
学びを活かすには「アウトプット」が大事——。
そんな言葉、よく耳にしますよね。セミナーでも、本でも、必ずと言っていいほど出てくるフレーズです。
でも、実際にアウトプットしようとすると、意外とハードルが高いものです。誰かに教える機会が必要だったり、勉強会でのプレゼンのタイミングを待ったり。あるいは、機密情報を含む業務内容だから人に話せない、なんてこともあるでしょう。
そこでこの記事では、ひとりでできる効果的なアウトプット術をご紹介します。今日から始められる、学びの定着メソッドです。
アウトプットの重要性
まずは基本のおさらい。なぜアウトプットが重要なのか、その根拠を見てみましょう。
「アウトプット」が大事だと言われる理由は、科学的な根拠に基づいています。新しく学んだことは、時間とともに記憶から失われていく——これは私たちの誰もが経験していることでしょう。実際、エビングハウスの忘却曲線によると、学んだ内容の74%は24時間が経過すると忘れられてしまうことがわかっています。
このような記憶の減衰を防ぐため、アウトプットを通じて知識を活用することが重要です。ここで興味深いのが、「誰かに教える」という行為の効果です。
他人に説明することで自身の理解が深まる「プロテジェ効果」がよく知られています。ただし、これは必ずしも実際の相手が必要というわけではありません。自分の言葉で説明するという行為自体に学習効果があるのです。
この効果は「生成効果」とも呼ばれ、自分で考えて表現することで記憶と理解が深まります。勉強であれば問題を解く、仕事であれば学習した内容をもとに分析や改善をしていくなど、実践的な活用が効果的です。
では、具体的にどのようにアウトプットをしていけばよいのでしょうか?
参考記事:
相手がいなくても「アウトプット」は可能
ここでは、学習をした内容を具体的にどのようにアウトプットにつなげることができるのか、ひとりでできる方法について解説していきます。
1. 学びを簡潔に要約する
学んだ内容を、自分の言葉で要約することから始めてみましょう。これはひとりでできるアウトプットの基本。要約する過程で理解が深まり、不明確な部分も見えてきます。
たとえば、ビジネス書を読んだ後であれば、3つの重要ポイントを箇条書きにまとめることができます。このプロセスで、本当に重要な情報が整理され、自分にとって必要な内容が明らかになっていくのです。
また、この要約は手書きで行うのがおすすめです。脳科学教育研究所所長の桑原清四郎氏によれば、手書きの際の繊細な指先の動きが脳を活性化させ、高い集中力を生み出すとのこと。この集中が脳の神経細胞に良い影響を与え、効果的な学習につながると指摘されています。*2

筆者は特許関係の試験の勉強中なので、参考書で記載されていた内容を要約して箇条書きにしてみました。
自分で紙に書こうと思うと、さっき勉強したばかりの内容なのに意外に思い出せず、自力で書くということがいかに難しいかを感じました。思い出せなかった箇所は頭に入っていないということなので、もう一度見直します。
わからないところが明確になるため、効率的にインプット/アウトプットができたと感じました。
2. どのように活用できるかをシミュレーションする
新しい知識をどのように活用できるかをイメージすることは、実践への大きな第一歩です。具体的に「どの場面で」「どのように」使うのかを考えることで、行動に移しやすくなります。
たとえば上司とのコミュニケーションのテクニックを学んだ場合、「次回の1on1のタイミングで、こちらから話題を振ってみる」というように、どのように適用するか具体的にプランを立ててみましょう。勉強で新しい語句を覚えた場合は、「記述問題で出たらどのように書けばいいかな」と考えてみましょう。
3. 学んだ内容をその日のうちに試す
前述のとおり、24時間で70%以上の知識が忘れられてしまうので、アウトプットは「早さ」が鍵です。学んだ内容をその日のうちに少しでも試してみると、学びが行動に結びつきやすくなります。たとえばプレゼンテーションについての学びであれば、その日の業務中にスライドを実際に作成してみることができますし、資格試験等の勉強であれば問題集などを解いてみることもできます。
筆者は、勉強した知識を使う例題を解いてみました。参考書で勉強したすぐあとに関連する問題を解くことで、実際の試験問題でどのように使われているのかよくわかりました。
学んだ知識をアウトプットに変えるポイント
1. 学びを簡潔に要約する
- 自分の言葉で要約し、理解度を確認
- 手書きで書き出し(脳の集中力を高める)
2. 活用方法をシミュレーション
- 具体的な使用シーンを想定
- 「どの場面で」「どのように」使うかを明確化
3. その日のうちに実践
- 24時間以内のアウトプットが重要
- 小さな実践から始める
じつはアウトプットはひとりでする方がいい面も
ここまで「ひとりでもできる」という形で書いてきましたが、じつはアウトプットには「ひとりの方がむしろいい」という側面もあります。
1. 相手の「頭のよさ」を気にしなくていい
実際に誰かに教えるときは、相手の理解度に合わせてペースや説明方法を調整する必要があります。一方、ひとりでのアウトプットなら、自分だけの理解度に合わせて深く考え、整理していくことができます。これは、ひとりだからこその大きなメリットのひとつです。
2. メタ認知の強化
ひとりで考えをまとめるとき、「自分が何を理解していて、何がわかっていないのか」により正確に気づけます。誰かに教える時には、「相手が」わかっていること、わかっていることにフォーカスすることになりますが、じつはそれには無駄も多い。相手がわかっていなくても自分がわかっていれば、それを繰り返すのは無駄なことでもあります。
3. いつでもできる
思いついたときにすぐアウトプットできることは、大きな強みです。記憶が新鮮なうちに整理できますし、場所や時間を選ばず実践できます。これは従来の「誰かに教える」というアウトプットでは難しかったことです。
ひとりでアウトプットする3つのメリット
1. 自分のペースで深く考えられる
- 相手の理解度を気にせず集中できる
- 自分に合った説明方法を見つけられる
- 理解の深さを自分でコントロール
2. 理解度の正確な把握
- 自分の理解度に正直に向き合える
- 無駄な説明の繰り返しを避けられる
- 弱点の発見がしやすい
3. 時間と場所を選ばない
- 記憶が新鮮なうちに整理可能
- 思いついた時にすぐ実践
- スケジュール調整が不要
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記憶の定着や理解には、アウトプットが大事。でも、発表したり教えたりする機会がいつでも都合良くあるわけではありません。ひとりでもできる「アウトプット」の方法を実践して、効率よく知識を自分のものにしていきましょう。それを積み重ねることで、あなたの知識は確実にスキルとなり、仕事や日常に大きな成果をもたらすでしょう。
*1 APA PshycNet|The generation effect: Delineation of a phenomenon.
*2 マイナビニュース|文字を書かないと脳が老化しちゃうってホント?
髙橋瞳
大学では機械工学を専攻。現在は特許関係の難関資格取得のために勉強中。タスク管理術を追求して勉強にあてられる時間を生み出し、毎日3時間以上勉強に取り組む。資格取得に必要な長い学習時間を確保するべく、積極的に仕事・勉強の効率化に努めている。