多くの管理職の方が1on1(ワンオンワン)ミーティングを実施していますが、
「うまくいっている気がしない」
「何を話せばいいのかわからない」
と悩んでいるのではないでしょうか。
せっかく時間を取っているのに、単なる雑談や形式的な進捗確認で終わってしまい、部下との距離が縮まらない……。そんな経験をお持ちの方も少なくないはずです。
実は、1on1は部下の本音を引き出し、信頼関係を築くための絶好の機会なのです。ただし、そのためには適切なアプローチが必要です。本記事では、1on1を通じて部下とのコミュニケーションを深め、チームの生産性を向上させるための具体的な方法をご紹介します。
事前の準備から、会話の進め方、そして事後のフォローアップまで、1on1を効果的に行うためのポイントを詳しく解説していきます。これらの方法を実践することで、「この上司となら本音で話せる」と部下に感じてもらえるはずです。1on1を通じて、部下の成長を支援し、同時に管理職としての自身のスキルも磨いていく――そんな良い循環を生み出すヒントが、ここにあります。
部下が本音を語らないワケ
かつて自分が部下だったときのことを思い返してみましょう。「この人には本音は言えない」と感じた上司はどんな人でしたか。
おそらく、話した内容を勝手にほかの人に言う人や、「弱音を吐くんじゃない」と叱責する人、話したところでなにも動いてくれず、話す意味がない人が思い当たるのではないでしょうか。
部下に本音を話してもらうには、「この人に話しても大丈夫だ」という安心感を与えることがなによりも重要なのです。この感覚を「心理的安全性」といいます。では、心理的安全性を確保し、「本音を話せばメリットがある」と部下に感じてもらうためには、どのような行動をとればいいのでしょうか。
株式会社人材研究所代表取締役社長で人事コンサルタントの曽和利光氏は、「日頃から、業務改善の提案など部下の意見(本音)をまずはきちんと受け止め、実行できることならすぐに実行する、あるいはそうできないならその理由を丁寧に説明する」ことが効果的であると述べています。*1
たしかに、普段の業務で信頼関係が築けていないのに、いきなり面談で本音を話してほしいといっても難しいものです。まずは仕事上で、部下の意見を前向きに受け止め、それを反映させる方法を一緒に模索するなど、「いつでもあなたの意見を受け止め、一緒に行動するよ」という姿勢を行動で示すことが、信頼関係につながっていくのです。
とはいえ、前向きに受け止められるときばかりではありませんよね。部下が失敗したときや、明らかに業務態度が悪いときなどは、そのことを指摘し、改善を促さなければなりません。
このようなネガティブなフィードバックをすると、部下との信頼関係が揺らいでしまうのでは……と不安に思う方もいるかもしれません。ネガティブなフィードバックをしても信頼関係を維持するには、日頃からポジティブなフィードバックを多くしていることが大事です。
マンパワーグループ株式会社シニアコンサルタントの難波猛氏は、「問題点を指摘するなど部下に対してネガティブな関わり方をするのであれば、その4倍はポジティブな関わり方をしなければ部下の心は離れていく」と述べています。*2
たとえば、部下が目標達成できなかったことについて指摘するならば、それ以外の場で、どんなに小さなことでも4つは部下を評価する発言をすることで、信頼関係を保つことができるのです。
「1on1」では事前にテーマを共有しておく
部下へのフィードバックの場として「1on1」を取り入れている会社も多くあります。「1on1」とは、上司と部下が一対一で行なう面談のこと。今後やりたいことや抱えている問題など、上司と共有しておきたい話をする場です。上手に活用できれば、部下と本音で話をすることができるでしょう。
しかし、この「1on1」が定期的に行なわれるただの雑談となっていることも多く、部下が「意味のない時間で仕事をする時間が削られている」と感じていることもあります。せっかく時間をとっているのに、逆効果になってしまうのはもったいないことです。
これを改善するには、「事前にテーマを投げ込んでおくこと」が効果的だと、あまねキャリア株式会社CEOの沢渡あまね氏は述べています。*3
たしかに、いざ「1on1」がスタートしてから「なにか話したいことはある?」と聞かれても、多くの部下は答えられません。事前に部下の目標につながるテーマを考えておき、「次の1on1ではこのテーマについて話し、できることを一緒に見つけよう」と共有しておくと、時間を有意義に使えます。
具体的なテーマの例として、同氏は「『新たな顧客開拓の方法』『○○スキル習得のための方法』といった業務上の課題、あるいは書籍をベースにしたり、日報に書かれていた内容を取り上げたりする」ことを挙げています。*3
日頃は、目の前の業務に対応するだけで精いっぱい、という部下も多いはず。「やりたい案件に関わりたい」「もっとスムーズに業務をすすめられるようになりたい」など、部下の率直な目標を聞き出し、そこにつながる作戦を一緒に練る場として「1on1」を活用すれば、部下にとっても価値ある時間になるはずです。
「自分が心地よく働くために、上司が協力してくれる場だ」と感じられれば、部下は本音を話してくれるようになりますよ。
「1on1」で次に活かせる経験をつくる
「1on1」で、業務の進捗確認を行なうこともあります。そこでも、できるだけ部下の成長につながるフィードバックができれば、部下との信頼関係は確かなものになるでしょう。
では、どのようなことに気をつければいいのでしょうか。
株式会社リンクイベントプロデュースでファシリテーターとして活躍する広江朋紀氏は「1on1では、部下ひとりで客観的に振り返りにくい経験を棚卸しし、気づきを言語化したうえで、ネクストアクションの設定を支援することが、理想的な上司の関わり方」であると語っています。*4
たとえば部下が、可能性が低いと思われていたコンペに勝つことができたとします。そのままにしておけば「ただラッキーだった」で終わってしまいます。
しかし「今回の勝因はなんだったと思う?」と問いかけて、部下の考えを引き出し、上司としての経験から助言すれば、「デザイナーとのすり合わせを丁寧に行なったことで、実用性がありながら斬新なアイデアを生み出せたから」「じつは企画チーム以外の社員が、陰で多くの仕事を巻き取ってくれていたから時間を捻出できていた」など、うまくいった要因を可視化することができるのです。
こうすれば、次に活かせる経験値となり、部下の成長を後押しすることにつながるのです。
逆に「すごい! よかったね!」で終わらせたり、「もっとこうするべきだった」と重箱の隅をつつくような指摘に終始したりするのは、わざわざ時間をとって「1on1」をする意味がありません。
上司と経験を共有することで、今後の業務にも活かせる学びが見つかるとわかれば、部下は積極的に話をしてくれるようになります。
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部下がよりよく働けるように、積極的にサポートする上司であることを、日頃の業務や「1on1」を通して示すことができれば、部下は積極的に本音を話してくれるようになるはずです。
本記事で紹介したポイントが押さえられているか、一度振り返ってみてくださいね。
※引用の太字は編集部が施した
*1 STUDY HACKER|「本音で話そう」では本音を引き出せない。部下の気持ちがわかる上司が心がけていること
*2 STUDY HACKER|部下と最高の関係を築けている上司の日常習慣。信頼につながる「4:1」の比率とは
*3 リクナビNEXTジャーナル|上司と部下の「1on1ミーティング」──うまくいかない原因と効果アップのコツをアドバイス!
*4 東洋経済オンライン|部下との1on1を「豊かな」時間にする3つの糸口
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。