「勉強ができる人になりたい」
誰でも一度は、そんな思いを抱いたことがあるでしょう。「見たものを一瞬で暗記できる」「授業で一度聞いたことは全部覚えている」などの特別な才能がなくても、結果を出すことは十分に可能です。
そのためには、正しい勉強法の知識に触れ、理解するのはもちろん、自分なりの目標と計画を立て、時間を管理し、着実に実行していくことが重要。「勉強ができる人」の特徴と、「勉強ができる人」に近づくコツを詳しく解説しましょう。
- 勉強ができる人・できない人を分ける要因
- 勉強ができる人になる方法1:適切な計画を立てる
- 勉強ができる人になる方法2:効率的な勉強法を知る
- 勉強ができる人になる方法3:再現性の高いノートをとる
- 勉強ができる人になる方法4:勉強習慣を身につける
勉強ができる人・できない人を分ける要因
そもそも、勉強ができる人・できない人の差はどこにあるのでしょうか? 要因を3つに分けて考えます。
勉強力
1つめは「勉強力」。効率のいい、正しい勉強の仕方を知っているかどうかです。生まれもった能力は平凡でも、合理的な勉強法を押さえさえすれば、大きな目標を達成できる可能性があります。
『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』(青春出版社、2016年)の著者・杉山奈津子氏は高校時代、1学年およそ180人のなかで160位前後の成績だったそう。数学の偏差値が29だったことすらあるそうです。記憶力にも自信がなかったところ、一念発起して効率的な勉強法を研究・実践したら、1年の浪人を経て東京大学薬学部に合格できたそうですよ。
正しいやり方で勉強すれば、誰でも「勉強ができる人」になれる――そんな希望を与えてくれる事例ではないでしょうか?
計画力
2つめは「計画力」。目標に到達するための勉強計画を適切に立てられるかどうかです。
試験を受ける場合、いつまでに何を覚えねばならないかが明確に決まっています。その目標から逆算し、合理的な計画を立てられるかどうかが、結果を左右するのです。
継続力
3つめは「継続力」。計画が三日坊主に終わっては、結果を出せません。毎日コツコツと勉強を続けられるかどうかが、勉強ができる人・できない人の分かれ目なのです。
まとめると、正しい勉強方法を知っていて適切な計画を立てられ、努力を続けられるのが「勉強ができる人」、正しい勉強法を知らず計画が雑で、努力を継続できないのが「勉強ができない人」だと言えるでしょう。
勉強ができる人になる方法1:適切な計画を立てる
上で挙げた3つの要素に基づき、「勉強ができる人」になるための方法を紹介していきます。
まずは、勉強計画の立て方。「いつまでに、どこまで勉強を終えるのか」というゴールから逆算することが大切です。
3ヵ月後の試験までに100ページの参考書を極めたいのであれば、「100ページ/90日=1.11...」となるので、1日に2ページずつ進めれば間に合うことになります。これに加え、
- 問題集を解く時間
- 採点し、解説を読む時間
- 過去に解いた問題を復習する時間
なども考慮すれば、1日当たりの勉強時間が導けるはずです。
資格試験の講師として豊富な経験がある石川和男氏によると、勉強計画を立てる際は、以下の点を意識するのがよいそう。
週に1度の「空白」を設ける
週に1度は、あえて予定を入れない「空白の日」をつくりましょう。計画に余裕をもたせ、破綻を防ぐための戦略です。
試験まで90日として、毎週金曜を空白にすれば、残り時間を78日として計画を立てることになります。計画の進みが遅れても、空白の日を勉強に当ててペースを戻すことが可能です。順調に進んでいる場合、空白の日には休息しましょう。
目標を20%カットする
計画を立てる段階では、自分の能力を高く見積もってしまい、達成できない無謀なノルマを設定しがち。そうならないよう、決めた目標に「0.8」をかけてみましょう。
「1日2時間勉強するぞ!」と決意したなら、「2×0.8=1.6」で、およそ1時間半ということになります。この数字こそ、現実味のある「ちょうどいいノルマ」なのです。
達成度を「見える化」する
勉強の進捗をわかりやすく確認できるようにしましょう。石川氏がすすめているのは、毎日のノルマを書き出しておき、達成した部分を蛍光ペンでぬり潰していく方法。紙や手帳、Excelなどを使います。ノルマが次々にぬり潰されることで、確実に前へ進んでいる実感が得られますよ。
