なぜあの人の提案は通るのか?提案上手は知っている『OATHの法則』の効果とは

「もっと〇〇を改善したい」「ぜひ新しい施策を導入したい」——そんなアイデアや計画を抱いていても、周囲からは「そこまでしなくていいんじゃない?」「正直、面倒くさそう……」などと懐疑的な反応を受けて、なかなか動いてもらえないことはありませんか?

特に、新人や若手社員がいきなり大規模な改革案を出そうとすると、「生意気」「コストや手間ばかり増える」と言われがちです。

そこで活用したいのが、OATHの法則と呼ばれる “相手の関心レベル” を見極めるフレームワーク。そして、もうひとつが心理学の「フット・イン・ザ・ドア」テクニックです。これらを組み合わせることで、相手に失礼な印象を与えずに「最初は小さなステップから始め、最終的には大きな行動へつなげる」アプローチが可能になります。

本記事では、これらを具体的にどう活用するかを、社内の「エコ推進」提案を例にしながら解説していきます。地味に思われがちな社内改革でも、じつはこうしたステップを踏むと大きな変化を生み出しやすいのです。あなたの職場やコミュニティでも、ぜひ応用してみてください。

なぜ、大きな提案は失敗しがちなのか

「この企画、めっちゃいいはずだし、周囲も絶対賛成してくれるだろう」。そう思って、大きな変化を伴う提案をぶつけてみたものの、ほとんど興味を示されずに却下……という経験は珍しくありません。

とりわけ、新人・若手社員という立場だと、「そこまでしなくていい」「先にもっとほかのことをやってほしい」など否定的な声が上がりがちです。

なぜそうなるかといえば、多くの場合、周囲がそもそも「問題の存在」を強く感じていないから。あるいは、「いつかは必要かもだけど、いますぐじゃなくてもいいでしょ」と思っている段階で “賛成” を求めても、心が動きにくいのです。

ここで役立つのが、OATHの法則というフレームワークです。

OATHの法則とは —— 相手の関心レベルを4段階で見極める

マーケティングやセールスの世界でしばしば語られる「OATHの法則」は、相手(顧客)がその問題をどれくらい認識しているかを4つの段階で整理します。

1. Oblivious(無知)
  • 問題の存在を知らない・気づいていない
  • 「そんな問題あるの? まったく知らなかった」という状態
2. Apathetic(無関心)
  • 問題があるのはうすうす知っているけど、自分には関係ない・そこまで重要だと思っていない
  • 「まあ大事なのかもしれないけど、いまはそこまで……」という感じ
3. Thinking(考えている)
  • 「そろそろ何とかしないといけないかも……」と考えはじめた段階
  • 「具体策はわからないが、真剣に検討するべき?」と思っている
4. Hurting(困っている)
  • 「もう待ったなし。今すぐ解決策がほしい!」と切実に必要性を感じている
  • すでに行動を起こさないと大きな損害や弊害が出ると認識している

新しい提案が通りにくい場合、社内のメンバーがObliviousかApatheticのどこかにいる可能性が高いのです。

そこで、「いきなり大きな行動を求める」よりも、小さなアクションやちょっとした気づきを与えるところから始めないと、反発を招きやすいというわけです。

フット・イン・ザ・ドア(Foot in the Door)テクニックを使う

もうひとつ覚えておきたいのが、心理学で有名な「フット・イン・ザ・ドア」テクニックです。1966年、Freedman と Fraser の研究で示されたもので、「最初に小さな依頼を引き受けてもらうと、その後の大きな依頼にも応じやすくなる」という現象を指します。

たとえば「一度だけアンケートに答えてほしい」と頼まれ、それに応じると、その後「もっと詳しい調査に協力してもらえますか?」という大きな依頼も「まあ、協力してあげようか」と思うようになる……という事例が有名です。

これは、人が一度行った行動を"自分はそういう人間なんだ"と認知し、次の行動を受け入れやすくなる心理メカニズムによるものです。

具体例:社内で「エコ推進」を実現したい

ここからは、OATHの法則とフット・イン・ザ・ドアを組み合わせる具体例として、社内での “エコ推進” を取り上げましょう。若手社員のAさんが、「紙の資料をやたら印刷する風習をなんとかしたい」「社内全体でゴミ削減を進めたい」と考えているとします。

◇ 周囲の現状:OATHで見ると?
Oblivious(無知)
同僚たちが「紙ってそんなに多いっけ? 別に気にしたことないよ」という状態。そもそも排出量に無自覚。
Apathetic(無関心)
多少は「まぁ紙多いかな」「ごみ箱がすぐいっぱいになるな」とは思っていても、「まぁ大丈夫っしょ」「そんなに問題視するほどでもない」と関心が薄い。

このような空気の中で、Aさんが「よし! 社内の紙使用量を半減しよう! 完全ペーパーレス化だ!」と声を上げても、「そんな大げさな……」と一蹴される恐れが高いでしょう。いきなり大きな提案を持ち込むと、Aさん自身も “生意気” や “理想論ばかり” と見られてしまうかもしれません。

ステップ1:まずはちょっとした “気づき” を与える(Oblivious → Apathetic)

相手がOblivious状態(まるで問題を知らない)なら、ほんの小さな情報提供から始めます。たとえば、

  • 社内メルマガや掲示板で「1日の会議資料に使われる紙が○千枚」というデータを共有し、
  • 「これ、意外とコストもかかっているかもしれませんね。何かうまい方法はないでしょうか?」と問いかける

