仕事の現場で、不安を感じない日はありません。プロジェクトの進行、上司や顧客からの評価、キャリアの将来――どれもビジネスパーソンにとって避けられない不安要因です。
「不安をなくしたい」と思っても、完全に消し去ることはできません。むしろ、不安から目を背け、回避しようとするほど、不安は強まることが心理学研究で知られています。
重要なのは「不安を消すこと」ではなく、「不安を行動の燃料に変える」ことです。本稿では、最新の心理学知見を背景に、明日から使える5分の「不安の行動化ワーク」を紹介します。
不安の正体――避けるほど強くなる
不安は、危険や不確実性へのアラームです。適度な不安は、脳内物質のノルアドレナリンの分泌を促し、集中力や判断力を高めることが知られています。
しかし、このノルアドレナリンは「行動のためのエネルギー」なので、不安を避けようと何もせずにいるほど悪い方向に影響が生じます。*1
たとえば、
資料作成が不安 → 先延ばしする → 締切直前に不安が爆発する
面談が不安 → 準備を避ける → 自信を失い、不安が増幅する
これは不安から目をそらすこと(回避)で一時的には気が楽になるものの、結果として長期悪化を招いてしまう典型的なパターンです。
心理療法では、回避を断ち切り「小さな行動」に踏み出すことが回復の第一歩とされています。
つまり、不安を抱えたまま動く設計が必要なのです。
「行動しても不安が消えない」理由
「不安を感じたから頑張って動いたのに、結局また不安になる」という声もよく聞きます。これは不安な気分に振り回され、目的に沿った行動をしていないことが原因だと考えられます。
気分による行動:例)不安だから何度もメールを確認してしまう
目的に沿った行動:例)必要な情報を上司に一度で確認する
前者は不安を一時的に和らげますが、本質的な進展はありません。後者こそ不安を建設的に使う行動です。*2
5分でできる「不安の行動化」ワーク
不安を行動に変えるには、漠然とした不安を分解し、1つの具体的行動に落とし込むことが有効です。
以下は、認知行動療法など心理療法のテクニックを応用したもので、日常的な不安への対応でも推奨されている方法。手順は5分もあれば実行できます。
- ステップ1:「すでに確定していること」、事実を書く
例:明日までに提案書を提出する/担当は自分/評価者は課長。 - ステップ2:「おそらくこうだろう」と思えることを書く
例:課長が重視するのは収益性/過去の類似案件ではAパターンが好評/不明点は1つ。 - ステップ3:不可知であり「自分では制御できないこと」を書く
例:市場の急変/上層部の判断/競合の動き。→ ここは「何もしない」と決める。 - ステップ4:目的を一行で書く。不安の裏にある望みを明確にする
例:「提案を通して、次のプロジェクトを任されたい」。 - ステップ5:目的に直結する、5〜15分で完了できる行動を1つ書く
例:「収益性を示すため、前回提案書の利益率部分を転用する」。
ステップ1~3は簡単に箇条書きで、それぞれ3項目程度で良いでしょう。また、ステップ4の「目的」の抽出が難しい場合には、不安に感じることを思うがままに書き出すのも良い手法だとされています。*3

ワークは一度で劇的に効くわけではありません。重要なのは「習慣化」です。週に1回は、ワークのメモを振り返り、「行動できたか」「不安がどう変化したか」を簡単に記録しておきましょう。
また、自分の“白旗サイン”を知っておくことも重要です。不眠や食欲低下など、自己対処の限界を超える状態が続いたら、専門家に相談することも忘れずに。
不安は成長のシグナル

不安は「消すべき敵」ではありません。むしろ、不安はあなたに「まだ成長できる余白がある」と知らせるサインです。回避するか、向き合うかでキャリアの伸びしろは大きく変わります。
5分の不安の行動化ワークで、不安を“行動の燃料”に変えてみてください。その積み重ねが、確実に未来の成果につながっていきます。
*1 ダイヤモンド・オンライン|精神科医が教える「不安がすーっと消える対処法」【書籍オンライン編集部セレクション】
*2 ダイコミュ|森田療法入門,あるがまま,精神交互作用
*3 PHPオンライン|「ホントにこれで大丈夫?」「どうなるか心配」不安と向き合うカギは「見える化」
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。