「友だちみたいな上司」に部下はついてこない──成果につながる5つのマネジメントルール

成果につながる5つのマネジメントルールについてお話しくださる井上大輔さん

他者と多く関わるビジネスシーンにおいては、「人間関係こそが最重要」とも言われます。なかでも、同じチームでともに働く上司と部下の関係性構築は重要なものでしょう。ただし、書籍『世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?』(クロスメディア・パブリッシング)の著者である井上大輔さんは、「上司と部下が友だちになればいいわけではない」と警鐘を鳴らします。成果につなげるための関係づくりのポイント、また、部下に仕事を「任せる」コツは「ルールづくり」にあるとも語ります。

構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人(インタビューカットのみ)

【プロフィール】
井上大輔(いのうえ・だいすけ)
1978年2月14日生まれ、神奈川県出身。OFFICE pianonoki代表。ニュージーランド航空、ユニリーバ、アウディでマネジャーを歴任。ヤフー株式会社マーケティングソリューションズ統括本部マーケティング本部長、ソフトバンク株式会社コンシューマ事業統括コミュニケーション本部メディア統括部長などを経て現職。個人事業主としてマーケティングやマネジメントをテーマとした執筆・講演・企業研修などを行なうほか、上場企業の執行役員としてマネジメントの実務にも現役で携わる。WASEDA NEO「早稲田マーケティングカレッジ」講師。著書に『幸せな仕事はどこにある』、『マーケターのように生きろ』(いずれも東洋経済新報社)などがある。

友だちになると、「理想的な上司と部下の関係」から遠ざかる

私が提唱しているマネジメント術においては、最重要であり大前提になるものとして、部下との「関係づくり」を挙げています。なぜなら、部下の問題を指摘するにしても部下を勇気づけるにしても、しっかりした関係性なくして上司の言葉が部下に響くことはないからです(『“空気を読む”はもう通用しない。多様化時代の「新マネジメント原則」5選』参照)。

しかし、だからといって「部下と友だちになればいい」というわけではありません。「友だちと起業すると失敗する」という話を見聞きしたことがある人も多いはずです。私自身は起業家ではないので断言こそできませんが、友だちになってしまうと、「理想的な上司と部下の関係」から遠ざかることになるからではないでしょうか。

会社組織において、上司には意思決定をする役割があり、部下にはその意思決定されたことを実行する役割が存在します。このような役割は、友だち関係には存在しません。このような役割がないことこそが、友だち関係の本質と言えるのかもしれません。

たとえば、チームAは「上司の指示を部下ふたりが速やかに実行する」という上司部下の関係であるに対して、チームBは「ただの友だち3人組」だったとします。両チームが同じ資材と設計図を使ってログハウスを建てる競争をしたら、スキルや経験に差がなければ、勝つのは十中八九チームAでしょう。

上司と部下の関係と言っても、一方通行の命令関係である必要はありません。部下が忌憚なく上司に意見する。上司はオープンにそんな意見に耳を傾け、それを考慮に入れたうえで、最終的には自分で決断する。部下はその決断を素早く実行に移す。失敗したらその責任は、決断した上司がとる。これこそが「理想的な」上司と部下の関係ではないでしょうか。

友だちになると、「理想的な上司と部下の関係」から遠ざかると語る井上大輔さん

マネジャーは、組織のなかで「規範」をつくることができる

それでは、そんな「上司と部下の理想の関係」を築くにはどうすればいいでしょうか? 上司と部下の関係をかたちづくる要素はいくつかありますが、ここでは「ルールに基づく関係」とそのつくり方をご紹介します。

どんな会社にも「就業規則」があるでしょう。これはルール(規範)の典型例です。しかしここでは、ルール(規範)を、「組織のなかで慣行的に守られている決まり事のすべて」と定義してみましょう。この意味でのルールには、法的な意味や効力をもたないものも、なんなら明文化されていないものも含まれます。

マネジャーは就業規則を新たにつくることはできませんが、この意味でのルールであれば自らデザインし、定着を図ることができるのです。これをうまく活用すれば、部下とのあいだで「ルールに基づく関係」を築くことができるのです。

たとえばマネジャーは、「会議をやる際には事前に必ずアジェンダを用意する」「会議が終わったら必ず議事録を共有する」などといったルールをつくることができます。それらをただ宣言しただけでは「慣行的に守られている」状態にはなりませんから、「繰り返しメンバーに伝える」「上司自身が率先してやってみせる」「メンバーの評価に組み込む」などといった手段を駆使して、マネジャーはそれを定着させなくてはなりません。

一方で、ひとたびそれがルールとして定着すれば、「指示をするマネジャーとそれを受けてアクションする部下」という関係性が補強されます。こうして「上司と部下の関係」が築かれていくわけです。

ルールを伝えているイメージ

思いつきではなくルールによって部下の状況をモニターする

こうした過程を経て関係づくりができれば、今度は部下に仕事を「任せる」ことが上司のやるべきことです。しかし、任せるとは言っても、ただ部下に丸投げすればいいわけではありません。成果につなげるためには、次のような5つのステップを踏んで任せるのが肝要です。

【成果につながる「任せる」ステップ】
  1. 評価する
  2. アサインする
  3. モニターする
  4. 調整する
  5. 介入する

それぞれがどういうものかは前回の記事(『“空気を読む”はもう通用しない。多様化時代の「新マネジメント原則」5選』参照)で述べましたので言及を避けつつ、ここではなかでも特に重要となる「3. モニターする」の具体的な進め方について紹介させていただきます。

モニターは「任せる」の最重要アクションですが、幸いなことに難しくはありません。ポイントは、ここも「ルール化」にあります。ルールがないばかりに、上司がふと思い出したようなタイミングで、「そういえば、あの仕事どうなってる?」「いまどこまでできているか教えて」と言ったら、部下からすると「心配されているのかな」「信頼されていない」と不安や不快感を覚えるものです。そんな状況下においては、仕事に対するモチベーションもぐっと低下してしまいかねません。

そこで、「定例会議では全員がそれぞれの仕事の進捗を報告する」「金曜日の○時までに週報を提出する」というような明確なルールをつくっておくのです。部下からすればそれは全員に共通した決まりごとであるわけですから、先の例のような不安や不快感を覚えることもありませんし、上司としても定期的にオートマチックで部下の状況をモニターできるわけです。

成果につながる5つのマネジメントルールについてお話しくださった井上大輔さん

【井上大輔さん ほかのインタビュー記事はこちら】
“空気を読む”はもう通用しない。多様化時代の「新マネジメント原則」5選
実力はあるのに伸びない部下──カギは“自己効力感”という心理だった

世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?

世界のマネジャーは、成果を出すために何をしているのか?

  • 作者:井上大輔
  • クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
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【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)

1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。

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