ビジネスパーソンとして成長するために欠かせないもののひとつが読書です。ただ、「あれも読まなければ」「これは上司にすすめられた」というように次々に読むべき本がたまり、いわゆる「積読(つんどく)」が発生するのもよく見られるケースです。仕事ができる優秀な人たちは積読問題をどのように解決しているのでしょうか。延べ17万3,000人のビジネスパーソンの行動分析を行なってきた、株式会社クロスリバー代表取締役の越川慎司さんに聞きました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
【プロフィール】
越川慎司(こしかわ・しんじ)
1971年9月21日、山梨県生まれ。株式会社クロスリバー代表取締役。国内外の通信会社勤務を経て、2005年にマイクロソフト米国本社に入社。のちに日本マイクロソフト業務執行役員としてPowerPoint、Excel、Microsoft Teamsなどの事業責任者を歴任する。2017年に働き方改革を支援する株式会社クロスリバーを設立。世界各地に分散したメンバーが週休3日・リモートワーク・複業(専業禁止)を実践しながら、800社以上の業務改善、会議改革、事業開発を支援。京都大学など教育機関で講師を務めるほか、企業や団体のアドバイザーも務める。オンライン講演・講座は年間300件以上、受講者満足度は平均96%。『世界の一流は「休日」に何をしているのか』、『仕事は初速が9割』(いずれもクロスメディア・パブリッシング)など、著書累計31冊。「トップ5%社員はどのように大量の本を読み、どう成果に繋げているのか?」を累計3.4万時間かけて調査・解析。その調査過程で著者自身も読書嫌いから、年間300冊以上の読書を習慣にする変化を遂げている。
優秀な人は、本を買ったらすぐに読む
社会人の場合、「忙しく本を読めない」ということだけでなく、「積読」も読書に関するよくある悩みです。そして、この悩みは、各企業の人事評価でトップ5%に入るような優秀なビジネスパーソンにも共通するものです。
実際、私の会社で各企業のトップ5%社員962人に調査をしたところ、その98%が積読を経験していました。ただ、積読問題をそのまま放置せずに解決しているところに、優秀さが表れています。
トップ5%社員は、仕事かそうでないかを問わず、「これをやればどうなるだろう?」という行動実験をすることを好み、得意としています。そのため、積読に対しても「どうすれば解決できるだろう?」とさまざまな行動実験を行なっているのです。
そうしてトップ5%社員が見いだした解決策のひとつが、「本を買ったらすぐに読む」というものでした。本に対する「読みたい」という意欲や興奮度は、買った瞬間が最も高まっています。「これが欲しい!」と思って買うのですから、当然ですよね。でも、そこから時間を空けてしまうと、意欲や興奮度が徐々に低下して積読を招いてしまうのです。だからこそ、トップ5%社員は、本を買ったらなるべく早く読むようにしています。
また、本の置き方にも工夫が見られました。優秀な人は、背表紙が見えるように本を置いているのです。なぜなら、いわゆる「小口」だけが見える状態では、どのような本があるのかを忘れてしまい、読む意欲が低下するからです。背表紙が見えるようにしておくことで、「そうだ、次はこれを読むんだった」というように確認し、放置してしまうことを防いでいるのです。
トップ5%社員は、意図的にすべてを読みきらない
さらに、積読問題の解決のためには、「読み方」も大切なポイントです。みなさんのなかには、「一度読み始めたら最後まできちんと読みきらなければならない」と考えている人がいるはずです。これは一見、正しいことに思えますが、残念ながら、その思考が積読問題を生じさせている可能性があります。
じつは、トップ5%社員の68%は、手に取った本を最後まで読みきっていません。自分にとって必要で興味がある部分だけを選んで読む、「選択的読書(選読)」をしているのです。
そうする理由は大きくふたつあり、ひとつは、まさに積読問題の解消のためです。「一度読み始めたら最後まできちんと読みきらなければならない」と考えていると、一部だけを読むことは失敗体験になってしまいます。そうして「本を読みきれない私は駄目だ」と自己否定し、「だったら最初から読まない」という選択をするようになってしまうのです。
ですから、選読をすることで「とりあえず『あとがき』だけは読んだ」「この一項目はきちんと読めた」といった成功体験を積み上げると同時に、「自分にはできる!」という自己効力感を高め、習慣的に読書を継続しているのです。
選読をするもうひとつの理由は、効率の観点からです。トップ5%社員は年間で平均43.2冊の本を読んでいます。その習慣を続けていると、「これについてはほかの本にも書かれていた」「すでに知っている」というように、内容が重複することもどうしても増えてきます。同じ内容を何度も読んでも意味はありませんから、優秀な人はそういった内容は意図的にスキップしています。
まず「あとがき」から読み、結論を先に知る
選読の具体的な手法で言うと、これは私自身も実践していることですが、まず「あとがき(おわりに)」から読むのも有効です。
というのも、私自身、何冊も本を出していますからよくわかるのですが、あとがきには、著者が「一番読者に伝えたいこと」を書くことが多いからです。ビジネス書の類であれば、「読者に実践してほしいアクション」です。
つまり、あとがきを読んで結論を先に知ってしまうわけです。それだけでも新たな知見を得ることになりますし、ほかの部分を読むにも結論を先に知っているからこそ、「こういう論理であの結論に至るのだな」とインプットの質が高まることにもつながっていきます。
そもそも、選読と同じようなことは、ほかの場面では多くの人がやっているはずです。映画を観始めたのに、最初の10分を観ただけで「これはつまらない」と観るのをやめた経験はありませんか? 有料コンテンツをレンタルしたり買ったりしたのならともかく、定額サービスの場合ならそうした経験は多くの人にあるでしょう。
読書も同じです。小説などエンタメ作品はもちろん、仕事に関する本だって「全部読みきらなければならない」というルールは存在しません。仕事に関わる読書の場合、インプットしたことをなんらかのかたちで仕事に活かすという目的が必ず存在します。その目的を達成できない本であれば読む必要などありませんし、目的達成につながる部分だけを読んでもいいのです。
【越川慎司さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。