
「もっとシンプルに伝えられないかな……」
会議の前日、深夜。パソコンの画面に映る資料を前にため息をつく。データは揃っているのに、なぜか説得力が足りない。明日の重要な会議。どうすれば相手に「わかりやすい説明」ができるのだろう?
じつは、そんな「説明ベタ」の悩みを解決する効果的な方法があります。それが「ファインマン・テクニック」。もともとは学習法として知られていますが、じつはプレゼンや会議での発表内容を「短く、わかりやすく、伝わるかたち」に変えるのに最適な方法なのです。
この記事では、ファインマン・テクニックを使って、プレゼンや会議での説明を「シンプルで説得力がある」ものに変える具体的な方法をご紹介します。この手法を使えば、複雑な内容でも、「伝わるプレゼン」が作れるようになるはずです。
ファインマン・テクニックとは
ファインマン・テクニックとは、学んだ内容を簡単な言葉で説明することで理解を深める学習法のこと。元になっているのは、ノーベル物理学賞を受賞したアメリカの理論物理学者、リチャード・フィリップス・ファインマン氏が行なっていた学習法。
ファインマン氏は、複雑な内容を誰にでもわかりやすく説明することに長けていました。そのため、偉大な説明者とも呼ばれていたそうです。*1 のちに『ULTRA LEARNING 超・自習法』の著者スコット・H・ヤング氏が定式化し、世の中に広まりました。複雑な知識を分かりやすく整理する実践的なツールとして注目されています。*2
ファインマン・テクニックは、以下のステップで行ないます。*2
理解したい概念や問題を、紙の一番上に書く。
その下の余白を使って、その概念・問題を他の人に教えるかのように説明する。
a.説明するのが概念の場合、それを聞いたことのない人にどのように伝えるかを考えてみる。
b.問題の場合、それをどうやって解くかを説明し(ここが重要な点だが)なぜその解法が自分から見て筋が通っていると思うかを説明する。行き詰まったとき、つまり自分が明確な答えを書けるほど理解していなかった場合には、教科書やノート、教師、教材に戻って答えを見つける。
簡単に言えば、理解を深めたいことについて、ほかの人におしえるつもりで書き出し、わからなかったことをあとから補足するというもの。ファインマン・テクニックを勉強に活用する方法については、STUDY HACKERでもたびたびご紹介しています。ぜひご覧ください。

ファインマン・テクニックはプレゼンや会議にも使える
ファインマン・テクニックは、優れた学習法のひとつとして知られていますが、じつはプレゼンや会議での発表内容を「短く、わかりやすく、伝わるかたち」に変えるのに最適な方法でもあります。
- 話の核となるメッセージを伝えられるようになる
ファインマン・テクニックでは、プレゼンや会議前に内容をシンプルな言葉で整理し、自分のなかにしっかり落とし込むプロセスを経るため、話の核となるメッセージを明確に伝えられるようになります。これにより、冗長な説明を省き、聞き手にとって重要なポイントを確実に届けることができるのです。 - 相手にわかりやすく伝えられるようになる
難しい概念やデータを簡単な言葉で噛み砕き、わかりやすく説明できるようになります。専門用語や複雑な分析をそのまま話すのではなく、具体例やイメージしやすい比喩を使うことで、聞き手に親しみやすいかたちで情報を伝えることできます。 - 事前に出てきやすい質問を想定できる
ファインマン・テクニックでは、曖昧な部分を補強するプロセスで、想定される質問や課題を洗い出します。そのため、プレゼンや会議で質問を受けた際にもスムーズに補足できます。
聞き手の不安や疑問を解消し、納得感のある議論やプレゼンを進められるのです。 ファインマン・テクニックを取り入れることで、準備段階での精度が上がり、伝える力と対応力を同時に鍛えることができるでしょう。
結果として、プレゼンや会議の質が大きく向上し、聞き手との信頼関係構築にもつながります。

プレゼンや会議で使えるファインマン・テクニックの実践方法
プレゼンや会議で使える、ファインマン・テクニックを使ったノート術の手順をご紹介します。
- テーマを決めて、簡単に説明する(例:新製品の特徴、会議の目的)
会議で説明する内容や、プレゼンの構成をノートに記入します。実際に当日プレゼン・会議を行なっているつもりで、話し言葉でノートに説明を書いていきましょう。その際は、専門用語を使わず、子どもにも伝わるレベルを意識するようにします。 - 曖昧な箇所を見つけて情報を補完する
ノートに説明を書きながら、うまく噛み砕けなかったことや疑問に感じたことをメモし、追加でリサーチを行ないます。必要に応じて、あとで追加資料を作成するのもいいでしょう。 - 想定される質問や課題をリストアップする
今回説明する相手を思い浮かべ、相手が抱きそうな疑問をリストアップします。
(例: 「導入費用はいくら?」「既存システムとどう違う?」) - 全体を通して噛み砕いて再構築し、最終版を作成する
ステップ2・3の内容を取り入れ、もう一度ノートに説明を書きます。わかりやすくなっているか、疑問点がないかを確認します。「この説明には図解が必要だ」と感じたらメモしておき、あとで作成します。

