将来に良きリーダーとなるためには、やはり良きリーダーに多くを学ぶことが必要です。東レ時代に3代の社長に仕え、自身も東レ経営研究所社長としての職務を経験した佐々木常夫さんに、理想のリーダー像や、良きリーダーはどのように自分の仕事や周囲との人間関係をマネジメントしているのかを伺いました。将来、リーダーを目指す人は必読です。
■part1『「良い習慣」は才能を超える! 謙虚に学びハードに働く』はこちら
構成/岩川悟 取材・文/辻本圭介
人は自らの成長のために働くもの。良きリーダーは「世のため人のため」にも働く
佐々木さんが考える良いリーダーとは、「良い習慣」を毎日積み上げていくことで大きな成果を挙げ、周囲のスタッフを正しく導いていく人のこと。また、人や仕事からつねに学ぼうとする「謙虚さ」を持つことも大切だと1回目の配信では語っていただきました。ただ、それだけでは、良いリーダーになるには決定的に欠けているものがあるとか。
「それが、人間性や『志』なのだと思います。つまり、『なんのために生きているのか』『なんのために仕事をしているのか』をしっかりつかんでいるかどうか。世の中には類まれな才能に恵まれ、良い習慣も持つ経営者はたくさんいます。それでも、なぜダメになっていく会社があるのでしょうか? それは、会社を失敗へと導く経営者に、人間性や『志』が欠けているからです」
良いリーダーになるためには、つねに能力を磨くのはもちろんのこと、「なんのために働くのか」という自分なりの理由を突き詰めること。そうして働いていれば、次第に答えが見えてくると佐々木さんは言います。
「わたしの考えでは、働く理由にはふたつあります。ひとつは、『自分の成長』のため。そして、もうひとつがなにかに『貢献する』ためです。お客様や組織、地域社会をはじめ、『世のため人のため』に仕事をする気持ちがある人が、正しい『志』を持っている人なのだと思います」
どれだけ能力が高くても、努力を積み重ねていても、「志」が欠けていてはリーダーとして失格。自分以外のなにかに「貢献する」人こそが、結局はまわりから信用され、尊敬され、誰もが認める真のリーダーとなっていくのでしょう。
「経営学の巨人であるピーター・ドラッカーも、『現代の経営』(ダイヤモンド社)のなかでこのことに触れています。長くなりますが引用すると、『真摯さは習得できない。仕事についたときに持っていなければ、あとで身につけることはできない。真摯さはごまかしがきかない。一緒に働けば、その者が真摯であるかどうかは数週間でわかる。部下たちは、無能、無知、頼りなさ、無作法など、ほとんどのことは許す。しかし、真摯さの欠如だけは許さない。そして、そのような者を選ぶマネジメントを許さない』と書いています。これはちょっと恐ろしいことではありませんか? 良きリーダーであるためには真摯さ、つまり人間性や『志』が必要であり、それは『習得できない』と言っているわけですから」
リーダーになるためには、自分を大切にし、強い「出世欲」を持つことも必要
ここで少し疑問に感じることがあります。いまの若い世代がリーダーになる5年~10年後には、そんなリーダーのあり方や求められるものが、時代とともに変わっていく可能性はないのでしょうか。
「わたしは、良いリーダーの基本は大きくは変わらないと見ています。そのひとつとして、良いリーダーは『自分を大切にする』という原則を挙げましょう。わたしはかつて多難な時期を過ごしましたが、そんなわたしを根底で支えていたのが『それでも幸せになりたい』という強い気持ちでした。ならば、幸せになるためにどうすればいいかと考えると、わたしにとっては、仕事で成果を挙げたり、人に信用されたりすることだった。さらに、そのためになにをすべきかを突き詰めると、部下を育てたり、上司を助けたり、お客様に貢献したりという仕事の普遍的な原則につながっていったのです。つまり、リーダーのあり方は時代によって大きく変わることはなく、仕事を通じて自分の幸せを追求することで、まわりの幸せにもなっていくことなのだと思います」
著書『働く君に贈る25の言葉』(WAVE出版)のなかで、佐々木さんはビジネスパーソンに「もっと欲を持ちなさい」とすすめています。
