みなさんは、10年後、自分がどうなっていたいと考えていますか。
明確な目標を持ち、それに向けてすでに努力を始めている人もいるかもしれませんね。その一方で、関心のあるものが多すぎて絞ることができない、という人はいませんか。
周囲の人は、やりたいことを一つに決め、それに向かってどんどん進んで行く。それなのに、自分は目標を一つに絞り切れない……。そんな風に劣等感を感じる必要は全くありません。むしろ、興味関心の広いほうが強みを発揮する側面もあるのです。今回は、たくさんのことに興味を持つ人が兼ね備える素晴らしい能力についてお伝えしたいと思います。
「マルチ・ポテンシャライト」とは
キャリア・人生に関する指導を行うエミリー・ワプニック氏によると、興味関心の広い人のことを「マルチ・ポテンシャライト」と言うそうです。ここで言っているのは、「将来の夢は?」と聞かれて「何もない」と答えてしまうような無気力な人のことではありません。自身が、ミュージシャン、ウェブデザイナー、映画監督、ライター、法律を学ぶ学生、起業家などさまざまなことをしてきた経験から、ワプニック氏は「マルチ・ポテンシャライト」を次のように定義しています。
「多くに興味を持ち創造を追求する人」
(引用元:TED|天職が見つからない人がいるのはどうしてでしょう?)
昔から様々なことに興味を持ちチャレンジしてきたワプニック氏でしたが、一つのことをやり通せない自分に不安を感じることもあったのだそう。そこで「Puttylike」というマルチ・ポテンシャライトのためのコミュニティを作りました。このサイトは、マルチ・ポテンシャライトの持つ能力について啓蒙したり、その能力の活かし方などをシェアしたりするためのサイトとして運営されています。
歴史上の人物でマルチ・ポテンシャライトを挙げるとすれば、多くの学問に通じる人が理想とされたルネサンス時代を生きたレオナルド・ダ・ヴィンチを想像すると良いかもしれません。彼は解剖学や音楽、建築に天文学など様々な分野に親しみ、優れた業績を残しました。
マルチ・ポテンシャライトが持つ「3つの強み」
ワプニック氏によれば、マルチ・ポテンシャライトは3つの強みを持っています。
1つ目は、アイデアを統合する力です。これはつまり、2つ以上の分野を組み合わせて新たな何かを創造できるということ。例えば、地図デザインをヒントにアクセサリーなどをオーダーメイドで作るメシュー社という企業は、創業者であるシャ・ファン氏とレイチェル・ビンクス氏の共通の趣味である地図作成・データ視覚化・旅行・数学・デザインから生まれました。これらの趣味には一見なんの関連もありませんが、うまく組み合わせることでユニークなアイデアが生まれることを示す良い例と言えるでしょう。
2つ目は、学習の早さです。マルチ・ポテンシャライトは多くのことに興味を持つので、「初心者である」ことに慣れています。ですから、居心地の良い場所から一歩踏み出すのも恐れずに学ぶことができるのです。ワプニック氏が例として挙げたノラ・ダン氏という女性は、旅行家・フリーランス作家で、彼女自身が知るところ最速のタイピストなのだそう。しかし子どもの頃はコンサート・ピアニストだったという経歴を持っています。ダン氏は子ども時代の経験から、体で物事を覚える驚異的な能力を身につけ、それがのちの人生の「最速のタイピスト」というプロフィールに繋がっているのです。
3つ目は、適応力です。これは、たとえどのような場面でも自分の役割を変えることができる、という能力のこと。アメリカのファスト・カンパニー誌によると、適応力は21世紀で成功する上で最も重要な技能だそうです。世界の経済が大きく変動する中、容易に方向転換可能な人や組織こそが、市場のニーズを満たすことができるのです。ぜひ私たちも見習いたいですね。
「スペシャリスト」と「マルチ・ポテンシャライト」
私たちは、一つのことに打ち込む人のことを「スペシャリスト」と呼ぶことがあります。もちろん、スペシャリストの存在は重要で、貴重な人材であることは確か。ただしスペシャリストだけでは企業や社会における課題を達成することはできません。スペシャリストがアイデアを実行段階までとことん追求し、マルチ・ポテンシャライトがそのプロジェクトに幅広い知識を持ち込んで初めて、一つのことを成し遂げることができるのです。
例えば、2016年7月7日に宇宙船ソユーズに乗って国際宇宙ステーション(ISS)での任務に向かった宇宙飛行士の大西卓哉さん。地上には、彼をはじめとする宇宙飛行士たちを支えるチームがあります。そのチームを構成するメンバーの中には、複数のスペシャリストがいるでしょうし、それらを幅広い視点から管理するマルチ・ポテンシャライト的な人材がいるはずです。
また、ビジネスシーンでは、マルチ・ポテンシャライトと似た言葉に「ゼネラリスト」があります。ゼネラリストとは、ひとつの業務分野だけを極めるのではなく、数年単位でのジョブローテーションなどを通じて養われる、幅広い業務分野に精通したビジネスパーソンのことを言います。広く浅いゼネラリストではなく、広く深い知識・スキルを身につけたゼネラリストを目指すのが重要だ、などとよく言われたりしますね。マルチ・ポテンシャライトの発想を踏まえるならば、ジョブローテーションだけではなく、自ら興味関心を広げ積極的に学びとる姿勢を持ち続けることで、ビジネスシーンで必要とされるゼネラリストに近づくことができるのではないでしょうか。
*** マルチ・ポテンシャライトという言葉を初めて聞いた人も多いかもしれません。今まで、やりたいことを一つに絞れず悩んでいた人も、マルチ・ポテンシャライトの持つ好奇心の強さ、視野の広さはとても素晴らしい能力なのだということがお分かりいただけたと思います。もしあなたがマルチ・ポテンシャライトであるなら、自信を持ってその能力を生かしてください。そして、そうでない人も、マルチ・ポテンシャライトにならって興味を広げてみてください。
(参考) TED|天職が見つからない人がいるのはどうしてでしょう? Puttylike|About Emilie Wapnick 世界史の窓|レオナルド=ダ=ヴィンチ Meshu U-NOTE|スペシャリストとゼネラリスト、ビジネスマンが目指す道はどちらが正解? JAXA宇宙航空研究開発機構|大西卓哉宇宙飛行士 長期滞在概要