
現在のビジネスシーンにおける「人の育て方」は大きく変化しました。「背中を見て覚えろ」という昭和スタイルから、部下に「丁寧に教える」ことが重視されています。しかし、「教えてばかりでは、部下は育たない」と警鐘を鳴らすのは、トヨタ自動車、TBS、アクセンチュアを経て、現在は経営者、戦略コンサルタントとして活躍する山本大平さん。いまマネージャーの立場にある人、あるいはこれからマネージャーを目指す人が押さえておきたい、「部下の思考力を引き出すマネジメント」とはどのようなものでしょうか。その真意を探るべく山本さんにお話を伺いました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
山本大平(やまもと・だいへい)
戦略コンサルタント/データサイエンティスト。F6 Design 代表取締役。トヨタ自動車に入社後、TBSテレビ、アクセンチュアなどを経て、2018年に経営コンサルティング会社F6 Designを設立。トヨタ式問題解決手法をさらに改善しデータサイエンスを駆使した独自のマーケティングメソッドを開発。企業/事業の新規プロデュース、リブランディング、AI活用といった領域でのコンサルティングを得意としている。近年では組織マネジメントや人材育成といった人事領域にも注力。
「教えない教育」って変ですか?
現在の部下へのマネジメントは、「部下の質問にはきちんと答える」など、丁寧さがとても重視されるようになりました。パワハラ防止法やコンプライアンスの強化に加え、人材不足で「辞められたら困る」状況が増えたことが背景にあります。
しかし、私が在籍していたトヨタでも、いま振り返ると “教えない文化” のようなものがあったように思います。ただ、先にお断りしておくと、「部下には教えるな」というように明文化されたルールがあったわけではありません。いわば、組織風土のようなものでした。
たとえば、「A部品の図面ってどこにありますか?」と上司に聞くとします。普通なら「Bキャビネットの3段目にあるよ」で終わる話ですよね。ところがトヨタの多くの上司は、まずこう聞き返してきます。
「その図面を使って、何をしたいんだ?」
その質問に答えると、「じゃあ、なんでそれをしたいの?」ーーこのような感じで、次の質問が返ってくる。正直、当時の私は思っていました。「いや、教えてくれたら3秒で終わるのに……」と(笑)。
でも、質問が返ってくると、こちらも考えざるを得ない。それを当たり前のように続けていると、どんな問題に対しても「まず自分で考える」癖が自然と身につくようになったのです。
一方で、上司がなんでも丁寧に教えてしまうと、部下は考える機会を失います。「A部品の図面どこ?」レベルならまだしも、少し難しい課題に直面した瞬間、「どうすればいいですか?」と、思考停止状態で上司に聞きに来るようになってしまう。
さて、先ほど「すぐに教えないのは非効率」と言いましたが、本当にそうでしょうか? 短期的には、非効率かもしれません。答えを教えたほうが早いに決まってます。しかし、企業が人材育成をする目的は何でしょうか?
それはやっぱり、“自ら考え、答えをつくり出せる人材” を育てチームの総合力を上げるためですよね。「答えを教えて、やってもらう」のは、仕事の分担であって教育ではありません。
一度 “壁を乗り越えた経験” のある部下は、次に同じような課題が来ても、あっという間に片付けます。長期的に見れば、どちらが企業としてコスパが良いかは火を見るより明らかです。
だからこそ私は、「部下から質問があったら、むしろ “問い” で返す」ーーこれこそが “教えない教育” の利点だと考えています。

