
「仕事や勉強のパフォーマンスをもっと高めたい」
そんな思いを抱いている人におすすめなのが、意外にもスポーツ観戦です。
一見すると娯楽の代表格ですが、観戦中の脳は思っている以上に活発に働いています。
試合の流れを読み、次の展開を予測し、判断に納得したり反発したりする。こうしたプロセスは、仕事や学習で使われる思考とよく似ているのです。
つまり、スポーツ観戦は脳を鍛える手段のひとつだということ。
どういうことなのか、例を交えながら説明していきます。
スポーツ観戦中、脳内では何が起きているのか
白熱した試合を観戦しているとき、次のような感覚を覚えた経験はないでしょうか。
| 観戦中の感覚 |
|---|
| 手に汗にぎる試合展開で、次になにが起こるのかを考えるとドキドキする |
| なぜいま選手交代の判断をしたのか、不満を抱く |
これらは、ミラーニューロンと呼ばれる神経細胞の働きと関係しています。ミラーニューロンとは、他人の行動を見たときに、まるで自分も同じ行動をとっているかのように反応する細胞のことです。*1
筆者はフィギュアスケートやバスケットボール観戦が好きなのですが、「このジャンプは成功するだろうか」「この場面でシュートを打つのか」と、まるで自分がプレーしているかのように緊張してしまいます。
この心理現象について、上智大学名誉教授の田中昌司氏は「選手と同じ緊張感を脳が再現しているから」だと説明します。*1
観ているだけなのに、脳は「当事者モード」に入っている。これがミラーニューロンの特徴です。
ここで「ルールを知っていたり競技経験があったりしないと、スポーツ観戦は楽しめないのでは?」と感じる人もいるでしょう。しかし、その心配は不要です。
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員の森永真弓氏は、「スポーツ観戦を楽しむには、目の前で起きていることへの観察力、情報を処理して洞察し、面白がれる力が必要」だと語ります。*2
たとえば、「さっきより動きが鈍くなっている」「この選手は後半に強いらしいから、まだ展開は読めない」といった推測を巡らせるだけでも、情報処理と思考の往復が自然に行なわれます。たとえルールを知らなくても、観察 → 推測 → 判断のサイクルが回ることで、脳が活発に働くのです。

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ミラーニューロンを呼び起こせ! 最後の壁を越えるための「観察」の力なぜスポーツ観戦が思考を鍛えるのか
脳が活発に働くスポーツ観戦は、「面白い」「興奮する」といった単なる刺激だけでなく、学習に近い働きも含んでいます。その鍵となるのが観察学習です。
観察学習とは、他者の行動とその結果を観察することで、自分の行動や判断が影響を受ける学習形態を指します。
ビジネスシーンでの観察学習の例を挙げると、仕事ができる先輩の話し方を参考にする、プレゼンが上手な人の構成を取り入れる、尊敬するリーダーの意思決定を意識してみる、といったことです。
この観察学習は次の過程を踏みます。*3
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 1 | 観察対象に意識を向ける |
| 2 | 観察対象の行動を再現するために、対象の言動をイメージや言葉で整理し、反芻して記憶する |
| 3 | 実践・自己フィードバックを行なう |
| 4 | 実践に対する意欲を高める |
先述した「プレゼンが上手な人」の例に当てはめると、次のようになります。
| ステップ | 具体例 |
|---|---|
| 1 | プレゼンが上手な人の発表の仕方に意識を向ける |
| 2 | 「導入 → メイン → まとめ」のように、観察した行動を言葉で整理する |
| 3 | 実践と振り返りを行なう |
| 4 | 観察対象の人のプレゼンが称賛されている様子を見て、自分もプレゼンを上達させようと意欲を高める |
意識している人の言動から、自分でも気づかないうちに影響を受けているのです。
ここで重要なのがステップの4番目。他人の成功や失敗を見て、まるで自分のことのように学習し、自分の行動に影響を受けることを「代理強化」と呼びます。*3
代理強化の例としては、他人が評価される様子を見て「自分も頑張ろう」と積極的に仕事に取り組んだり、他人が叱責されるのを見て「同じことをしないように気をつけよう」と行動を控えたりすることが挙げられます。
スポーツ観戦では、選手の成功や失敗を目の当たりにする場面が連続します。そのとき、失敗しても諦めずに取り組んで勝利をつかんだ姿勢に勇気をもらったり、インタビュー内容から新たな気づきを得たりしたことはないでしょうか。そのようにして得たマインドを日常でも実践しようとしている人もいるはずです。
このように、スポーツ観戦は選手の行動と結果を観察し、成功や失敗を自分の行動指針として取り込む「観察学習の場」になりえます。その結果、思考を鍛えることにつながるのです。