「リーダーになりたいという欲は、やはり仕事のモチベーションとなる原点。給料は上がるし、まわりから認められるし、自分の好きなように動くこともできる。いいことばかりなので、その立場を貪欲に目指すのはビジネスパーソンにとって自然なことですよね。ただし、欲だけで仕事をすると結果は絶対についてきません。なぜなら、まわりの人が『ついていきたい』と思わなくなるからです。つまり、自分を大切にすることが根本にありながらも、自分だけを大切にしていると幸せは逃げていくのでしょうね」
良きリーダーは、他人の個性や能力を「タテ」で考えず「ヨコ」で認める
佐々木さんはそんな自分のことを、人よりもずっと「自己愛」が強い人間だと自覚しているそうです。
「だって、『どうせ自分なんて……』と思っていたら、仕事が適当になり、部下の面倒を見ることも疎かになって、結局は自らの不幸せにつながっていくじゃありませんか? なぜ、がんばれば幸せになれるのに、本気で取り組まないビジネスパーソンがいるのかわたしには理解できません。たとえリーダーになれなくても、自分を大切にしながら仕事をして、まわりのみんなとうまくやっていけたなら、それだけで幸せになれるでしょう? そして、最終的には、そんな人が集まって幸せな社会になっていくのです」
佐々木さんは、ベストセラー『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎さんに会ったとき、他者や社会との関わり方について若いころから考え実践してきたことが、心理学者のアルフレッド・アドラーの考えに似ていることを知ったと言います。人は必ず他者と関係しながら生きており、そこに喜びや幸せを見いだします。しかし、すべての悩みもまた、対人関係に起因するという考え方です。
「だからこそ、アドラーは人間をタテの関係ではなく、ヨコの関係で見なさいと言っているのですよね。要は、親と子、上司と部下、男と女のようなタテの見方ではなく、『対等』に考えよということ。じつは、わたしは30歳のときから、年下でも『さん』をつけて呼んでいました。なぜなら、自分より若くても優れた能力を持つ人は本当にたくさんいるからです。どんな人にも良い面があり、そのことに敬意を払って仕事をしようと考えたのです。やがて、わたしがリーダーになったとき『さん』づけで呼んでいた部下たちは、言われたことをただやる存在ではなく、プライドを持って主体的に行動する人間へと成長していきました。そうして、組織の力もどんどん上がっていったのです」
■part1『「良い習慣」は才能を超える! 謙虚に学びハードに働く』はこちら ■part3『優れたリーダーになるために「今日からすぐにできる」こと』はこちら
【プロフィール】 佐々木常夫(ささき・つねお) 1944年生まれ、秋田県出身。東京大学経済学部卒業後、東レ株式会社入社。自閉症の長男を含め3人の子どもを持つ。しばしば問題を起こす長男の世話、加えて肝臓病とうつ病を患った妻を抱え多難な家庭生活。一方、会社では大阪・東京と6度の転勤、破綻会社の再建やさまざまな事業改革など多忙を極め、そうした仕事にも全力で取り組む。2001年、東レ同期トップで取締役となり、2003年より株式会社東レ経営研究所社長に。 2010年、株式会社佐々木常夫マネージメント・リサーチを設立。何度かの事業改革の実行や3代の社長に仕えた経験から独特の経営観を持ち、現在経営者育成のプログラムの講師などを勤める。社外業務としては、内閣府の男女共同参画会議議員、大阪大学客員教授などの公職を歴任。
【ライタープロフィール】 辻本圭介(つじもと・けいすけ) 1975年生まれ、京都市出身。明治学院大学法学部卒業後、主に文学をテーマにライター活動を開始。2003年に編集者に転じ、芸能・カルチャーを中心とした雜誌・ムックの編集に携わる。2009年以後、上場企業の広報・PR媒体およびIR媒体の企画・専門編集に携わりながら、月刊『iPhone Magazine』編集長を経験するなど幅広く活動。現在は、ブックライターとしてもヒット作を手がけている。