
あなたのまわりに、「いつも否定から入る人」はいませんか?
せっかく考えたアイデアをまともに聞きもせず「いやいや、それは」と真っ向から否定してきたり、軽い雑談でも「でもさ〜」と水を差してきたり。
そのようなことが続くと、話す気が削がれてしまいます。
そういう人とは物理的に距離をおきたくなるものですが、実際に距離をおいてしまうのはもったいないかもしれません。
なぜなら、会話に否定から入る人とのやりとりはストレス源であると同時に、スキルアップに必要な力を育てる絶好の機会だからです。
本記事では「なぜ会話に否定から入るのか」を知ったうえで、いまから使える会話テク7選を紹介します。
日々のコミュニケーションに役立てていただければ幸いです。
なぜ人は否定から入るのか?
なぜ、会話に否定から入るのか――その背景がわかると、自分の気持ちに折り合いをつけやすくなるかもしれません。
一般社団法人日本メンタルアップ支援機構 代表理事の大野萌子氏は、会話に否定から入る人は「相手をコントロールしたい気持ちが強いのが特徴」だと話します。*1
その特徴の背景には、プライドの高さや自己肯定感の低さがあり、相手を下げることで自己優位性を高めているのだそう。*1
もちろん、会話に否定から入る理由ははこうした個人の心情だけではないでしょう。
次のような心理的要因が絡むこともあるはずです。
- 防衛反応:立場や権威を守るため、まず否定で距離をとる
- 損失回避:意識がリスクに向きやすい
- ディベート型スタイル:議論を活性化させるため、あえて否定から入る
これらは人として自然な反応とも言えます。
会話に否定から入るのは、自己評価の不安定さからくる場合もあれば、人としての自然な反応である場合もあるのです。

今日から使える! 疲れない会話テク
では、否定から入る人にどう向き合えばいいのでしょうか。
ここでは、自分自身が消耗しすぎないように心を守りながら会話を進めていく、7つのテクニックを紹介します。
【一覧】否定から入る人とはこうやって会話しよう
1. クッション言葉/おうむ返し
「そうなんですね」「一理ありますね」
「〜について懸念点があるのですね」「〜とお考えなのですね」
2. Yes,And……で切り返す
「おっしゃるとおりです。そこで、~してみませんか?」
3. 問い返して建設的な議論へと導く
「どうしてそう思うのですか?」
「では、どのような解決策があるとお考えですか?」
4. 部分同意で対立を和らげる
「〜については私も同じ意見です。ただし……」
5. ゴールを共有して勝ち負けを避ける
「最終的に決めたいのは○○ですよね」
6. 引き下がる余地をつくって面子を保たせる
「そういう考え方もありますね」
「その見方もできます」
7. 議論を引き取り、エネルギーを温存する
「ここは持ち帰りましょう」
「少し整理したいので、お時間をいただけませんか」
1. クッション言葉やおうむ返しで受け止める
相手の言葉にすぐに感情的に反応せず、「そうなんですね」「一理ありますね」とクッション言葉をはさんだり、おうむ返しで受け止めたりすれば、相手の承認欲求が満たされて対立を防げます。
ただ、そのままおうむ返しをすると相手の気持ちを逆なでしてしまう可能性も。
おうむ返しをするときは、「〜について懸念点があるのですね」「〜とお考えなのですね」のように「簡潔に要約 + 共感の姿勢」をとるといいでしょう。
2. Yes,And……で切り返す
即効演劇のゴールデンルール「Yes, And(イエス・アンド)」という手法は、ビジネスにおけるコミュニケーションにも有効です。
「Yes, And」とは、相手の意見や感情をすべて受け入れて肯定し、そのうえで自分のアイデアや感情を加えて返すコミュニケーション手法のこと。*2
以下に例を挙げてみましょう。
相手:「いやいや、現場の人間からしたら手間が増えるだけなんだよ。」
切り返し:「おっしゃるとおり、現場の手間が増えるのは避けるべきです(全肯定)。そこで、その手間を減らすための方法をご提案したいんです。(意思を加えて返す)」
相手の意見を否定せずに自分の意思を伝えられるので、建設的な会話へとつなげていくことができます。
また、相手の否定的な言葉を “攻撃” ではなく “情報” として受け取ることができるので、自分の感情に振り回されることも防げるでしょう。
3. 問い返して建設的な議論へと導く
「どうしてそう思うのですか?」「では、どのような解決策があるとお考えですか?」と尋ねることで、建設的な会話へと誘導できます。
「〜の点で不安に思われるのですね。では、どうすればその不安が解消されると思いますか?」のようなイメージです。
もし相手が「ただ文句を言いたいだけ」だった場合でも、問い返すことでそれ以上答えられなくなり、否定的な言動を控えるでしょう。
4. 部分同意で対立を和らげる
相手の意見をそのまま受け止めてはいられない状況もあるでしょう。
そのようなときは、「〜については私も同じ意見です。ただし……」と部分的に同意しつつ、自分の意見を述べるのも戦略のひとつです。
相手のプライドを傷つけずに話を進められるため、目上の人との会話でも使えます。