上記を実践し、「計画力」を高めることで、「勉強ができる人」に近づけるのです。
勉強ができる人になる方法2:効率的な勉強法を知る
勉強ができる人になるには、効率的な勉強法を知って「勉強力」を高めることも大切です。基本的な3つのポイントをご紹介しましょう。
4回以上復習する
インプットした知識を定着させるには、こまめな復習が必要です。有名な「エビングハウスの忘却曲線」によると、記憶した情報は1時間後に56%、翌日には74%も忘れられてしまいます。復習しないと、インプットした知識がどんどん消えていくのです。
脳生理学者の池谷裕二氏によると、脳は「生きていくのに不可欠かどうか」という基準で記憶を選別し、必要と判断したものだけ残すそう。勉強して得た知識は、生命維持に直接関わらないことがほとんどなので、「重要でない」と判断されがち。記憶を長く残すには、繰り返し復習して「これは大切な情報だぞ」と脳に教え込む必要があります。
池谷氏によると、以下のペースで4回復習するのが理想的だそう。
- 1回め:翌日(4月1日)
- 2回め:その1週間後(4月8日)
- 3回め:その2週間後(4月22日)
- 4回め:その1ヵ月後(5月22日)
回数を重ねるごとに、だんだん間隔を空けていくのがポイント。復習スケジュールを組む参考にしてください。
アウトプット型の復習をする
池谷氏によると、記憶を定着させるには「アウトプット型」の復習が効果的なのだとか。脳は、インプットしただけよりも、アウトプットした情報を重要視するからです。
『超カンタンなのにあっという間に覚えられる! 現役東大生が教える 「ゲーム式」暗記術』(ダイヤモンド社、2017年)の著者で勉強術に詳しい西岡壱誠氏が推奨するのは、テキストで学んだ知識や講義の内容を、真っ白な紙に何も見ず書き出すこと。よく考えて思い出す、つまり情報を脳から引き出す(アウトプットする)ことで、「この情報は重要だ」と脳が認識してくれます。
◆アウトプット型の復習の例
- 問題集を解く
- 確認テストをする
- 単語カードを使う
- 何も見ず紙に知識を書き出す
- 人に教える
- 人に教えるつもりでひとりごとを言う
1冊の参考書を極める
参考書については、1冊を極めるのが基本。ほかのテキストへの浮気はNGです。
前出の石川氏によると、参考書は基本的に、1冊で試験範囲をカバーできるようつくられているそう。参考書に載っていない範囲の出題は、ほとんど考えられません。
そのため、参考書を複数用意する必要は、ほぼないのです。むしろ、複数のテキストを同時に進めることで、勉強が中途半端になってしまう恐れがあります。参考書A・Bを50%ずつ覚えるより、参考書Aの理解度を100%にするほうが合理的ですよね。
参考書を買う際は、最も自分に合った1冊を厳選しましょう。石川氏によると、本屋でじっくり見比べるべきなのだそう。以下の点に注目しましょう。
- 文章が読みやすいか
- 語彙が難しすぎないか
- レイアウトが見やすいか
- デザインが自分好みか
問題集も、基本は1冊。新しい問題集を買うのは、最初の1冊を完璧にマスターし、解くべき問題がなくなってからにしましょう。
以上が、勉強法の基本です。「勉強力」を高め、学んだ方法を実践すれば、「勉強ができる人」に近づけますよ。
勉強ができる人になる方法3:再現性の高いノートをとる
「勉強力」を高める一環として、「日本一勉強ができる人たち」とも考えられる東大生のノート術をご紹介しましょう。
前出の西岡氏によると、東大生のノートには「再現性」という共通点があるそう。あとからノートを見たとき、学んだ内容を鮮明に思い出せるかどうかです。ノートづくりに丹精を込めても、読み返したときに理解できない書き方では意味がありません。
ノートの再現性を高めるポイントとして、西岡氏は以下の3つを挙げています。
自分の言葉で言い換える
1つめは、学んだ内容を自分の言葉に直してから書くこと。テキストの言葉や先生の話を写すのはNGです。「他人の言葉」をそのまま使うと、自分にとって不慣れな語彙や言い回しが多くなり、ノートを読み返したときに知識を再現しにくくなります。
- この文は、要するにどういう意味?
- 先生が言いたいのは、つまりどういうこと?