ファインマン・テクニックをプレゼンに活用してみた
筆者は、「社内の有志で行なう読書会で本の紹介をする」というテーマで、ファインマン・テクニックを実践してみました。選んだ本は『休む技術』(著者:西多昌規)です。本の紹介の持ち時間は3分間とします。
ステップ1:テーマを決めて、簡単に説明する
まず、話の構成を書き出します。筆者の場合は、導入のあと、本のなかで興味深かったポイントを3つ紹介し、まとめるという構成にしました。

社内読書会:「休む技術」を紹介する
- 導入(この本の何がいいのか、おすすめポイントを説明)
- 聞いている人たちに役立つ説を3つ紹介
・サボる時間を先に予定に入れておく
・慢性疲労にはゆるいスポーツが効く
・ワーキングメモリの回復には15分の仮眠が効く - まとめる
次に、実際に人前で本を紹介する気持ちで、内容を順に書き出します。ファインマン・テクニックの肝である、「子どもにもわかるような説明をする」という点を心がけました。


ステップ2:曖昧な箇所を見つけて情報を補完する
内容を書き出してみると、詳細を思い出せないところが見つかりました。本を見返して、その部分を補完します。
筆者は、ステップ1で書いた内容と区別するため、青いペンを使って書き足すことにしました。

読み返してみると、専門用語を使っている箇所も見つかったため、わかりやすい言葉で補っています。
ステップ3:想定される質問や課題をリストアップする
聞いている側の気持ちになりながら、上から順に読み返します。そこで疑問に感じたことを、オレンジ色のペンでメモしました。そのあと本を読み返し、質問に対する答えを書き足します。

想定した質問とその答えを以下のように書き出しました。
質問:オフィスでできることは? ストレッチなどでも効果はあるそう
質問:ワーキングメモリがおちたことが分かる目安は?
・判断力/感情がうすくなる ・キレやすい/前にしたことが思い出せない
ステップ4:全体を通して噛み砕いて再構築し、最終版を作成する
ここまで作成した内容をざっと読み返し、もう一度実際にプレゼンするようなかたちで書き出します。筆者の場合は、内容がシンプルで短いこともあり、書き直すプロセスを省き、声に出して説明を行ないました。

実際に取り組んでみて、「わかりやすく伝える」ということがいかに難しいかを実感しました。実践例では本の紹介を行ないましたが、本を読み終わったあとはわかったつもりになっているのに、あらためてその魅力を人に伝えようと思うと、なかなかうまくいきません。書き出した内容を読み返して初めて、人を惹きつける話の展開ができていなかったり、つい専門用語をそのまま使ってしまったりしていることに気づきました。
逆に言えば、ファインマン・テクニックで事前にプレゼン内容を整理しておけば、聞く側の気持ちを先取りできるということ。結果につながるプレゼンを行なうために、ファインマン・テクニックを活用することはとても有効であると感じました。
また、ステップ4は、紙に書き出すだけでなく、声に出すことが効果的であると筆者は感じました。文字だと、内容に矛盾や抜けがないかは確認できるのですが、実際に言葉にしたときのリズム感や盛り上がりを確認することは難しいからです。プレゼンや会議にファインマン・テクニックを活用する際は、ぜひステップ4で声に出すことを取り入れてみてください。
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ファインマン・テクニックを活用することで、プレゼンや会議の質を飛躍的に向上させることができます。シンプルに伝える力は、他者と信頼関係を築き、効率的なコミュニケーションを実現するための重要なスキル。学習法としてだけでなく、ビジネスシーンでも応用できるファインマン・テクニックを、ぜひ日々の業務で活用してみてください。
*1 COLLEGE INFO GEEK|How to Use the Feynman Technique to Learn Faster (With Examples)
*2 ダイヤモンド・オンライン|「TEDで話題の勉強法」が解説!“独学”最大の落とし穴「わかったつもり」が解決できる技術とは?
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。