「バウンダリー」を設定できてますか? 背負い込みないための「境界線」の使い方。

毎日のように恋愛相談をされ内心ウンザリしているビジネスパーソン

「なんで私がそこまで面倒を見なきゃいけないの?」
「断りたいのに断れない」
「相手のことを考えすぎて疲れる」

——こういったモヤモヤは、最近増えているのではないでしょうか。

じつは、これらには共通点があります。それは「バウンダリー(境界線)」が曖昧になっていること。

この心理学用語を正しく理解し、適切な境界線を引くことで、自分も相手も尊重した健全な関係を築けるはずです。

具体的な実践法とともに解説しましょう。

そのモヤモヤ、じつは多くの人が感じている?

SNSで、こんな投稿を見かけたことはありませんか?

「友達の恋愛相談が毎日続いて疲れた」
「親が進路に口出ししすぎて息が詰まる」
「職場の同僚のプライベートな悩みを聞かされる」
「休日なのに仕事の連絡が止まらない」

 

みなさまにも、似たような経験があるかもしれません。その場合、こんなジレンマが生まれてしまうのではないでしょうか。

  • 聞いてあげないと冷たい人だと思われそう……
  • 家族だから、心配なのはわかるけど……
  • 仕事に集中したいが、悩み相談なので断りにくい……
  • 仕事は休みなんだから無視したいが、気になって返信してしまう……

こうやって私たちはいつも――

あらゆるモヤモヤを、たくさん抱え込んでしまうのです。

モヤモヤの正体は「バウンダリー」の問題だった

じつは、そうしたモヤモヤには心理学的な背景があります。それが今回お話しする「バウンダリー(境界線)」という概念です。

心理カウンセラー、精神保健福祉士の西岡惠美子氏によると、心理学でバウンダリーとは「他者と自分を分ける心の境界」のこと。*1

健全なバウンダリーがあることで、私たちは自分のエネルギーを守りながら、相手との対等な関係を築くことができます。

このバウンダリーには以下4つの種類があります。*1

  1. 物理的バウンダリー:身体的なスペースや物を守る境界
  2. 感情的バウンダリー:他者の感情と自分の感情を分ける境界
  3. 知的バウンダリー:自分の考えや価値観を守る境界
  4. 時間的バウンダリー:自分の時間を尊重する境界

西岡氏によれば、バウンダリーが明確だと自己理解が深まり、自分のエネルギーを守りながら、健全な人間関係を築くことが可能だといいます。

逆に、バウンダリーが曖昧になると、疲弊感やイライラ感が増し、自分軸や自分の意見を見失い、結果的に人間関係も悪化してしまうのです。*1

バウンダリーは、「自分を守る城壁」のようなものかもしれません。

自分を守る城壁のような境界線

具体例で「バウンダリー問題」の理解を深めよう

では、実際にバウンダリーが侵害される場面を見てみましょう。

物理的侵害の例

  • 無断で部屋に入る
  • 許可なく私物を使う
  • 肩を組むなど勝手に身体に触れる
  • パーソナルスペース(言わば「心の安全地帯」)に入ってくる

※心理学辞典(1999)によれば、パーソナルスペースとは、「個人を取り巻く目に見えない、持ち運び可能な境界領域で、その中に他者が入ると心的不快を生じされる空間」(原文ママ)のこと。*2

感情的侵害の例

相手の感情を自分の責任だと感じさせる言動。

  • 「あなたが元気ないと、私も落ちこんじゃうじゃない……!」
  • 「なんで怒ってるの? 私のせい?」

知的侵害の例

  • 押し付け:「普通は○○するもの」
  • 価値観の否定:「そんな考え方は間違ってる」

時間的侵害の例

  • 深夜や休日の非緊急連絡
  • 相手の都合を無視した要求⇒「いますぐ仕上げて」

これらの例を見ると、「あ、あのときのモヤモヤもこれだったのか」と気づくことがあるのではないでしょうか。

深夜に仕事の連絡で起こされたビジネスパーソン

境界線が曖昧になってしまう理由

では、なぜバウンダリーの侵害が起こってしまうのでしょう?