と考えて内容をかみ砕き、普段使いの言葉で言い換えましょう。
【他人の言葉】
マーケティングとは、顧客ニーズを的確につかんで製品計画を立て、需要の増加と新たな市場開発を図る企業の諸活動のこと。
【自分の言葉】
マーケティングとは、お客さんのニーズを満たせるような商品のアイデアを考え、たくさんの人に買ってもらえるような作戦を立てる活動のこと。
ロジックを矢印で表現する
キーワードどうしの関係は、「→」の記号で整理しましょう。情報のつながりがわかりやすくなります。キーワードどうしの関係や背景をよく知らない場合、テキストや辞書、インターネットなどで調べましょう。
たとえば、「薩長同盟(1866年)→大政奉還(1867年)→戊辰戦争(1868年)」と書けば、流れがわかりやすくなりますね。用語や年号も覚えやすくなります。
【矢印を使わない書き方】
- セグメンテーション(顧客を分類する)
- ターゲティング(ターゲット顧客を絞り込む)
- ポジショニング(そのターゲット顧客に合わせ、商品を差別化する)
【矢印を使った書き方】
セグメンテーション(顧客を分類する)
→ターゲティング(ターゲット顧客を絞り込む)
→ポジショニング(そのターゲット顧客に合わせ、商品を差別化する)
記憶の「とっかかり」をメモする
記憶を引き出す際の「とっかかり」をノートにメモすると、なお良し。勉強中に「おもしろい!」「すごい!」などと心が動いたら、そのエピソードを余白に書いておきましょう。勉強の内容とは無関係な話でもOKです。
- 先生の雑談
- 試験には出ないけれど、知って驚いた豆知識
- その他、おもしろいと感じたこと
このような「感情の動きをともなう情報」は、あとから思い出しやすいもの。「先生が授業中にズッコケて大笑いしたあのとき、これを教わっていたんだよな」と、エピソードをきっかけに記憶がよみがえるのです。
「勉強ができる人」に近づくため、紹介したノートのとり方・まとめ方を、ぜひ実践してみてくださいね。
勉強ができる人になる方法4:勉強習慣を身につける
「勉強ができる人」になるため、「継続力」を磨きましょう。勉強習慣を三日坊主に終わらせないコツをご紹介します。
トリガー・時刻・場所を決める
習慣化のコツとして、メンタリストDaiGo氏は「トリガー」「時刻」「場所」の3つを決めるようすすめています。
トリガーとは、ある動作を始めるきっかけ。その動作を、いつ・どこでするかも決め、生活リズムを一定にすると、スムーズに動作を始められるのです。
◆トリガー・時刻・場所の例
- コーヒーをいれたら【トリガー】午前7~8時に【時刻】自宅の勉強机で【場所】
→問題集を解く - 通勤電車に乗ったら【トリガー・時刻・場所】
→英単語を覚える - 歯磨きをしたら【トリガー】夜9~10時に【時刻】ベッドで【場所】
→復習をする
学術雑誌『British Journal of Health Psychology』に掲載された2002年の論文でも、場所や日時を具体的に決めるほうが行動を起こしやすいと示されています。実験では、1週間以内に運動するよう被験者に依頼。日時と場所をあらかじめ決めたグループでは、91%もの人が運動できた一方、決めておかなかったグループではわずか30%台だったのです。
「いつ、どこで、どんな流れで始めるのか」を具体的に決めれば、勉強習慣も定着させやすくなるでしょう。
とりあえず5分だけやってみる
気が乗らないときでも、勉強を習慣化するため、「5分間だけ」と思い手をつけてみましょう。いったん始めれば、どんどん集中力が高まり、いつも通り勉強できるはずです。
医学博士の吉田たかよし氏によると、人間の脳には「作業興奮」という性質があるそう。作業することで脳が興奮状態になり、結果として意欲的になれるのです。
面倒だと思いつつも掃除に取りかかったところ、始めてみればあちこちの汚れが気になり、いつの間にか大掃除をしていた……という経験はありませんか? これも作業興奮の一種です。
勉強が面倒なときは、「1問だけ解く」「1ページだけ読む」など、5分程度で完了できそうなノルマを設けてみましょう。手をつけさえすれば、作業興奮が起こり、集中して勉強できますよ。
目標を達成したらオーバーに喜ぶ
やる気を持続させるには、ガッツポーズをとったり「やったー!」と声を出したりして、喜びを大げさに表現するのが効果的です。前出の吉田氏によれば、動きや声で喜びを表現すると、ポジティブな感情が脳に強くインプットされ、飽きにくくなるのだとか。
問題が解けたときや、勉強がひと区切りついたときは、オーバーなアクションをしつつ喜びをかみ締めてみてください。退屈や疲れがまぎれ、勉強を継続しやすくなりますよ。
以上のテクニックで「継続力」を強化し、「勉強ができる人」に近づきましょう。
***
「勉強ができる人」になりたいなら、ご紹介したコツを実践し、「効果的な方法で」「計画的に」「コツコツと」学習を積み重ねていきましょう。
(参考)
杉山奈津子(2016),『偏差値29でも東大に合格できた! 「捨てる」記憶術』, 青春出版社.
リクナビNEXTジャーナル|資格を取る!と決めたら、こう計画せよー「資格の大原」講師が熱弁
澤田誠(2013),『なぜ名前だけがでてこないのか 脳科学者が教える本当に正しい記憶力の鍛え方』, 誠文堂新光社.
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【ライタープロフィール】
佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。