優秀なプレーヤーが優秀なマネージャーにはなれない不都合な真実
一方で、いま、私は戦略コンサル会社の代表として、多くの部下をマネジメントしています。その立場から断言できるのは、マネジメントは “スキル” であるということです。
しかし残念ながら、日本のビジネス現場ではこのスキルをまともに学べていないマネージャーが本当に多い。これはもう “構造的な問題” と言ってしまっていいでしょう。
なぜそんなことが起きるのか? 日本企業ではたいてい、「優秀なプレーヤーからマネージャーに昇格していく」という構図が当たり前化しています。でも、この瞬間にすでに矛盾が生まれているのです。
というのも、プレーヤーとマネージャーは、まったく別の競技だから。プレーヤーの場合、自分でガンガン成果を出せばよかった。自分一人の力で勝負すればよかった。
でもマネージャーは、自分がアウトプットするのではなく、「どうすれば部下が最大のアウトプットを出せるか」を考える人です。役割が180度違います。なのに、同じ “延長線上” で昇格させてしまう。
結果どうなるかーー部下に質問されたら、「自分は答えを知っているから」と、即・答えを教えてしまう。でもこれ、じつはやっていることはただ、 “自分の脳を部下に貸しているだけ” なのです。
つまり、本来のマネージャー業務をそっくり放棄しているのと同じ。そして、こんなことを続けていたらいつまでたっても部下は育ちません。自分で考える癖がつかないからです。こういう場面を見るたびに私は思います。「マネージャーよ、仕事して」とーー。(さすがに本人には言いませんが)
スポーツの世界でよく言われる「名選手、名監督にあらず」。この言葉はビジネスの世界にもそのまま当てはまります。
優秀なプレーヤーだった人が、そのまま優秀なマネージャーになるわけではない。だからこそ、上司という立場にいる人は、意識して “マネジメントの筋肉” を鍛えなければならない。
この不都合な真実を変えないかぎり、組織はいつまでたっても “強いチーム” にはならないのです!

部下の “脳のギア” を一段上げる「WHIメソッド」とは?
ただし誤解してほしくないのは、「教えない」が「放置」とイコールではない、ということです。部下の成長を願うなら、上司の “問いの質” こそが命。ここを間違うと、ただの “放任主義のダメ上司” になります。
そこで私がつくったのが「WHIメソッド」。「Why – How – If」この3つの問いを、順番に投げかけるだけーーシンプルですが、部下の脳のギアが “カチッ” と上がる瞬間がはっきり見えるメソッドです。
(過去 → 真因をえぐる)
② How:じゃあ、どうする?
(現在 → 解決策を描く)
③ If:それで失敗した場合の対策は?
(未来 → リスクに備える)
私はこれまでコンサルとして多くの企業を見てきましたが、「Whyまでは言えるけど、How以降がスッカスカ」というチームが驚くほど多かったです。①「Why」で止まる人の典型は、以下のパターン。
- 原因分析だけして満足する
- 「わかりました」で話を終わらせる
- 結局、実行しない
そのままにしておくと、組織は永遠に “再発防止会議” を繰り返します。そして毎月、同じ資料、同じ表題、同じ反省に……。だから上司が意図的に、部下の思考を「前に」「未来へ」押し出す必要があります。
そこで、②「How」。次の2つを問うだけで、部下の脳内の実行スイッチが入ります。
- 「それで? どうやって解く?」
- 「明日から何が変わる?」
さらに、③「If」で、もう一段深く潜らせます。なぜなら、現実のビジネスの現場では、「最初の解決策なんて、だいたい外す」からです。
- 「「その案がダメだったらどうする?」
- 「次の一手、考えてる?」
「①Why → ②How → ③If」この流れで問われると、部下の脳内では、静かな革命が起きるのです。これを丁寧に繰り返すと、驚くほど部下の思考の立体感が増します。
過去を分析し、現在を動かし、未来に備える。この「三層構造」が一度できた部下は強い。なぜなら「起きたことへの反応」ではなく「起こる前の予測」まで踏み込むようになるからです。
すると、ある日を境に、部下がこう言い出しますーー「これ、Ifのプランまで考えておきました」。こうなると、部下はもう走り出すのを止められない。そして上司は、部下が自走していることに気づきます。上司として、これほど嬉しい瞬間はありません。
部下が自分の力で問題を解き、未来の手まで打てるようになったとき、組織は静かに、そして確実に強くなっていきます。“教えたほうが早い” をグッとこらえて、問いで返し続けた上司だけが見られる景色です。
「WHI」はただのメソッドではありません。“部下の思考を進化させる装置” と言えるでしょう。答えを教えるのは簡単です。でも、“考えたくなる空気”をつくるのは上司にしかできない技術です。私は、組織力に差がつくのは、いつもそこだと思っています。

【山本大平さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
