
上司の視点から見ると、個々の能力には大きな差がないように見える部下たちであっても、仕事の成果を比較すると、そこには無視できないほどの大きな違いが生まれていることも少なくありません。この成果のギャップは、多くのマネジャーが日々頭を悩ませる課題のひとつと言えるでしょう。では、その差はどこから生まれるのでしょうか? 書籍『世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)の著者である井上大輔さんは、その答えを「自己効力感」に見いだします。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)
【プロフィール】
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
1978年2月14日生まれ、神奈川県出身。OFFICE pianonoki代表。ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディでマネジャーを歴任。ヤフー株式会社マーケティングソリューションズ統括本部マーケティング本部長、ソフトバンク株式会社コンシューマ事業統括コミュニケーション本部メディア統括部長などを経て現職。個人事業主としてマーケティングやマネジメントをテーマとした執筆・講演・企業研修などを行なうほか、上場企業の執行役員としてマネジメントの実務にも現役で携わる。WASEDA NEO「早稲田マーケティングカレッジ」講師。著書に『幸せな仕事はどこにある』、『マーケターのように生きろ』(いずれも東洋経済新報社)などがある。
「私にはできる」と思える感覚が仕事の成果に差を生む
部下が成果を挙げられるかどうかを左右する要素にはいろいろありますが、「自己効力感」も特に重要なものだと私は考えています。
自己効力感とは、簡単に言えば「私にはできる」と思える自分自身への信頼です。「自信」と区別してもう少し厳密にして、「ある特定の仕事に対して『私にはできる』と思える感覚」とここでは定義させてください。
スポーツで考えるとイメージしやすいかもしれません。サッカーのゴールキーパーは、フォワードのポジションに対して、「私にはできる」と思えるような必要はありません。でも、自分のポジションに対して「私にはできる」と思えていれば、大きくパフォーマンスが上がることは容易にイメージできるのではないでしょうか。
あるいは、同じ野球のバッターでも、「ホームランを打つ力はないけれど、ランナーを送るバントの技術やスピードなら誰にも負けない」など、自らに期待される特定の仕事に対して強い自己効力感をもつプレーヤーは、しっかりとパフォーマンスを発揮できる可能性が高いのです。
逆に言えば、たとえ実力はほとんど変わらなくても、「どうせ自分には無理だ……」「本番ではいつもうまくいかない……」と自己効力感が低いプレーヤーは、せっかくの実力を無駄にしてしまいかねません。
もちろんこれは仕事にも言えることですから、チームのマネジャーである上司には、メンバーの自己効力感を高く保っておくことが求められます。

「特定の仕事に対する自分への信頼」だから管理しやすい
自己効力感が「ある特定の仕事に対して」の自分での信頼であることは、マネジャーにとっては朗報です。なぜなら、それゆえに「マネジャーが介入しやすい」という側面があるからです。
もっと広い意味における、いわゆる「自信」も、ビジネスパーソンに限らず私たちが前向きに生きていくための原動力ですが、そういった自信を部下がもてているかどうかというのは、他人である上司からはなかなか見えにくいものです。
でも、上司として任せた特定の仕事を部下ができているのか否か、その仕事に対して「できる」と思えているか否かは比較的見えやすく、管理しやすいものだと言えます。
しかも、その後の対処にも違いが出てくるでしょう。広い意味での自信を部下が失っていたとしたら、上司としてどのように対処すればいいかもなかなか見えてきません。
一方、任せた特定の仕事に対して「できる」と思える感覚が揺らいでいるというのであれば、たとえばその仕事を分解し、ある作業を別のメンバーに任せて難易度を下げるとか、必要な知識を伝えてフォローするなど、具体的な手立てを考えることができるのです。
そうして部下に成功体験を積ませていくことで、その部下も自己効力感だけでなく、最終的には自信だって高められるのではないでしょうか。だからこそ、広い意味での自信ではなく、ある特定の仕事に対して「できる」と思える感覚に注目することが、マネジャーにとって生産的なのだと考えます。

部下の自己効力感を測るためのふたつの質問
しかし、実際に部下の自己効力感の状態がどうなっているかは、ただ周囲から眺めているだけではなかなか見えてきません。そこで私からおすすめするのは、「いま任せている仕事について、なにか手伝えることはある?」という質問をすることです。
たとえ同じ「大丈夫です」という返答があったとしても、「任せておいてください!」と言わんばかりに力強く「大丈夫です!」と答えるのか、それともちょっと間があって「あ……大丈夫です」と答えるかなど、その答え方には違いが見られます。
あるいは、「いまの仕事に対する自信度を採点するなら、10点満点で何点になる?」という質問も有効でしょう。
謙虚であることが美徳とされる日本人の場合、「10点です!」と答える人はそう多くないかもしれません。でも、自己効力感が下がっている場合にはより低く採点する可能性が高いでしょうし、同じ点をつけるにしても、その答え方には先の例と同様に違いが出てくるはずです。
部下の自己効力感が毀損されたがために仕事のパフォーマンスが下がってしまうようなことは、チームを率いるマネジャーとしては避けたいところです。また、ただ部下のパフォーマンスが低下するにとどまらず、場合によっては部下が心のバランスを崩してしまうことだって考えられます。そういう意味でも、マネジャーのみなさんには、ぜひ部下の自己効力感に気を配ってあげてほしいと思います。

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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
