周囲の協力が得られず、孤軍奮闘していませんか? プロジェクトの成功は、チームの力にかかっているのです。 しかし、部下は指示待ち状態、同僚は非協力的……。 そんな状況に悩む方も多いことでしょう。
実は、周囲を動かす「巻き込み力」には秘訣があるのです。 本記事では、あなたのリーダーシップを変える3つの方法をご紹介いたします。 これらを実践すれば、チームの潜在能力を引き出し、大きな成果を生み出せるはずです。
さあ、あなたも「人を動かすプロ」への第一歩を踏み出してみませんか?
1. 「相手への理解度」が違う
人に何かを伝えるとき、あなたはどれだけ相手のことを考えていますか?
周囲を動かせない人は、自分の都合だけを考え、相手のことをあまり考えていない可能性があります。一方、周囲を動かせる人は、相手についてしっかり理解したうえで、伝え方を工夫しているのです。
グロービス経営大学院教授の村尾佳子氏は、次のように述べています。「成果を出すビジネスパーソンの特徴のひとつとして、『普段から仕事で関わる人たちがどのような人なのかに興味関心を寄せている=人への関心が強い』という特性」があるそうです。(*1)
確かに、日頃から相手に関心をもっていれば、「この上司にはこういう個性がある」などの情報を得ることができますよね。例えば、スピードを重視する上司と、エビデンスを重視し納得してから進める上司では、異なるアプローチが効果的です。
相手を巻き込むには、その相手がグッとくる伝え方をすることがコツなのです。では、相手に関心をもつ際、特にどのような点に注目すればよいのでしょうか。
村尾氏によると、伝える相手を理解するうえで必要なのは以下の2点です。(*1)
- 相手の「特徴」「動機」を理解する
- 相手の社会的な立場について理解する
まずひとつめの「相手の『特徴』『動機』を理解する」について詳しく見ていきましょう。
村尾氏は次のように説明しています。「相手の能力、スピード重視か慎重派か、締切厳守派か締切破り常習犯か、といった仕事のスタイル、性格、仕事への姿勢といった『特徴』と、どのような『動機』で動くタイプの人なのかという2つの点について知ることが重要」だと指摘しています。(*1)
この考え方を実践に移すと、たとえばこんな具合です。「○○さんは、急な差し込みが苦手」といった周囲の人の特徴を把握しておけば、適切な対応ができるようになります。具体的には、「○○さんには普段より余裕を持って依頼しよう。変更の可能性も事前に伝えておこう」といった具合に、その人のパフォーマンスを最大限引き出せる伝え方ができるようになります。
また、動機の理解も重要です。「○○さんは成長につながると感じられれば積極的に動く人だ」と把握できていれば、「この仕事はあなたの成長に繋がりますよ」と強調することで、相手のやる気を引き出せるでしょう。
このように、相手の個性に合わせて伝え方を工夫するだけで、周囲の人々がより協力的に動いてくれるようになるのです。
ふたつめの、「相手の社会的な立場について理解する」についてです。
同氏によると、「まずは相手のポジションや所属する部門内での立ち位置、周囲からの信頼度、影響力などを、冷静に分析し」、「その上で今回、伝えようとする内容に対して、基本的なスタンスがポジティブなのかネガティブなのかについて、考えを巡らせる」ことがポイントなのだそう。(*1)
この考え方を実践するケースを見てみましょう。例えば、普段別部署で働いているマネージャーの知見を借りたくて、どうしても今回のプロジェクトに参加してほしい、という場合を考えてみます。
そのマネージャーは本来参加する義務はなく、むしろ仕事が増えるというデメリットがあります。さらに、定時退社を徹底している人である……とすると、プロジェクトに参加してほしいと伝えるのは、相手にネガティブに受け取られる可能性が高いですよね。
このような状況では、次のような対応が効果的かもしれません:
- 自分の上司に相談してあいだに入ってもらう
- 参加してもらうかわりに、自分たちのチームが相手に提供できることを示す
このように、相手の立場に立った伝え方をすることで協力を仰ぎやすくなるのです。
2.「相手に重要感を感じさせるところ」が違う
周囲を動かせない人のチームでは、指示待ちのメンバーが多く見られます。一方、周囲を動かせる人のチームでは、メンバーが自ら考え、主体的に動いています。この違いはどこから生まれるのでしょうか。
答えは、リーダーの姿勢にあります。周囲を動かせる人は、相手に「あなたは重要な人ですよ」というメッセージを常に発信しています。コミュニケーション総合研究所代表理事の松橋良紀氏は、人が頑張れる原動力として"重要感"を挙げています。(*2)
重要感とは、「誰かに認められている」「必要とされている」という感覚です。待遇が良くても、その人がいてもいなくても変わらないと扱われれば、誰もが意欲を失います。逆に「ここにはあなたが必要だ」と伝え続けることで、相手は自ら動き出すのです。
では、具体的にどうすれば相手に重要感を感じてもらえるでしょうか。松橋氏は「相手のいいところを見つけてほめる」ことを推奨しています。(*2)
例えば、チームメンバーの仕事をこのように具体的に褒めてみましょう。 「○○さんの仕事は丁寧でミスが少ないから、スムーズに進行できて本当に助かっています。ありがとう」 「○○さんのアイデアは切り口が新鮮で、会議での意見が本当に楽しみです」
このように相手の仕事を具体的に認めることで、「自分はこのチームに必要な存在なんだ」という実感を持ってもらえます。その結果、「もっとこのチームに貢献したい!」という自発的な行動につながるのです。
