学ぶ意欲が高いビジネスパーソンのみなさまは、本を読む時間を大切にしていることでしょう。しかし、なかにはこんな悩みをもつ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
- ビジネス書を読んで有益な情報やノウハウを学んでいるのに、いまいち記憶に残らず、実際の業務やプロジェクトに活かせていない……。
- 自己啓発書を読んだ直後はやる気に満ちあふれているのに、時間が経つと読んだ内容も熱意も薄れてしまい、実行に移さないまま時が流れてしまう……。
その原因は、読書を「読むこと」だけで終えてしまう点にあります。ある研究では、翌日記憶に残るのはたった3割程度。覚えていないのならば、当然実行に移すことは難しくなります。
とはいえ、「それができないから困っているんだ」という方が多いでしょう。そこで本記事では、忙しい日常でも無理なく取り入れられ、実際の行動や成果につなげるための、「知識を定着させる方法」をご紹介します。この方法を取り入れて読書の効果を最大化すれば、本の知識があなたの仕事や学習の成果に直結するはずです。
記憶はどこへ消えていく? 時間が経つと忘れる理由
せっかく時間をかけて読んでも、本の内容を忘れてしまうのはなぜでしょう?
それは、人間の記憶が不安定で頼りなく、また、頭に詰め込むだけでは脳に定着しにくいからです。
記憶の限界
冒頭で「翌日記憶に残るのはたった3割程度」と述べた根拠は、ドイツのライプツィヒ大学サイト内にある、ヘルマン・エビングハウス氏の研究資料に示されています。
同資料にあるデータによれば、学習してから24時間後、保持されていた記憶はその33.7%。そのぶん再学習時の労力が節約できたとされています。
逆に24時間後に失われた記憶は、最初の学習内容の66.3%です。*1
時間経過 (時間) | 節約率 (%) | 忘却率 (%) |
---|---|---|
0.33 | 58.2 | 41.8 |
1 | 44.2 | 55.8 |
8.8 | 35.8 | 64.2 |
24 | 33.7 | 66.3 |
48 | 27.8 | 72.2 |
6×24(6日後) | 25.4 | 74.6 |
31×24(1か月後) | 21.1 | 78.9 |
(※*1 内の表「§ 29. Diskussion der Resultate.」を参考に、簡略化して編集部が作成)
しかしながら、エビングハウス氏はこのなかで――
「記憶は時間とともに薄れ、新しい情報に押しのけられていく」としながらも、「完全に消えるわけではなく、適切なきっかけがあれば再び思い出すことができる」といった内容を伝えています。*1
アウトプットの不足
前段の内容をふまえると、本の内容を忘れてしまうのは、「適切なきっかけ」を与えていないからと言えるのではないでしょうか。つまり、読みっぱなしで何もしなければ、結局記憶は減衰してしまうのです。
実際に、公立諏訪東京理科大学教授で脳科学者の篠原菊紀氏も、「記憶は繰り返して情報を使わないと脳に定着しません」と述べ、「記憶の作業をおこなった直後、そして12時間後、1日後、1週間後、1カ月後」に学習内容の理解度を確認するチェックテストをすすめています。
つまり、インプットした情報は使って(アウトプットして)初めて脳にしっかりと残り、忘れにくくなるわけです。
読書後に記憶に残すためのアウトプット活用法
では、読書をしたあと、どのようにアウトプットすればよいのでしょう? それを、みなさまに実感してもらうために、ふたつのストーリーをご用意しました。
広告関係の会社で働くAさんは、仕事も勉強も熱心な読書家ですが、本をたくさん読むわりには内容を忘れてしまうのが悩みの種。
そんなある日、直前の読書で知ったマーケティング理論を週次ミーティングで話す機会がありました。すると、思いのほか好評を得たので、次回の週次ミーティングでも何か有益な情報をみなに伝えようと考えたのです。
その結果、本を読み終えたら自分の言葉でまとめるようになり、曖昧な部分も明確にするクセがつきました。さらには、チームメンバーからの反応や意見が、新たな気づきを与えてくれるようになったのです。
それからというもの、本で読んだ内容が記憶に残りやすくなり、本から得た知識を実際に、プロジェクトのなかで活用することもできるようになりました。