効果を高めるのは「受け身」ではなく「能動」の観戦
ここまでの流れでお気づきのとおり、スポーツ観戦は、ただなんとなく観るよりも「能動的に関わっているかどうか」が重要です。
この考え方は、じつは教育現場でも重視されています。
平成29年に告示された中学校の体育の学習指導要領では、体育の目標のひとつとして、次のように示されています。
運動や健康についての自他の課題を発見し、合理的な解決に向けて思考し判断するとともに、他者に伝える力を養う。*4
体育は、体を動かす技能だけでなく、状況を読み取り、考え判断し、それを伝える力を育てる教科でもあるのです。
スポーツ観戦においても、試合の展開を予測し、その理由を考え、結果を振り返るといった関わり方をすることで、同じように思考が働きます。
ただ観るだけではなく、頭を使って関わる「能動的な観戦」が思考力を刺激するのです。

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スポーツ観戦はただの娯楽ではなく、仕事でのパフォーマンスを上げる脳の下地をつくります。次の休みに、さっそくスポーツ観戦を楽しんでみませんか?
よくある質問
Q.なぜスポーツ観戦が脳のトレーニングになるのですか?
A.スポーツ観戦中は、試合の流れを読み、次の展開を予測し、選手や監督の判断を評価するなど、思考を伴う情報処理が行なわれます。こうしたプロセスが仕事や勉強で使われる思考と似ているため、脳のトレーニングにつながります。
Q.スポーツのルールを知らなくても、脳を鍛える効果はありますか?
A.はい、あります。ルールを細かく知らなくても、選手の動きや試合の流れを観察し、「なぜこうなったのか」「次はどうなるのか」と考えるだけで、観察 → 推測 → 判断の思考サイクルが自然に回ります。
Q.スポーツ観戦中に感じる緊張や興奮には意味があるのでしょうか?
A.あります。観戦中に生じる緊張感や没入感は、ミラーニューロンの働きによって、脳が選手と同じ状況を疑似体験している状態です。この「当事者モード」が、思考や判断を活性化させます。
Q.ただ観るだけでも効果はありますか?
A.効果はありますが、より高めるには「能動的に観る」ことが重要です。展開を予測したり、選手や監督の判断理由を考えたり、結果を振り返ったりすることで、思考力への刺激が強まります。
Q.スポーツ観戦で鍛えた思考は、仕事や勉強にどう活かせますか?
A.仮説検証(PDCA)、データをもとにした予測、認知の柔軟性、意思決定のシミュレーションなど、スポーツ観戦中に行なっている思考は、そのまま仕事や勉強の場面に応用できます。
※引用の太字は編集部が施した
*1 チコちゃんに叱られる!|なんで人はスポーツを見るの? 自分も脳の中で一緒にプレーするから
*2 メディア環境研究所|スポーツのファン獲得はルール周知からではない! スポーツアナリティクス×教育の現場から「観戦する力」を養うヒントを探る @メ環研の部屋
*3 SOCIAL CONNECTION|【観察学習】バンデューラーのモデリング理論をわかりやすく解説
*4 文部科学省|中学校学習指導要領(平成29年告示)
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。