以下にそれぞれの心理と背景を挙げました。

侵害する側の心理

- 無自覚なケース:悪意はないが境界線への意識が低い。「親しい仲だから大丈夫」と思い込んでいる。
- 依存的なケース:相手に過度に依存している。自分の感情や問題を相手に委ねてしまう。
- 支配的なケース:相手をコントロールしたい。無意識に相手を思い通りにしようとする。

侵害される側の心理

- 良い人でいたい、という思い:断ることで嫌われることを恐れる。
- 罪悪感や義務感の強さ:「助けなければいけない」という思い込み。
- 断ることへの恐怖:関係が壊れることへの不安。

文化的背景

日本の「空気を読む」文化や「和を重んじる」価値観も、時としてバウンダリーを曖昧にする要因となりうる。

健全な境界線を築く実践的ステップ

では、具体的にどうやってバウンダリーを設定していけばよいのでしょうか。

以下に、健全な境界線を築くための、実践的ステップを示しました。

 

STEP1:自分の境界線を明確にする

まずは、自分にとって何が大切で何が嫌なのかを整理。

≪例≫

  • 価値観の棚卸し:たとえば「休日は家族との時間を大切にしたい」「深夜の連絡は控えてほしい」など。
  • エネルギーレベルの把握:たとえば「相談に乗れるのは週に1回まで」「1時間が限度」など。
  • 具体的な線引き:時間、場所、内容を具体化する。

STEP2:段階的な対応法

  • 第1段階:やんわり伝える(以下例)
    「いまは立て込んでいるので、長時間の恋愛相談はむずかしいかも。ごめんね」
    「休日は〇〇で忙しいので返信が難しいかもしれません。大変恐縮ですが、緊急時のご連絡のみいただけると助かります」

  • 第2段階(必要に応じて):はっきり伝える(以下例)
    「ごめん、悪いけどいま忙しいので、ちょっとその余裕がない」
    「大変申し訳ありませんが、私はいまその対応ができない状況です」
    「恐れ入りますが、休日の連絡は控えてもらえますでしょうか?」

  • 第3段階(状況を見極めて):境界線を宣言する(以下例)

    「ごめんね、最近ちょっといっぱいいっぱいで……。お話を聞くのがしんどいときもあって。しばらく、やり取りをお休みさせてね

    「誠に恐縮ですが、これ以上、休日のご連絡についてはお応えいたしかねます。何卒ご了承いただけますようお願い申し上げます」


    ▶ ▶ ▶ 臨床心理学者でペンシルベニア州立大学・生物行動健康学助教授の Jennifer L Keluskar 氏は、必要であれば、相手の行動が境界の侵害であることを明言するのも効果的だと伝えています。

    ただし、相手の状況により、第3段階は避けたほうがいい場合もあります。いったん周囲の方や専門家に相談してから行ないましょう。

注意すべきポイント:感情と行動を分けて冷静になる

可能なかぎり、角が立たない言い方をするのが大前提ですが――相手が気分を害してしまう場合もあります。

しかし、それはあくまでも相手の感情です。「傷つけたくない」気持ちと、「境界線を守る行動」は別物と考えましょう。長期的な関係改善のための一時的な摩擦は、時として必要なのです。

ただし、必要に応じて、専門家の助けを求めることも大切です。この点も、ぜひ心に留めておいてください。

なお、前出の Keluskar 氏は、境界線を無視してくる人に対し、冷静でいるためのヒントを示しています。こちらもご紹介しておきましょう。*3

 
 
 
  • 強引な人を「スキル不足」としてとらえ直すことで、感情的に巻き込まれにくくなる。

  • 相手がとる態度の背景に「偏見」がある場合は、自分の怒りを正当化しながら、でも冷静に、境界線のなかで自分の立場を貫く。

  • 信頼できる同僚や仲間に相談しながら、実際のリスクと自分の認識との差異を確認してみる。完璧な境界線を求めすぎず、自分が感じるリスクを再評価する。

つまり、相手の強引さに圧倒されそうになったときこそ、感情的に反応しないこと。自分の境界線を守るために、まずは自分の思考を整理することも大切です。

***
バウンダリーは「相手を拒絶すること」と誤解されがちですが、実際はお互いを尊重する健全な関係構築の基盤です。「日本人には合わない」という声もありますが、真の「和」は境界線を尊重することから生まれるのではないでしょうか。

長期的には依存関係ではなく、対等な関係を築くことで、より健全な人間関係が可能になるはずです。

小さなところから始めて徐々に慣れていけば、「なんで私が?」のモヤモヤから確実に解放されていきます。まずは今日、ひとつの小さな境界線を意識することから始めてみませんか?

(参考)

*1: マイベストプロ千葉【朝日新聞】|西岡惠美子|心を守るバウンダリーの作り方:他人の感情に支配されないために
*2: Direct Communication|パーソナルスペース意味とは
*3: Psychology Today|How to Keep Your Cool Around Pushy People

【ライタープロフィール】
STUDY HACKER 編集部

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