
「頑張ったからには成果を出したい」という思いは、ビジネスに限らずなにかに注力している人なら誰もが抱くことでしょう。しかし残念ながら、「頑張ったのに成果を出せなかった」というのもよく起こることです。世界最大級のグローバルコンサルティングファーム・デロイト トーマツ内で社員の人材開発にも携わる望月安迪さんは、両者をわけるのは「設計」だといいます。その言葉の真意とはどのようなものでしょうか。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
望月安迪(もちづき・あんでぃ)
1989年生まれ。合同会社デロイト トーマツ コンサルティング部門 テクノロジー・メディア・通信(TMT)ユニット兼モニターデロイト ディレクター。神戸大学非常勤講師(新規事業開発)。飛び級で大阪大学大学院経済学研究科経営学・金融工学専攻修了、経営学修士(MBA)。2013年にデロイト トーマツ コンサルティング合同会社(現・合同会社デロイト トーマツ)に入社。長期ビジョン構想、事業戦略策定、新規事業開発、企業再生、M&Aの他、欧州・アジアにおけるグローバル戦略展開、グループ組織再編にも従事。ファーム内で数%の人材に限られる最高評価(Exceptional)を4年連続で獲得、複数回の年次スキップを経てディレクター職に昇格。デロイト トーマツ グループを対象とした「ロジカルシンキング」研修講師を担当し、外部企業向けにも研修プログラムを提供。新卒・中途入社社員の採用や人材開発にも携わっている。著書に『目的ドリブンの思考法』『シン・ロジカルシンキング』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。Xアカウント(@andymochizuki)でコンサル式仕事術なども配信中。
製造品質は設計品質を上まわることはない
「頑張って成果を出せる人」と「頑張ったのに成果を出せない人」の違いはどこにあるでしょうか? その答えは「設計」だと考えます。
製造業などものづくりの世界には、「設計品質」「製造品質」という言葉が存在します。設計品質とは、「顧客の要求を満たすように設計者が定めた品質目標」であり、くだけた表現にするなら「こんなものをつくれたらいいな」「こんなことができたらいいな」という目標や思いです。
一方の製造品質は、「設計品質を実際の製品としてどの程度正確に実現できたか」を示す、いわば「できばえ」の品質を意味します。そして、この製造品質は設計品質を超えることはありません。
ものづくりに限らず、プレゼン資料、企画書、Webサイト、広告デザインなどの作成、私の仕事であるコンサルティングも含めて、あらゆる仕事には「こんなものをつくれたらいいな」「こんなことができたらいいな」という目標が先立って存在します。
しかし、その目標を100%達成できることは稀です。設計品質を100としたときに、実際には時間や予算、人手が足りないといったことが重なり、製造品質はたとえば70など、結果的に100を大きく下まわることがほとんどなのです。
このことを考えると、最初の設計の重要性が理解できるはずです。そもそも最終的にできあがるものの製造品質が設計品質を超えることはないのですから、仮に設計の段階で方向性を大きく誤るなどして設計品質が60にしかならなかったとしたら、その製造品質は50や40といったさらに低いものになってしまうのです。

いいアウトプットのためには一定量のインプットが不可欠
その設計品質を高めるためには、なによりも「自ら考える」ということに尽きます。AIが普及したいま、AIの回答を正解のように思い込んでしまうケースも多いと思いますが、AIの回答はあくまでも過去に蓄積されたデータから導かれた一般論、いわば「正解らしきもの」に過ぎません。そのため、それだけでは、いま目の前で直面しているユニークな課題課題には対応しきれないのです。
思考はいくつかの工程にわけられますが、私としてはとくに「インプット」をおろそかにしてほしくないと考えています。近年、「アウトプットこそが重要だ」といった主張をよく見聞きしますが、いいアウトプットのためにも、一定量のインプットがないと話にならないでしょう。インプットする情報は、考える材料そのものです。料理と同じで、材料が足りなければ、そこから生まれるアウトプットの質が低下するのは明らかです。
私の場合、たとえば過去にかかわったことのない業界のクライアントを相手に仕事をするとなったら、まずはその業界全体がわかるような基本書となる分厚めの書籍を1冊読みます。それによって業界の全体像をつかみながら、そのなかで個々に掘り下げる必要があると感じる部分に関する書籍も含め、だいたい10冊から15冊の書籍を読みます。
しかし、書籍というメディアは情報の体系性と信頼性には秀でているものの、情報の鮮度という点では問題があります。そこで、Webや雑誌など新規性の高いメディアの情報もフォローするのです。
加えて、その業界の人のインタビューも行なうとなおよいでしょう。書籍やWebの記事だけだと、実際にその業界に身を置く人の生の声が聞こえにくく、手触り感のない情報に偏りがちです。そこで、インタビューにより、現場を知る人のリアルな実感というものにも触れるというわけです。
一般企業のビジネスパーソンでも、他業界や同業他社の人にインタビューを行なうことは決して珍しくありません。これまでに経験がないという人はぜひ実践してみてください。自社の人間からは聞けない希少な情報を手にできるはずです。

無駄を省きアウトプットの精度を上げるため「いったん立ち止まる」
そして、方向性を見誤らず設計品質を上げるためには、「いったん立ち止まる」ということも欠かせない意識です。じつはこの言葉は、入社1年目だった私が上司から言われた言葉でもあります。
当時の私は、仕事のゴーサインが出たらすぐに作業に飛びついてしまっていました。その仕事の意味を考えることもなくいきなり調査をして資料をつくって、結局、上司やクライアントが求めているものとはかけ離れたアウトプットをしていたのです。「すぐに着手する」というと聞こえがいいしれませんが、それこそ本来走るべき方向と真逆に走りはじめてしまったら、取り返しがつきません。
だからこそ、まずはいったん立ち止まりましょう。「そもそもこのタスクに取り組む意味はなにか?」「そのアウトプットは誰にどのように使われるものか?」「だとしたら、どのようなアウトプットにすべきか?」「そのために必要な調査や情報はなにか?」など、考えるべきことはいくらでもあります。
あくまでも「いったん立ち止まる」ですから、多くの時間を割く必要はありません。作業に着手する前に数分をかけるだけでも、間違いや思い込みに気づき、必要のない作業に多くの時間を割いてしまうリスクを軽減できるでしょう。むかしながらの「急がばまわれ」ではありませんが、生産性向上が叫ばれるいまだからこそ、あえて「いったん立ち止まる」という姿勢を大事にしてほしいと思います。

【望月安迪さん ほかのインタビュー記事はこちら】
AI時代、“考えない人” が急増中。仕事ができる人だけがやっている4つの思考術
部下がついていくリーダー vs 離れていくリーダー。決定的に違う「言行一致・凡事徹底」(※近日公開)
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
