「リスクを取れ!」「もっと大きく挑戦しろ!」と、勇ましい言葉を耳にすると、なんだか気後れしませんか? いきなり“転職”とか“起業”とか言われたって、「そんな急には……」と思うのが普通です。そこで提案したいのが、筆者が勝手に名づけた概念——「スモールリスク思考」。
聞いたことがないのも当然です。要は、「こっそり小さな冒険をしてみる」「失敗しても、ほとんど痛手にならない範囲で試す」という発想です。
もしいまあなたが、「やってみたいけど、やらかしたら恥ずかしい」と二の足を踏んでいるなら、ちょっとだけ一緒に覗いてみませんか?
- スモールリスク思考とは、「こっそりトライアル版」を積み重ねる感覚
- 失敗だって「ウケ狙い」くらいにとらえてみる
- でも、小さい失敗を重ねるだけでは前に進まない?
- 「試し撃ち」する人ほど強い——小さく始めることの意味
- 友人Bの “週イチ新レシピ生活”
- スモールリスク思考を実践する4つのポイント
- 小さな失敗で、“ちょっと図太い” 自分になる
スモールリスク思考とは、「こっそりトライアル版」を積み重ねる感覚
たとえば大事なイベントでも、いきなり本番一発勝負は怖いですよね。ならば、“トライアル版” を何度もやってしまおうというのがスモールリスク思考です。
- 大きなセミナーで講演を引き受けるのは怖いけど、まずは社内の少人数向けに同じテーマで話してみる
- 転職してガラッと環境を変えるのは抵抗があるけれど、副業でちょっと試してみる
- 作家デビューは遠い夢だけど、SNSで短い文章を投稿して反応を確かめてみる
失敗しても、ちょっと恥ずかしかったり「あれ、うまくいかないな」と気づくくらいで、命取りにはなりません。むしろ「ここがダメだったか」「次はこう直そう」と学べる分だけお得です。スポーツの世界でも“練習試合”ってありますよね。あれと同じ感覚で、人生の練習試合を積み重ねると思えば、少し気が楽になりませんか?
失敗だって「ウケ狙い」くらいにとらえてみる
スモールリスク思考の醍醐味は、「もしスベっても、そこそこ笑える範囲で済む」というところ。たとえば初めてのプレゼンで噛み倒してしまっても、オーディエンスが少人数なら「噛んじゃいました、すみません」とネタにできるかもしれません。
想像だけで怖がっていると「あわわわ……」となりますが、やってみたら案外そこまで大ごとではないパターンって多いですよね。もし盛大に失敗したら、それはそれで後日の“やらかしエピソード”として笑えるかもしれません。
もちろん、笑い飛ばせないシリアスな失敗も世の中にはあります。でも、“そこまでの大失敗” を起こさないために、あえて小出しに失敗を経験しておくのがスモールリスク思考の狙いでもあるのです。大きなリスクは小分けにして、怖さを薄める。ちょっとした失敗なら、あとあとネタにできる。そう思うだけで、行動が少し軽くなるはず。
でも、小さい失敗を重ねるだけでは前に進まない?