つまり、Aさんは、本で学んだことを人々に話すというアウトプットをしたことをきっかけに、読書後のまとめや、内容の理解に努める習慣を身につけました。アウトプットをするという目標があるから内容を精査する、そして、アウトプットそのものが記憶の定着を強化するという好循環を得たのです。その結果、学んだ知識を仕事に活かせるようになったのはいうまでもありません
もうひとつの例も紹介しましょう。
フィナンシャルプランナーのBさんは、本を読んで「これは役に立つ情報だ!」と思っても、日常の忙しさに流されて、それが何だったのか忘れてしまうことが多くあります。
そこでBさんは、本で気になった部分を短い言葉でメモしておくことに。そして、ときどき「えーと、なんだっけ?」と頭にボンヤリ浮かんだとき、そのメモを手に内容を思い出そうとしてみることにしました。
思い出せなければ、すぐそのメモを見てしまいますが、不思議と以前より本で得た情報がしっかりと頭に残るようになったのです。
やがてBさんは、本で学んだコミュニケーション術や考え方などを、クライアントとの面談で実際に活かせるようになりました。
つまり、Bさんは、読書後すぐに印象に残ったポイントを簡潔にメモする、それを思い出そうとするといったアウトプットで、しっかりと本の知識を頭に残せるようになったのです。これは、前出の篠原氏がすすめていた、記憶の作業後のチェックテストにも該当するのではないでしょうか。
ひとりでできる! 読書後の記憶定着 3STEP
では、これまでの内容をふまえ、学んだ知識を定着させるテクニックを実践例を交えてご紹介します。
STEP1. 直後:学びをまとめる(インプットの整理)
読書で学んだことを行動へつなげるため、「実践したいアクションを3つ」ノートに書き出す「3行ノート」という方法があります。
提唱者は、手帳を活用した目標達成メソッドで自己実現のためのコーチングを手掛けるライフコーチの高田晃氏。具体的には以下の3項目をノートに書き出すだけです。
- 「読み終えた日付、書籍名、著者名」
- 「○△×の3段階でのその本に対する評価」
- 「その本を読んで『これをやってみよう』と決めた3つのアクション」
下の画像は、筆者が記事のアイデア出しをする際に本を読み、実践したいアクションを3つに絞り込んだものです。
参考:
STEP2. 数日後:定期的に復習する(記憶の強化)
そして、本で学習した翌日、1週間後、1か月後には、可能なかぎりチェックテストを行ないます。たとえば8月7日に本で学習したなら、次のようなタイミングでふりかえるイメージです。
- 1回目:8月8日
- 2回目:8月14日
- 3回目:9月4日
テストで知識の定着度を確認しながら、アウトプットを重ねることで、記憶を強化することもできます。
筆者も本で勉強したあと、上記のタイミングでチェックテストを実施してみたところ、1回目のテストでは6割程度、2回目では7割程度、3回目は9割正解となりました。
ただ、実際にやってみると復習のタイミングを計算するのは結構面倒なので、エビングハウスフセン(以下画像)を用いると便利です。
エビングハウスフセンとは、前出のヘルマン・エビングハウス氏の研究をヒントに生み出された「記憶定着のためのベストな復習のタイミングが一目で分かるふせん」です。
復習する日付が印字されていて、復習したらハサミで切るだけ。余計な手間をかけずに定期的な復習を即実行したい方におすすめです。
STEP3. 数週間後:実践する(学んだ知識の活用)
そして、最後は実践です。先の「3行ノート」で書き出した3つのアクションを行動に移すのもよし。自分ができる範囲で学んだ知識をちょっとした行動に移し、小さな実験を重ねるのもよし。あるいは、「本で得た知識を応用して行動に移すコツ」をAIに尋ねて、そのなかから自分がやりやすいかたちを選び、実践してみるのもいいでしょう。
こうした行動が、記憶にも残り、かつ仕事や勉強の成果につながっていくはずです。
***
これまでの「読むだけ読書」を、アウトプットと実践でどんどん「生きた読書」に変えてみてください。
*1: Universität Leipzig|H. Ebbinghaus (1885): Über das Gedächtnis - VII. Das Behalten und Vergessen als Funktion der Zeit.
上川万葉
法学部を卒業後、大学院でヨーロッパ近現代史を研究。ドイツ語・チェコ語の学習経験がある。司書と学芸員の資格をもち、大学図書館で10年以上勤務した。特にリサーチや書籍紹介を得意としており、勉強法や働き方にまつわる記事を多く執筆している。