みなさんは、「早起き」に対してどのような印象をもっているでしょうか？ たとえば「意識が高い人の習慣」のように、どちらかと言うと「頑張らなければならないもの」というイメージが強いかもしれません。ただ、その意識こそが「早起き失敗の最大の要因」と語るのは、株式会社5AM代表取締役の井上皓史さん。意外にも、井上さんがすすめるのは、「頑張らない早起き」だと言います。
構成／岩川悟 取材・文／清家茂樹 写真／石塚雅人
【プロフィール】
井上皓史（いのうえ・こうじ）
1992年生まれ、東京都出身。株式会社5AM代表取締役。幼少期の早寝・早起き習慣と社会人1年目の夜型→朝型の経験から、「早起きの魅力をひとりでも多くの人に伝えたい」という思いで、2016年より渋谷で朝活をする「朝渋」を開始。新刊を出す著者をゲストに招くトークイベントに始まり、早起きコミュニティーを発足。2018年には朝渋を本業化。2025年5月、株式会社5AM創業し、現在は早起きコンサルティングや企業研修などを手がけるほか、SNSやポッドキャストなど発信活動も精力的に行なう。近著に『がんばらない早起き 「余裕のない１日」を「充実した１日」に変える朝時間の使い方』（かんき出版）。通称「5時こーじ」。
まじめで自分に厳しい人ほど早起きの習慣化に失敗する
早起きの習慣化については、まじめな人であるほど注意が必要です。「毎朝6時に起きよう」と決めて、起床が6時半になってしまった日が1日でもあると、たった1日の寝坊でもまじめな人は大きな失敗だと感じます。そうして自己肯定感が低下し、「どうせ自分にはできない」と、結局早起きを諦めてしまうケースがよく見られるのです。
ですから、早起きをもっと気楽にとらえてみましょう。ただ、かつての私自身も、「毎朝5時に起きよう」と決め、「5時起きができなかったら駄目だ」と、それこそスパルタ式のような考え方をもっていました。
その考えが大きく変わったきっかけは、子どもが生まれたことでした。お子さんがいる人ならよくわかると思いますが、子育てをしながら決まった時間に早起きを続けるのは容易ではありません……。夜でもおむつ交換や夜泣きの対処などが必要ですし、もちろん疲労度合いも大きくなります。
そうして、「起きられない日もあっていいじゃないか」「『頑張らない早起き』をしよう」と考えるようになりました。それで十分なのです。
これまで7時に起きていた人が、6時起きを目標にしました。たとえ目標を達成できなくても、わずか10分でも朝に時間をつくれたとしたら、1週間で考えれば1時間以上になります。今後の時間の蓄積を考えれば、それまでよりもずっと有意義な時間の使い方ができるようになっていると言えます。
早起きにより「他人時間」ではなく「自分時間」が増える
そもそも、早起きのメリットがどこにあるかと言うと、「他人時間」よりも「自分時間」を増やせる点にあります。前者は他人に主導権を握られて仕方なく使う時間であり、後者は自分が主導権を握ってコントロールできる時間を意味します。
早起きができなかったとしたら、起きた瞬間から他人時間ばかりが押し寄せてきます。他人が決めた出社時間に間に合うよう詰め込むように朝食をとり、電車には駆け込み、オフィスに着いたらエレベーターの行列にうんざり……。そのあとも、「午後のミーティングの資料作成、間に合うかな」「そうだ、今日はこのタスクもやらなければいけないんだった」というように、朝からイライラや不安に振り回されるのは必至です。
一方、早起きができたらどうでしょうか？ 他人がまだ寝ている静かな時間に起きて掃除や散歩をしたり、優雅にコーヒーを淹れたりもできます。仕事に関することで言っても、起床直後の最もエネルギーに満ちあふれた状態で重要なタスクを効率的に進めることもできるでしょう。ラッシュアワーを避けて余裕をもって出社することだってできます。
このような違いが生まれるのは、朝に限った話ではありません。私自身は、掃除や散歩、読書など朝にやることを決めているだけでなく、その流れでほかの時間の使い方についても、自分主導で「こんな時間の使い方ができたらいいな」という「理想の時間割」をつくっています。
すると、たとえばミーティングや飲み会などに誘われても、「いつでもいいですよ」とはならず、「この日のこの時間だったら空いています」と答えることができます。他人に時間を押さえられたうえで残りの時間に自分の予定を押し込むのではなく、あらかじめ自分で自分の時間を押さえ、なにか誘いがあったり突発的なハプニングが起きたりしたときのために、残りの時間をバッファーとして自分主導で空けているのです。
すると、たとえ同じことをやるのでも、他人に合わせるのではなく自分で自分の時間をコントロールしている感覚があるために、心の余裕が生まれるというわけです。
早起きするコツは、「早寝する」ことに尽きる
他人と関わりながら仕事をしなければならない社会人である以上、他人時間をゼロにするのは不可能でしょう。でも、なるべく他人時間を減らして自分時間を増やそうと努めることはできます。そして、そのスタートこそ、早起きです。
早起きをするためのポイントはいくつがありますが、ここでは「夜の時間の使い方を見直す」ことをお伝えします。立場上、「早起きのコツを教えてください」と聞かれることがよくあります。ただ、極論すれば「コツなどない」というのが本音の回答になるでしょうか。「早起きしたいのなら、早寝をする」ということに尽きるのです。
たとえ早起きできても、睡眠時間を減らしたために心身の回復ができていなければ、翌日のパフォーマンスは大きく低下してしまいます。それでは、早起きをする意味などありません。だからこそ、夜の時間の使い方を見直し、早く寝ることが肝要となるのです。
どれだけ忙しい人であっても、夜の時間の使い方には無駄なものが必ず含まれています。誰かに誘われたという理由だけで目的なく参加する飲み会などその最たるものでしょうし、帰宅後にソファに倒れ込んでぼーっとスマホで他人のSNSを眺めているような時間もそれにあたります。
それらの時間を1時間でも30分でもいいので削って早くベッドに入り、その分だけ早く起きる。ただ、それだけのことなのです。早起きできるかどうかは、無駄な夜の時間をいかに減らせるかにかかっています。
決して難しくはないはずです。みなさんだって、翌朝早くからゴルフやキャンプに行く予定があるのなら、前日の夜は早寝しますよね？ それと同じことを普段からやってみるだけなのですから、それこそ気楽に考えて「頑張らない早起き」を実践してほしいと思います。
【井上皓史さん ほかのインタビュー記事はこちら】
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清家茂樹（せいけ・しげき）
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。