3. 「仲間をひとりぼっちにしないところ」が違う
チームには様々な個性を持つメンバーがいます。リーダーの目から見て「優秀だ」と感じる人もいれば、あまり意見を出さず、存在感の薄いメンバーもいるでしょう。
この多様性に対する対応が、周囲を動かせる人とそうでない人の大きな違いとなります。
周囲を動かせない人は、自分にとって話しやすい人や、戦力になると感じる人とばかりコミュニケーションをとってしまいがちです。これでは、チームの一部のメンバーとしか関わりを持てず、チーム全体の力を引き出すことはできません。
対照的に、周囲を動かせる人は、どんなチームメンバーも孤立させないように、徹底して気を配っているのです。彼らは、全てのメンバーがチームに貢献できる可能性を信じ、それぞれの強みを引き出そうと努力します。
この点について、人財育成JAPAN代表取締役の永松茂久氏は、興味深い見解を示しています。
(周囲を動かせる人は)自分から話せない人に対しても、「君はどう?」とさりげなく話を振るのです。
もし、それで満足な答えが返ってこなかったとしても、そこをしっかりとフォローしながら、いいタイミングで声かけをします。
このアクションは引っ込み思案な人にとっては、「自分は蚊帳の外じゃないんだ。ちゃんと見てくれているんだ」と想像以上に大きく自己重要感を高めてくれます。(*3)
チームの中には、なかなか議論に加わらないメンバーがいることがあります。しかし、その態度は必ずしも無関心さの表れではありません。むしろ、適切な参加の仕方がわからずに躊躇している可能性があるのです。
周囲を動かせる人は、このような状況を見逃しません。彼らは積極的に声をかけ、孤立感を感じさせない工夫をしているのです。具体的には:
- 会議中に「○○さん、この点についてどう思いますか?」と直接意見を求める
- 日常的に雑談を交えながら、そのメンバーの調子や考えを聞く
特に会議の場面では、声をかけた後のフォローが重要です。緊張のあまり要領を得ない発言をしてしまったり、時には辛辣な意見が出たりすることもあるでしょう。そんなときこそリーダーの真価が問われます。
「その視点は私たちにとって新鮮で価値があります。ありがとうございます」
このように、どんな意見でも尊重し、チームに貢献していると伝えることが大切です。これにより、そのメンバーは自分の意見が重要だと感じ、次第により積極的に参加するようになるでしょう。
このアプローチは、単に全員の意見を聞くだけでなく、チーム全体の創造性と生産性を高めることにつながります。多様な視点が共有されることで、より良い解決策が生まれる可能性が高まるのです。
効果的なチームリーダーシップについて、ファシリテーション塾塾長の中島崇学氏は興味深い視点を提供しています。
「ファシリテーターはWeメッセージを使って、『いま私たちはこういうゴールを目指しています』『そのために多様な意見が出ているのです』と、参加者は敵どうしではなく『同じ船に乗っている仲間である』というのを参加者に意識づけしなければなりません。」(*4)
ここで言う「Weメッセージ」とは、「私たち」を主語にして話すことを指します。Weメッセージを使うことで、「私」を主語にするIメッセージよりも、その場にいる人たちに強い仲間意識を感じさせることができます。
この手法は特に、チーム内の緊張を和らげる際に効果的です。例えば、誰かの発言で場の空気が重くなってしまった場合、次のようなアプローチが有効です:
- 「私たちのチームは、○○さんが指摘してくれたこの部分のメリットを活かせるはずです」
- 「○○さんの意見のおかげで、私たちの企画をより強固なものにできそうです。ありがとうございます」
このように、個人の貢献をチーム全体の成果に結びつけて表現することで、発言者は自分の意見が価値あるものとして受け入れられたと感じ、同時に他のメンバーも含めた「私たち」という意識が強化されます。
結果として、「このチームなら安心して意見を言える」という心理的安全性が生まれ、より活発で建設的な議論が可能になるのです。
このアプローチは、単なるコミュニケーション技術以上の意味を持ちます。それは、多様性を尊重し、全員の貢献を認め合う文化を築くための重要な一歩なのです。
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ビジネスにおいて、個人の力には限界があります。しかし、周囲を巻き込んで協力を得ることができれば、その限界を超えることができます。チームの力を結集させることで、一人では実現できないような大きな成果を生み出せる可能性があるのです。この記事で紹介した「人を動かす」スキルを実践し、大きな成果につなげてみましょう。
※引用の丸カッコ内は筆者が補った
*1 東洋経済オンライン|人を動かす「伝え方」には、3つの鉄則があった
*2 リクナビNEXTジャーナル|「人を動かす」のが苦手な人こそ試すべき“特効薬”とは?
*3 東洋経済オンライン|部下に好かれない上司は相手を巻き込む力が弱い
*4 STUDY HACKER|参加者が「出てよかった」と感じる会議で、ファシリテーターが大事にしている3つのこと
柴田香織
大学では心理学を専攻。常に独学で新しいことの学習にチャレンジしており、現在はIllustratorや中国語を勉強中。効率的な勉強法やノート術を日々実践しており、実際に高校3年分の日本史・世界史・地理の学び直しを1年間で完了した。自分で試して検証する実践報告記事が得意。