行き詰まったとき、頭のいい人が必ずやる “ある行動”

伊藤羊一さん

新しいプロジェクトがはじまるとき、プロジェクトが停滞したとき、そしてすべてが終わったあと――。ビジネスには考えるべき局面がいくつも訪れます。しかし、武蔵野大学アントレプレナーシップ学部学部長の伊藤羊一さんは、「変化が激しく正解のない時代、ひとりの頭だけで思考を完結させること自体がリスクになりつつある」と言います。新刊『壁打ちは最強の思考術である』(飛鳥新社)で伊藤さんが提唱する、「壁打ち」の使いどころについて解説してもらいました。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

【プロフィール】
伊藤羊一(いとう・よういち)

1968年9月5日生まれ、愛知県出身。弁護士。1991年、明治大学法学部卒業。同年、司法試験に合格。税法、損害賠償、企業法務、不動産問題などの案件・事件を、鍛え上げた質問力、交渉力、議論力などを武器に解決に導いている。現在、20人以上の弁護士が在籍するみらい総合法律事務所を共同経営する代表パートナーを務める。また、テレビのニュース番組等での解説者としても活躍。著書に『税理士懲戒処分の事例と実務』(中央経済社)、『裁判例に見る 税理士損害賠償の回避ポイント』(ロギカ書房)、『日本一敵が少ない弁護士が教える 7タイプ別交渉術』(秀和システム新社)、『「いい質問」が人を動かす』(文響社)などがある。

プロジェクトの開始時点でメンターと壁打ちをする

僕が言う「壁打ち」とは、「自分の頭のなかにあるモヤモヤをそのまま口に出して誰かに聞いてもらい、そして打ち返してもらうことで思考をまとめていくプロセス」のことです。ポイントは、話すことで自分の考えをアウトプットし、「なるほど」「それいいね」「そうかな?」「それで?」といったシンプルなリアクションを受け取ることで、自分の考えの妥当性を確認していく点にあります。

ひとりでは難しい「具体を抽象化するプロセス」を、人の頭を借りて進められるのが壁打ちの本質です。正解のない時代において、思考の精度を高め、未来に向けた意思決定を行なうための有効な手段だと考えています(『ひとりで考える時代は終わった。正解がない時代に「壁打ち」が抜群に効くわけ』参照)。

壁打ちは思考をまとめてモヤモヤした状態を脱するための手段ですから、モヤモヤしたらいつ行ってもいいのですが、いくつかおすすめのタイミングというものを紹介しましょう。ひとつは、「プロジェクトが動き出すとき」です。

プロジェクトは決まったのに具体的なプランはなにひとつ決まっていないなど、「動き出したいけれど、なにからはじめたらいいのかわからない」というのは、まさにモヤモヤしている状態です。こういうときは、自分にとってのメンターともいえる人と壁打ちするのがいいでしょう。

「自分のことは自分がいちばんわからない」とも言われますが、自分自身では「どうしていいかわからない」と混乱していると思っていても、人の立場からは「いやいや、そんなことはないだろう」と状況をクリアに見ることができるものです。それこそメンターといえる人であれば、なおさらでしょう。

「ちょっと考えを整理したいのですが、いいですか?」ともちかけ、「いまいちばん気になっていることはどういうこと?」「いまのアイデアをそのまま話してみて」といったメンターとの対話により、考えるべきことの優先順位をつけられる、思い込みに気づけるといったメリットが必ず得られるはずです。

女性スタッフ

軌道修正のために行うプロジェクト途中での壁打ち

続いて、「プロジェクトの途中でつまずいたとき」も、壁打ちをするのにおすすめのタイミングです。プロジェクトのスケジュールやアクションプランまで具体的に決まった段階まで進むと、携わる誰もが「完璧だ」「きっとうまくいく」と考えています。

ところが、世の中はそんなに甘くありません。みなさんにも経験があるはずですが、ものごとがプランどおり、想定どおりに進むということはほとんどありませんよね? 「こんなトラップがあったか」「ここでこんなに悩むと思わなかった」というように想定外の問題が生じ、プロジェクトが停滞するのはビジネスシーンでは日常茶飯事です。

そういう問題を抱えたまま、無理やり突き進んでいくのは危険です。僕の経験からも、そうやって進めた先ではさらに大きな壁にぶつかるものです。「こんなはずじゃなかった……」と後悔と反省をする確率が高いのです。

そこで、やはり壁打ちをしましょう。適切な軌道修正をするための壁打ちです。この場合の相手は、同じプロジェクトに携わっているなど、ゴールを共有できている人が適役です。そういう人ならここまでの過程もすでに共有できていますから、無駄なやり取りをすることなく、「いまハードルになっていることの要因って?」「それって当初からリスクとして挙げていたかな」といった対話を通じて軌道修正を図ることができます。

相談する同僚

未来の自分とチームに教訓を残す振り返りの壁打ち

最後に、「プロジェクトが終了したとき」にもぜひ壁打ちをしてもらいたいと思います。この壁打ちは、振り返りのためのものです。プロジェクトを通じて得た経験は、未来に向けたなによりの教訓となり得ます。それを整理して残しておかないのはもったいないとしかいえません。

もちろん、プロジェクトが終わるとメンバーで反省会をするということも多いでしょう。しかし、複数人が集まる反省会では個人の本音をいえないことも多いものですし、結果として「事前準備が大切だとわかった」などあたり障りのない内容のものにもなりがちです。それでは、本当の意味での振り返りにはなりません。

一方、それこそ気心の知れた相手との1対1の壁打ちなら、本音をぶつけ合えます。「今回のいちばんの反省点はここじゃないか」「あの場面ではこういう打ち手もあったかもしれない」「結果的にうまくいったからいいけれど、あれは悪手だった」といった対話により、貴重な教訓を言語化しておきましょう。

これは、いわば「PDCAサイクル」の「C(Check:評価)」にあたるものです。ここで振り返りを行なわなければ、また新たなプロジェクトで同じ失敗を繰り返すことにもなりかねません。大きなプロジェクトを終えたら「やっと終わった!」とただ達成感に浸りたくなる気持ちも理解できますが、将来の自分やチームを楽にするためのものだととらえ、面倒くさがることなく振り返りの壁打ちを実践してほしいと思います。

伊藤羊一さん

【伊藤羊一さん ほかのインタビュー記事はこちら】
ひとりで考える時代は終わった。正解がない時代に「壁打ち」が抜群に効くわけ
「壁打ち」で “成果が出る人” と “出ない人” の決定的な違い(※近日公開予定)

 

【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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