ここで、心理学の要素を少しだけ。アメリカの心理学者アルバート・バンデューラは、人が行動を起こす際に「自己効力感(self-efficacy)」が大きく影響すると指摘しています。これは「自分ならできるはずだ」という感覚のことで、大きな成功体験がなくても、小さな達成や失敗から学んだ改善でじわじわと高まっていくのが特徴です。
スモールリスク思考も、この自己効力感をじわじわ上げるための方法と言えます。いきなり大きな挑戦をして大コケしてしまうと、メンタル的に立ち直るのが大変ですが、小さな勝負や失敗を繰り返すうちに「あれ、いけるかも?」と少しずつ確信が芽生えるわけです。
心の耐久度が上がれば、「もうワンランク上もいけそうだ」と自然と欲が出てくる。そこが最大のポイント。
「試し撃ち」する人ほど強い——小さく始めることの意味
なれない環境でいきなり大舞台に立たされるような場面を想像してみてください。たとえば、初対面の人が大勢集まるパーティーや大事な発表の場など。予備知識もないまま飛び込むのは、なかなか勇気がいるものです。でも、その前に少し練習や肩慣らしをしておけば、意外と落ち着いて臨めるかもしれません。
「人前で話すのが苦手」なら、あらかじめ身近な同僚や友人を相手にリハーサルしてみるのも手ですし、「自分のアイデアをプレゼンするのが怖い」というときは、まずは小さな会合で話して反応を見てみるといいかもしれません。
最初はうまくいかずに焦ることもあるかもしれませんが、回数を重ねるうちに「なんだ、ここまで大変じゃないのかも」と思える瞬間がやってきます。
こうして “小さく始める→ちょっと失敗する→慣れてきたら少しずつ拡大” という流れを回すだけでも、いわゆる“失敗耐性”はじわじわと育っていくものです。初めはまったく期待していなかったとしても、意外なところで好感触を得られれば、自信が湧いてくるかもしれません。
少しずつ練習や挑戦を重ねること自体が、いつの間にか次の大きなステップへ踏み出す原動力になっていくはずです。
友人Bの “週イチ新レシピ生活”
筆者の友人Bは、料理がからきしダメだったのに「週に1回、新しいレシピを試す」と決めてコツコツ続けています。最初はレシピ本の写真と全然違う仕上がりになり、「こりゃ失敗だな……」と凹むこともたびたびでした。
ところが、Bいわく「1回の料理で大失敗しても、翌週にリベンジできるから気が楽」なのだそう。SNSに失敗作を載せて「これが私の実力です」と開き直ると、なぜか友人が応援してくれる。
そうして笑っているうちに、いつの間にかひととおりの定番レシピはサッと作れるようになっていました。最初から「完璧を目指さなきゃ!」とプレッシャーをかけていたら、挫折していたかもしれませんが、あえて “失敗OK” を自分に許すことで楽しんで続けられたわけです。
スモールリスク思考を実践する4つのポイント
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とにかくサイズを最小限に
「まずは1000円だけ投資してみる」「まずは社内の誰か1人だけにアイデアをぶつけてみる」といったように、とにかく“傷が浅い”レベルを狙いましょう。 -
失敗をネタ化する
スベったら「うわあ……」と落ち込むより、「これヤバくない? こんなおもしろい失敗したんだけど」と人に話してしまうのも一手。小さな失敗はむしろ “おいしいエピソード” に変えられます。 -
回数を重ねるうちに慣れる
どんなに怖くても、2回目・3回目になると少しずつ慣れてくるもの。回数を重ねるうちに、失敗のハードルそのものが下がっていきます。 -
レベルアップのタイミングを見逃さない
ちょっと慣れてきたら、次はやや大きめの挑戦を。これを繰り返すことで、自然と自己効力感(self-efficacy)が高まり、「やればできるかも」と思えるようになります。
小さな失敗で、“ちょっと図太い” 自分になる
「失敗のハードル」を下げたいなら、まずは成功を目指す前に “スモールリスク” を取ってみるのはいかがでしょうか。大失敗だと思っていたものが、じつは「ちょっと悔しいだけで終わった」「次に活かせるネタになった」という経験が増えると、行動の敷居はぐんと下がっていきます。
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小さな失敗を重ねると、意外と “大きなダメージ” はないとわかる。それを積み重ねるうちに、どんどん図太くなる——これぞスモールリスク思考。
まずは週末やスキマ時間に、あなたなりの小さな “試し撃ち” をしてみませんか? もしかすると、そのほんの一歩が、未来への大きな扉を開く合図になるかもしれません。
大谷佳乃
「なぜ?」という疑問を大切に、日常に潜む人とモノとの関係性を独自の視点で読み解くライター。現在は、私たちが何かを選ぶときに働く「見えない力」に注目し、そのメカニズムを探求中。休日は、古書店で先人たちの知恵に触れるのが、自分にとっての「特別な時間」。