勉強熱心を自認し読書量も多いのに、どうにも「身になった」実感がない――。そんな人は、「読書法」を見直してみてはどうでしょうか。
『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)は、発売から3カ月あまりで発行部数12万を越えた話題のベストセラー。その著者・西岡壱誠(にしおか・いっせい)さんは、読書法を一変させることで「考える力」を劇的に向上させ、見事に東大合格を果たした現役東大生です。ご本人にその読書法の真髄を語ってもらいました。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹(ESS) 写真/玉井美世子
漫然と内容を受け入れず「能動的に読む」
高校3年のとき、僕の偏差値は35でした。そこから東大を目指したわけですが、当然ながらあえなく失敗……。そして、2浪が決まったときにようやく気づいたのです。東大は「知識の量」を増やすだけでは合格できない、「知識の運用能力」、つまり「自分で考える力」を重視する大学なのだと。
東大の入試問題は他の大学のそれとはちょっとちがいます。たとえば、「ある場所で観光業をするならどんなものができると考えられるか、60字以内で答えなさい」とか、「『人の痛みはわからない』という言葉に対してどう思うか、英語で答えなさい」とか……。教科書に書かれていることを暗記しただけでは答えられないものが本当に多いのです。そういう問題に対応するには、国語以外の科目でも読書が必要だと痛感しました。
僕がまず変えたのは、教科書や参考書の読み方でした。どう変えたかというと、「能動的に読む」というものです。読書する際、本に書いていることだからと「へえ、そうなんだ」とそのまま受け入れてしまいがちですよね。でも、それでは「知識を活用する力」は育ちません。「これってどういうこと?」「これって本当かな?」と自分の頭で考え、さらにアウトプットするところまでやらないと、知識を活用するということはなかなかできるようにならないものなのです。
能動的な読書をするうち、本を深く読み込むこと、得た知識を活用することができるようになった僕は、ついに東大に合格しました。ただ、驚いたのがその後。入学して出会った東大生たちは、僕が試行錯誤してようやくたどり着いた読書法を誰もが実践していたのです。ちゃんと勉強しようと思えば、行き着くところは同じなのかもしれません。
東大生の多くは、ものごとの本質をさっと捉えたり、論理展開がクリアだったり、知識を使いこなせたり、複雑なことをひと言で説明する能力に長けています。そして、そういう力は「能動的な読書」によって得られるものなのだと確信し、僕は『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』という本にそのメソッドをまとめました。その内容をかいつまんで紹介しましょう。
理解を深め「考える力」を向上させる5つの読書法
僕が実践する読書法のなかでも、特に重要だと考えているのが次の5つです。
- 表紙を読む
- 「読者」になるな
- ひと言でまとめる
- 1冊だけ読むな
- 本と議論する
ひとつ目はきちんと「表紙を読む」。その本になにが書かれているかは、表紙、それから帯を読めばわかるのです。僕の著書の担当編集者さんもそうでしたが、本のつくり手がなにを載せれば読者に内容をより効果的に伝えられるかと、考え抜いてつくるのが表紙や帯。それを思えば、そこからなんの情報も得ないで読みはじめるのはもったいないではありませんか。表紙や帯をきちんと読むかどうかで、読書の質が大きく変わります。
東大生には一般の人より読解力があると思われますが、そんなことはありません。読解力があるのではなく、「読む準備」がしっかりできる人なのです。どういうことかというと、文章そのもの以外のものから情報を得る力があるということ。国語のテストに臨むとして、彼らが問題文から読みはじめることはありません。まずは設問を読む。それから問題文のタイトルや書き手をチェックする。そうして「こういうことが書いてありそうだ」と当たりをつけ、解答を探りながら問題文を読むのですから、理解が深まるのも当然というわけです。「表紙を読む」目的も、それとまったく同じものです。
ふたつ目は「『読者』になるな」。先に少しお伝えしましたが、「へえ、そうなんだ」と本の内容をそのまま受け入れるな、ということです。読者ではなく、記者になって取材するつもりで読んでみましょう。わからないことが出てきたら、「ちょっと待ってください、これはどういうこと?」と疑問を持つことです。
本を書く人というのは、そういう突っ込まれるポイントというものをつくってくれているものです。たとえば、「ここは議論がわかれるところですが……」というような表現もそう。そういうポイントを読み飛ばすのではなく、「なぜ議論がわかれるのか?」「別の意見とはどういうものか?」と突き詰めてみましょう。まさに、考える力を伸ばすことに直結する読み方です。
3つ目は「ひと言でまとめる」。本を読んだ後で内容を要約してみるのです。もしそれができなければ……その本は読めていないと言っていいでしょう。これは、「インプットのためのアウトプット」という考え方。「後からまとめなければならない」と思って読み進めることで、インプットの質が上がるのです。仮に実際にはまとめないとしても、そう思って読むだけでも理解の深さは全然ちがってきますよ。
4つ目は「1冊だけ読むな」。ある主張をしている本を読むときに、たとえば真逆の主張をしている本を並行して読んでみる。僕は「パラレル読み」という呼び方をしています。そうすると、見えるものが大きく広がる。それぞれの主張の共通点や相違点を発見しながら読むこととなり、客観的で多面的な思考力を身につけられるのです。
最後は、これまでの読み方を踏まえて「本と議論する」。本の感想を誰かに伝える、あるいは感想を『Amazon』などのレビューに書き込むということです。感想というのは、著者の主張に対する自分の意見の表明ですから、じつは立派な議論なのです。インプットした内容をかみ砕き、感想をアウトプットするという過程で、理解が深まると同時に自分で考える力も向上します。
「本は読んでいるけど身にならない」という人は、これらの読書法をぜひ試してみてください。これまでとまったくちがう読書体験を味わえるはずです。
【偏差値35から読書で東大合格 西岡壱誠さんインタビュー記事一覧】
第1回:偏差値35から “読書で” 東大合格! 最強の『東大読書』の真髄を探る。
第2回:「身にならない読書」してませんか? 『“東大式” 選書法&読書法』で読書の質は劇的に上がる。
第3回:「自分で考えられない人」に足りない2つのこと。超効率的に『考える力』を身につける習慣とは?
【プロフィール】 西岡壱誠(にしおか・いっせい) 1996年3月13日生まれ、北海道出身。東京大学3年生。歴代東大合格者ゼロの無名校から東大受験を決意。読書法を一変させることで、「考える力」を向上させ東大に見事合格。その読書法をまとめた『「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書』(東洋経済新報社)は12万部を超えるベストセラーとなっている(2018年9月10日現在)。現在は、家庭教師として教え子に読書法をレクチャーしながら、1973年創刊の学内書評誌『ひろば』の編集長を務める。
【ライタープロフィール】 清家茂樹(せいけ・しげき) 1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。