中の高級品を売り続けられるのか
- 第5回:LUSHが証明した「広告を捨て、信念を叫ぶ」という、広告費ゼロで熱狂を生む戦略
- 第6回:売上高39%増・過去最高益——コメ兵の「真贋マーケティング」が2026年に爆発した理由
- 第7回:なぜ「調味料の会社」が、世界中のAIチップに欠かせない素材のシェア95%を握れたのか
- 第8回:なぜミツカンは、220年の歴史を武器に「新主食の会社」へ変身できたのか
- 第9回:Qoo10がつくる「メガ割」というお祭り騒ぎ。年4回、SNSを熱狂させる衝動買いのデザイン
- 第10回:関東29店舗なのに全国区——蒙古タンメン中本に学ぶ「聖地」と「無料体験」の二層戦略
- 第11回:1億個・海外比率50%超——たまごっちに学ぶ、「眠れる資産」を世界のトレンドに変える方法
- 第12回:「中身を選べない」のになぜ買ってしまうのか——一番くじの購買衝動をデザインする精巧な仕掛け
- 第13回:なぜしいたけ占いは、「当てない占い」のまま、数百万人の月曜日に欠かせない存在になれたのか
- 第14回:ゴンチャが証明した「ブームに乗りながら、ブームに飲み込まれない」カテゴリー戦略
- 第15回:ステーション数・車両台数ともに業界ひとり勝ち——タイムズカーに学ぶ、既存資産を最強の競争優位に変える方法
- 第16回:なぜ3COINSは、「100均でも無印でもない」という曖昧なポジションで、営業利益49%増を叩き出せたのか
- 第17回:「2万円のパジャマが売れる」という不思議——TENTIALに学ぶ、価格の壁を消すブランド設計
- 第18回:「絶対に言えないけど、すごかった」——リアル脱出ゲームが1,500万人を熱狂させる構造
- 第19回:「居酒屋に子供を連れて行ってはいけない」——その常識を壊した串カツ田中に、何が起きたのか(本記事)
岡 健作(おか・けんさく)
株式会社新恵社代表取締役/スタディーハッカー(現(株)イングリッシュカンパニー) 創業者。
1977年生まれ、福岡出身。同志社大学卒業。2010年に創業。「Study Smart(合理的に学ぶ)」をコンセプトに、科学的知見に基づく英語パーソナルジム「ENGLISH COMPANY」を設立し、人気ブランドへと成長させる。 事業拡大の要として、自らオウンドメディアとSNSの編集長を兼任。オウンドメディアは最大500万PV、Instagramでは月間700万PV、フォロワー27万人規模のメディアにするなど、広告費に依存しない集客モデルを確立する。現在はその知見を活かし、「企業の認知獲得の専門家」として、論理とデータに基づいた再現性の高いメディア戦略・ブランディング論を発信している。
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