などと、「そういえば紙、多いかも……」と少しだけ興味を持ってもらう段階づくりをするわけです。ここで重要なのは、強制も批判もしないこと

「あなたたち、紙使いすぎ!」など否定的に言うと反発されやすいので、「じつはこんな数字が出ています。ちょっと驚きですよね?」くらいに留め、相手が「へえ、知らなかった」と思う機会を作ります。

ステップ2:フット・イン・ザ・ドア——小さな行動を頼む(Apathetic → Thinking)

次に、やや無関心(Apathetic)な同僚や上司でも、「それくらいならやってもいいかな……」という 小さな協力 を頼みます。たとえば、

  • 「今週の会議だけ、資料をPDFにしてプロジェクタに映しませんか? 紙は配らずに済むので、試験的にやってみません?」
  • 「ちょっとだけ “ごみ箱の中身を分別” してみましょう。分別BOXをひとつだけ置いてみませんか?」

ここで「フット・イン・ザ・ドア」の効果が活きます。最初から「完全ペーパーレス宣言しましょう!」という大要求ではなく、週1回限定とか 1日だけなど、相手に “ちょっと行動すれば済む” くらいの小さなステップを提示するのです。

すると、「じゃあ1回だけなら協力してもいいかな……」と軽くOKをもらえる確率が上がります。

ステップ3:成功体験を共有して、相手を “Thinking” 段階へ

実際に “小さな行動” ができたら、すぐに 「意外と便利」「こんなメリットがあった」 をフィードバックして、周囲に共有します。たとえば、

  • 週1回のPDF会議が終わったときに、「今回の会議、紙をゼロにしたら○百枚の節約になりましたよ。意外とみんな問題なく進められましたよね?」と声をかける。
  • 同僚からも「こうすればいいかも」という意見を引き出し、楽しそうな雰囲気を演出。

このとき、相手は「自分も協力してみた」「紙を使わなくても意外と大丈夫だった」と実感できるので、Apathetic から Thinking(そろそろ、もっと本格的にやってみるのもいいかもしれない)へ移行しやすくなります。

“自分がエコ推進に少し貢献した” という意識が生まれ、批判や面倒くささを言いづらくなるのです。

ステップ4:さらなる提案を追加し、最終的に “Hurting(必要不可欠)” を演出

最後に、もう少し大きな提案を “次のステップ” としてもちかけます。たとえば、

  • 「この調子で会議資料も徐々にPDF化してみませんか? もし慣れれば、月に○万枚もの紙削減が期待できます」
  • 「あわせてゴミの仕分け方法をわかりやすくして、社内で “エコロジー週間” を企画しませんか?」

すでに小さな成功体験があるため、周囲は「ここまでやったんだし、続けてもいいかも」「ほかの案件にも応用できそう」と思いやすい。ここで何かしら外圧やタイミング(たとえば経営陣から「SDGsへの取り組みをアピールしたい」と要望が出る)も加われば、「もうやらないと損かもしれない」とHurting(困っている)段階へと意識が高まり、一気に本格推進が決まりやすくなります。

フット・イン・ザ・ドア×OATHで “失礼な印象” を与えずに済む理由

1. 小さな要求から始めるため、相手に「生意気な大改革」だと思われにくい
「最初から全部変えましょう!」ではなく「試しに週1回だけどうです?」と軽く提案するので、上司や先輩の立場を脅かす感じが少ない。
2. OATHで相手の認識レベルを踏まえるから、"押しつけ"を防げる
「Oblivious/Apathetic なら、とりあえず意識を高める工夫が先決」と自覚すれば、失礼に指摘することなくスムーズに問題意識を芽生えさせられる。
3. 小さく体験してもらってから大きな行動へ誘導するので、相手自ら"前向き"に動く
フット・イン・ザ・ドア効果で「自分も既に一部協力している」と自覚するため、相手は後ろ向きではなく、自然に次の行動を受け入れられる。

徐々に段階を踏めば、大きな変革も現実になる

1. OATHの法則
相手が「そもそも問題を知らない(O)/知ってるけど無関心(A)/興味あり(T)/困っている(H)」のどこにいるかを見極める。
2. フット・イン・ザ・ドア
最初は小さな行動を頼むことで「拒否感」を低く抑え、相手に成功体験やポジティブな印象を与える。
3. 段階的なアプローチ
そこから「あれ、意外といいかも?」→「もう少しやってみようか」と徐々に段階を上げることで、最終的には大きな行動や本格的な取り組みに到達できる。

こうした段階的アプローチなら、上司や同僚に「失礼だな」「押しつけがましいな」と思われるリスクが格段に下がります。むしろ、「あの人の提案、思ったよりいいかもしれない」と興味をもってもらいやすくなるでしょう。StudyHacker読者の皆さんは、これを 社内改革はもちろん、コミュニティ運営やプロジェクト立ち上げなどにも応用できます。

結局のところ、いくら良いアイデアでも、周囲が「その問題って大事なの?」と感じていない状態では説得しにくいのです。

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OATHの法則で相手の認識レベルを把握し、フット・イン・ザ・ドアで「小さな成功」を一緒に積み重ねていく。そのサイクルを回すうちに、気づけば以前は不可能だと思われていた大きな目標まで実現できるかもしれません。ぜひ、あなたの職場やプロジェクトで試してみてください。

【ライタープロフィール】
大西耕介

「人の行動」に潜む、意外な真実を独自の視点で解き明かすライター。身近な例から社会現象まで、独自の視点で考察し、意外な真実を提示する。趣味は、古い町並みを散策しながら、その土地の歴史や、人々の営みに思いを馳せること。

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