「今日は特別な用事があるからやらなくてもいいか」と、一度の「例外」を許すことが、習慣化の大敵となることを知っているでしょうか。習慣化アプリ「継続する技術」を提供するbondavi株式会社代表取締役の戸田大介さんは、忙しい社会人だからこそ、「今日はできない」という状況を回避する必要があると言います。そうするための工夫について解説してもらいました。
構成／岩川悟 取材・文／清家茂樹 写真／石塚雅人
【プロフィール】
戸田大介（とだ・だいすけ）
1991年4月21日生まれ、山形県出身。bondavi株式会社代表取締役。新潟大学工学部卒業後、電通アイソバー（現・電通デジタル）に入社し、データアナリストとして勤務したのち、アプリ開発ベンチャー・bondaviを創業。データ分析技術をもとに人間心理を分析し、人の前向きな行動を引き出すアプリの開発を始める。2016年に習慣化アプリ「継続する技術」、2018年に仕事・学習用集中アプリ「集中」をリリース。前向きに行動するユーザーの意識を奪わないために広告掲載をせず、学生などのユーザーにも制限を加えないために全アプリを無料で提供し、収入のほぼすべてをユーザー任意の寄付とする。支出超過に苦しむも、口コミで徐々に評判が広まり、「継続する技術」は国内ナンバーワン習慣化アプリとなり200万ダウンロード、「集中」は300万ダウンロードを記録し、2023年に寄付のみで黒字化を達成。
1日休んだだけでも挫折率は大きく跳ね上がる
世のなかには、「習慣化のコツ」と呼ばれるものがたくさん存在します。それらのなかには、非常に有益なものもあればそれほど効果的でもないものもあり、それこそネット上にも多種多様な情報があふれているいまは、玉石混交といった状況と言えるでしょう。
そこで、 弊社が提供している習慣化アプリ「継続する技術」のユーザーの行動データを分析した結果、「継続成功率が上がる原則」と言えるものが見えてきました。勉強や運動などなんらかの習慣化に成功した人には、いくつかの特定の行動が見られます（『目標のハードルはここまで下げる。「たった5分」から始める習慣化の技術』参照）。
それらのなかから、今回は「例外を設けない」という原則について解説していきます。これは、「今日は飲み会が入っているから、勉強しなくてもOK」といった例外を設けない原則です。じつは、たった1日休んだだけでも習慣化の挫折率がぐっと上がってしまいます。
たとえば、「毎日、筋トレをしよう」という人が1日だけサボったとします。すると、69.1％の人はそれを境に二度と筋トレをしなくなります。さらに、2日連続でサボると、その数字は83.8％にまで跳ね上がります。
一度でも言い訳をつくってサボってしまうと、まるで理性のダムが決壊したかのように怠惰な気持ちがあふれ出し、そのあとはもっと簡単に休むようになっていきます。そして最終的には、「もうどうでもいいや」と投げ出してしまうわけです。
「やる」「やらない」ではなく、「ほんの少しやる」選択肢をもつ
忙しい社会人であれば、「今日は残業があるから、勉強はしなくてもいいだろう」というように、例外をつくりたくなる気持ちもよく理解できます。でも、その一度の例外が命取りとなる可能性が非常に高いわけです。
とはいえ、社会人には残業や外せない会食もつきものです。そういったケースでは、例外は例外でも、「タイミングに関する例外」をつくることを考えましょう。
本来、習慣化に成功するためには、「行動パターンを一貫させる」ことが欠かせません。勉強をするにも、「今日は起きてすぐ」「明日は夕食後」というように日によってタイミングを変えると、ルーティンとして定着しづらくなるからです。
でも、それ以上に怖いのが、サボるということ。ですから、残業や飲み会があるとわかっているなら、いつもは自宅での夕食後に勉強していたとしても、起床後や出勤中など前倒しで済ませてしまいましょう。そうすれば、「二度とやらなくなる人」になるのを避けられるはずです。
また、そうしたケースでは、やることのハードルをいつもよりぐっと下げるのも手です。私は、勉強や運動などなにを習慣化しようとするにも、「5分」という短時間で終えられる目標設定にするのを推奨しています。「5分だけならできそうだ」と思えて行動に移しやすくなるからです。
残業や飲み会があるなど例外的な状況では、そのハードルをさらに下げてしまいましょう。勉強であれば、それこそ「テキストを開く」といったことでもかまいません。なによりも重要なのは言い訳をつくってサボらないことであり、テキストを開くというハードルの低い目標であっても、とにかく続けることを優先してみてください。
習慣化に関する目標については、決めたとおりに「やる」「やらない」という二者択一で考えがちです。でも、そこに「ほんの少しやる」という3つめの選択肢を用意しておきましょう。心理的なハードルが大きく下がり、継続できる確率が高まっていくはずです。
もしものときのための、「1日まではサボってOK」ルール
ただ、そうした対策を用意していたとしても、現実問題として「どうしてもできなかった」というときが出てくる可能性も否めません。
ここまでの話と矛盾するようですが、そういったケースに備えて、「1日まではサボってOK」というルールを設定しておいてもいいと考えます。これまでお伝えしてきたように、なにかを習慣化したいのであれば、本来なら1日もサボらないことが理想でありベストであるのは変わりません。
でも、完璧主義ではないですが、「絶対に1日もサボらないぞ」とこだわりすぎていると、「どうしてもできなかった」というときに、自分を責めてやる気を失ってしまう可能性が高まることが、先のユーザー分析によりわかりました。
ですから、いわゆる「3秒ルール」ではないですが、「1日だけだったらサボってもOK」というやや緩いルールを設定しておくわけです。そうすれば、仮に「どうしてもできなかった」ということが起きても、「まだ自分は失敗していないぞ！」「まだセーフだ！」と思え、翌日からまた目標をきちんとこなそうという気持ちを保てます。
実際のところ「例外を設けない」という原則の話は、多くの人に嫌がられます……（苦笑）。みなさんも、「忙しい社会人なのだから、どうしてもできないときだってある」と思ったことでしょう。でも、残念ながらこれは客観的データから見えてきた確かな原則です。しかも、私自身、これまでずっと「なんとか楽をして習慣化したい」と考えてきた人間です。少し逆説的になりますが、その私が言うのですから、「例外を設けない」ということこそが、楽をして習慣化するための方法なのだととらえてほしいと思います。
【戸田大介さん ほかのインタビュー記事はこちら】
目標のハードルはここまで下げる。「たった5分」から始める習慣化の技術
「継続成功率」が上がる行動のタイミング。差が生まれるのは、いつ、どう行動するか。
清家茂樹（せいけ・しげき）
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
