「でも、それって本当に私のせいですか?」
「そう言うけど、あなたも前に同じミスをしてましたよね」
こんなふうに、つい言い訳したり反論したりした経験はありませんか?
間違いを指摘されたときや、自分が否定されたように感じたときに、思わず自己弁護してしまう――。
それは誰にでも起こりうる自然な反応であり、「防衛的態度」と呼ばれます。*1
とはいえ、防衛的態度をとり続けていると、まわりとの信頼関係が築きにくくなってしまうのも事実。
「言い訳ばかりしているように見られていないか?」
「なんだかまわりの人との関係がギクシャクしてしまう……」
こんなふうに感じている方は、防衛的態度との付き合い方を見直すタイミングかもしれません。
この記事では、「つい防衛的態度をとってしまう自分」をやさしく見つめ直し、よりよい人間関係を築くためにできる対策をご紹介します。
防衛的態度ばかりでは信頼を得られない
どんなに賢くて仕事ができる人でも、いつも言い訳ばかりだったり、反論ばかりしていては、周囲との信頼関係は築きにくくなってしまいます。
経営・営業コンサルティングを行なう福島靖氏は、「小手先の会話術で信頼を得るのは難し」く、「『態度』で信頼を得る」ことが重要だと話します。*2
つまり、信頼されるには「普段どんな態度をとっているか」がとても大切なのです。
以下に、防衛的な態度の例と、信頼を得られる態度の違いを挙げてみましょう。
- 言い訳が多い(「忙しかったから仕方ない」など)
- ミスを他人のせいにする(「〇〇さんもやっていた」とごまかす)
- 相手に責任転嫁する(「そんな言い方しなくてもいいじゃないか!」などと反論)
- 自分の意見ばかり押し通そうとする
- 自分のミスを認める
- 約束や締切を守る(守れない場合は早めに伝えて謝罪する)
- 相手の意見は最後まで聞く
- 注意や指摘を素直に受け止める
防衛的態度をとってしまうと、自分を守っているつもりでも、結果的に人間関係に壁を作ってしまうことになります。
それではなぜ、私たちは防衛的態度をとってしまうのでしょうか?
背景には「低い自己肯定感」
私たちは自分の価値が脅かされたときに、防衛的態度を無意識にとってしまいます。
この防衛的態度をとってしまう背景のひとつに、自己肯定感の低さが挙げられます。
心理学者のシュテファニー・シュタール氏が言うには、「自己肯定感の低い人は、自分が傷つかないために、さまざまな自己防衛策を講じ」るのだそう。*3
たとえば、
- 指摘されると「それは私のせいじゃない」と言い返してしまう
- 問題の本質より、細かい点にこだわって反論してしまう
こういった言動の背景には、「自分を否定されたくない」「これ以上傷つきたくない」という心の声が隠れているのです。
防衛的態度をとらない方法
では、防衛的態度を手放し、より建設的なコミュニケーションをするにはどうすればいいのでしょうか。
ここからは、防衛的態度をとらないようにする具体的な方法を2つお伝えします。
1. 感情をラベリングする
まず必要なのは、自分の感情の状態に気づくこと。
「今、なんだかイライラしているな」
「この言い方にモヤモヤしたな」
こうした気づきを得るためには、「感情のラベリング」が役立ちます。
アメリカの物理学者レナード・ムロディナウ氏は「自分の感情について話したり書いたりすることを『感情ラベリング』と呼ぶ」とし、「好ましくないネガティブな情動を(中略)鎮めるのに役立つ」と述べています。*4
これは学術誌『ネイチャー』に掲載された科学者グループの研究の結果からも明らかになっています。
研究の内容は下記のとおり。
- 「悲しい」など感情を言語化したツイートを投稿した10万9943人のユーザーを洗い出す
- 感情を言語化したツイートの前後6時間分の全ツイートを取得して分析する
その結果、感情を言語化したツイートをする前の30分から1時間でネガティブな気持ちの度合いが急激に高まったのに対し、ツイート直後にはネガティブな気持ちが鎮まる傾向を確認できました。*4を参考にまとめた
この実験から、感情を言語化するとネガティブな気持ちがすぐに落ち着くことがわかったのです。
また、自分の感情を言語化する過程は、自分を客観的にとらえることにもつながります。
その結果、防衛的な態度をとる前に、一歩引いて冷静に対応することができるのです。
2. トリガーを知る
また、防衛的な態度をとってしまうトリガーを把握しておくことも必要です。
「自分はどんなときに防衛的な態度をとってしまうか?」
この問いに向き合ってみましょう。
たとえば、このような場面がトリガーとなりえます。
- 他人と比較されたとき
- 話を遮られたとき
- ミスを指摘されたとき
「このような場面で防衛的態度をとりやすい」という自分のトリガーがわかっていれば、防衛的な態度をとらないための対処ができます。
また、同時に「相手が防衛的になるトリガー」にも目を向けることで、コミュニケーションをよりスムーズにする工夫もできます。
- Aさんは時間に追われると、余裕をなくすようだ
- Bさんは、自分の意見を否定されると過剰に反応しやすい
このように、相手が防衛的になるきっかけにも目を向ければ、事前に対策をとることができるのです。
相手のトリガーに気づいたら、休憩をとったり、一旦その場から離れたりすることで不要な対立を避けることが可能です。
こうした工夫も、職場の人間関係をより円滑にし、信頼関係を築く大きな一歩となるでしょう。
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防衛的態度は、誰にでも自然に生まれる反応です。しかし、信頼を得るにはこうした態度は考えもの。感情のラベリングやトリガーを知るといった対策をとることで、周囲との関係性にも変化が現れてくるはずです。小さな意識の積み重ねが、より良い信頼関係を築く鍵となるでしょう。
※引用の太字は編集部が施した
*1 Psychology Today|Defensiveness Takes Its Toll on Relationships. How to Stop
*2 ダイヤモンド・オンライン|「有名企業に勤めていれば信頼される」と思っている「痛い人」が気づいていない、本当に信頼される人の考え方
*3 東洋経済オンライン|「自己肯定感が低い人」ほど苦手な人が多い理由
*4 東洋経済オンライン|怒りを鎮める「感情ラベリング」のものすごい効果
澤田みのり
大学では数学を専攻。卒業後はSEとしてIT企業に勤務した。仕事のパフォーマンスアップに不可欠な身体の整え方に関心が高く、働きながらピラティスの国際資格と国際中医師の資格を取得。日々勉強を継続しており、勉強効率を上げるため、脳科学や記憶術についても積極的に学習中。