「たしかにそうですよね。しかし、私はこう思います」と、相手の意見に対して「Yes,」と肯定したあと、「but」と否定し自分の意見を述べる話法をYES,BUT法といいます。
相手の気分を害することなく反論したい場合に役立つとされていますが、この話法の取り扱いには注意が必要かもしれません。
「YES,BUT法で、対立せずに意見を述べるのは難しい気がする」「場の空気を壊さずに反論できる、いい方法があれば知りたい」という方に、YES,BUT法の注意点と、少し高度ではあるけれど、より安全な話法を紹介します。
「いいね、でも……」は空気を濁す?
ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎氏は、著書『内向的な人のためのスタンフォード流 ピンポイント人脈術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)のなかで、YES,BUT法がもたらす“曖昧さ”について言及しています。
同氏が現職前にスタンフォード大学で客員研究員をしていたとき、一風変わった大学のワークショップに出席したそうです。それは、大勢いる出席者をグループ分けし、そのなかの1グループを皆の前に立たせ、即興の寸劇をやらせるというものでした。
テーマは「週末のパーティ」。6名からなるグループにはオピニオンリーダーが1人と、5人のパーティ準備係がいる設定です。
5人は「寿司パーティをやろう」「手巻き寿司にしよう」「ピザパーティにしよう」などとパーティのアイデアを自由に出せますが、それに応えるオピニオンリーダーには、YESしか言わない、NOしか言わない、YES,BUTしか言わない、といった3通りのルールが課せられたそうです。
すると次の現象が起きたのだとか。
- YESしか言わない→(オピニオンリーダー)にすべて賛成されるので、(5人からは)どんどん楽しいアイデアが出てくる。
- NOしか言わない→すべて反対されるので、視点を変えたアイデアがどんどん出る。
- YES,BUTしか言わない→いいのか悪いのかわからず、どんよりした空気になる。
普通に考えたら、NO連発がもっとも険悪な空気を生みそうですが、実際には、オピニオンリーダーが、「寿司パーティいいね! でも……、寿司を嫌いな人もいるかもしれないよね」などと、YES,BUTしか言わなかったときのほうが空気を濁し、NOしか言わなかったときのほうがいろいろな代案が出てきたそうです。
YES,BUTしか言わない態度を、竹下氏は「煮え切らない、(賛成なのか反対なのか)本心がわからない態度」と表現し、それが周囲をイライラさせ、イヤな空気を生むと述べています。
「いいね、でも……」は結局対立を生む?
また、モチベーションファクター株式会社代表取締役の山口博氏は、YES,BUT法を使ったとき、最初こそ「Yes,」で和やかな空気が流れるけれど、結局は「but」のフレーズに入ったとたん対立モードになってしまう、と説きます。
そうしたこともあり、相手の見解に対してより深く同意してから「but」を切り出す、YES,YES,BUT法なるものまであるそう。
ところが、それだと今度は「おっしゃるとおりでございます」「ええ、ええ、たしかにそうですよね」などと、あまりにも丁寧に深く同意しすぎて「but」への切り替えしがしづらくなるとのこと。過度に丁寧な同意は、ワザとらしく嫌味な印象を与えてしまう危険性もあります。
では、どうしたらいいのでしょう?
山口氏は、「Yes,but」をソフトにアレンジした「同意+示唆」をすすめています。
「同意+示唆」の話法とは
山口氏は「同意+示唆」について、やわらかく相手を誘導し、合意を形成していくための話法だと説明します。この話法のポイントは次の2つ。
- 自分の意見を、相手の考えに関連づける
- 自分の意見は、主張せず示唆する
相手の意見に同意しつつ、その意見に関連づけた自分の考えを、それとなく知らせる、といった具合です。「わたしはこういう考えだ!」と主張するわけではないので、対立のリスクがグンと低くなりそうです。
それどころか、相手は同意されたままだと感じ、反論されたことに気づかない可能性も。ちなみに、「示唆」はこんな感じで行ないます。
- もしかしたら〇〇かもしれません
- 〇〇の考え方も、同じ考え方だと言えそうでしょうか
- 〇〇のように思うのですが、同じ考え方の延長線上のように思えるのですが
(引用元:ハーバー・ビジネス・オンライン|ダメ上司が使いがちなビジネススキル。対立や反発を生み出す話し方とは?)
これなら相手に対し、「あ、もしかして同じ意見ですよね、きっとそうですよね!」などと「共感したい・同意したい」気持ちを示したような印象になり、反論と受け止められにくいのではないでしょうか。対立が生じたり、本心がわからずイライラされたりすることも避けられそうです。
次に、具体的な会話例を紹介しましょう。
「同意+示唆」法による会話例
相手の考え方に沿って誘導することは、「そうですね、しかし」と切り替えるやり方よりも少し高度です。そこで今回は、「YES,BUT」から「同意+示唆」に変換するかたちで「同意+示唆」の例を挙げていきます。
商品を売り込む
あなた:「そうですよね。たしかに高いかもしれません。しかし、この商品にはこれらのサービスがついているので、むしろ安いほうですよ」
あなた:「そうですよね。たしかに高いですよね。あ、じつはこの商品、これらのサービスもついているんですよ。もしかしたら、ご意向に沿えるかもしれません」
「じつは」「もしかしたら(もしかして)」でつなげ、「かもしれない」で締めると、相手は自分の意向を汲んでくれている、と感じてくれそうです。
社内での企画提案
あなた:「たしかに、ちょっと弱いかもしれませんね。しかし、実際に調べてみるとこんな数値が出ているので、需要はあるはずです」
あなた:「たしかに、ちょっと弱いかもしれませんね。そういえば、実際に調べたらこんな数値が出ていました。ひょっとして、需要はあるのかもしれません。どう思われます?」
「そういえば――」で気付いて「ひょっとして~かも」と推論を立て、すかさず「相手の意見」を再度聞いてみると、相手は自分の考えがきっけとなり、いい展開になったと感じてくれるかもしれません。
友だちと議論
あなた:「たしかに、いまひとつ盛り上がりに欠けたよね。でも、映像はとてもきれいだったし、演技もよかったと思うけど」
あなた:「たしかに! 映像や演技はとてもよかったけど、いまひとつ盛り上がりに欠けたよねー」
自分の考えを先に示唆してしまい、相手の考え方に包み込んでしまうのもひとつの手です。相手は思わず、「うんうん、映像や演技はとてもよかったのにね」と同意してくれるかもしれません。
ぜひお試しください!
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なお、相手から反感を買おうが、場の雰囲気が壊れようが、法律や規則、品質の管理、納期、社員の健康などを守るため、同意できないと示したいときにはYES,BUT法も大いに役立ちます。
そうした状況以外の、「相手の機嫌を損ねず反論したいなぁ」というときに、今回ご紹介した「同意+示唆」を活用してみてください。
「じつは」「もしかしたら」「そういえば」「ひょっとして~かも」などの副詞や推量、接続詞を用いる、主導権が相手にあることを示すために再度質問(確認)する、同意する前に自分の考えを示唆する、こういったテクニックが役立つはずです。
(参考)
竹下隆一郎(2019),『内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術 (ハフポストブックス) 』, ディスカヴァー・トゥエンティワン.
ハーバー・ビジネス・オンライン|ダメ上司が使いがちなビジネススキル。対立や反発を生み出す話し方とは?
STUDY HACKER|イエスバット法とは? 会話の基本テクニックを丁寧に解説。
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STUDY HACKER 編集部
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