5. ゴールを共有して勝ち負けを避ける
相手から「なんとしても論破したい!」というような空気を感じられるときは、「最終的に決めたいのは○○ですよね」と改めてゴールを示すといいでしょう。
話の軌道を修正できますし、相手が「協力してゴールを目指そう」という気持ちに傾くきっかけをつくれます。
6. 引き下がる余地をつくって面子を保たせる
相手が自分の意見に固執しているとき、正面から反論すると摩擦が生まれてしまいます。
そんなときは「そういう考え方もありますね」「その見方もできます」などの表現で、相手に “引き下がる余地” を残してあげましょう。
相手の面子を保たせつつも議論を進められるので、関係性を傷つけずに建設的な会話へと導けます。
7. 議論を引き取り、エネルギーを温存する
否定的な会話のすべてに対応するのは非常に消耗します。
相手が熱くなっていると感じたら、「ここはもち帰りましょう」「少し整理したいので、お時間をいただけませんか」のように、議論を引き取るのもひとつの戦略です。
重要な場面に集中できるよう、エネルギーを温存しましょう。

スキルアップにつながる理由
話に否定から入る人との会話で磨かれたコミュニケーションスキルは、今後のキャリアの武器となります。
心理的安全性の向上
相手の言葉をまずは受け止める姿勢は、相手との関係性において心理的安全性を高めます。
リーダーがメンバーとのコミュニケーションで心理的安全性を高めることができれば、前向きにチャレンジしたりアイデアを出し合ったりするチームの土壌が育ち、成果を挙げるチームをつくることができるでしょう。
感情コントロール力の向上
冷静に切り返す練習を重ねることで、ストレス耐性が高まります。感情に振り回されない人はまわりに安心感を与え、頼られる存在になるでしょう。
認知的柔軟性の向上
コミュニケーションにおいて相手の立場や気持ちを考える練習を積み重ねることは、問題解決力や企画力の向上に直結します。
信頼構築力の向上
相手の言葉をそのまま受け止めるので、「話しやすい」という印象を与えられます。
そうすれば自然と相談される機会が増え、影響力が大きくなり、人を動かす際の説得力も増すでしょう。これはリーダーシップの形成に役立ちます。
つまり、話に否定から入る人との会話は、あなたが成長する絶好の機会となるのです。

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話に否定から入る人に振り回されて消耗するのではなく、相手の否定をうまく活用して成長の機会ととらえましょう。上手に向き合えば「対人スキルトレーニングの場」となるのですから。
※引用の太字は編集部が施した
*1 docomo business Watch|【伝え方】否定から始まる会話は、信頼喪失のリスク
*2 一般社団法人 日本即興コメディ協会|Yes, And(イエス・アンド)で心理的安全性を育むリーダーになる
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。