「弁護士の読書」と「医師の読書」が異なる興味深い理由。“多く広く” と “少なく深く” の違いはなぜ生まれるのか?

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ビジネスパーソンの皆さんがこれまで散々見聞きしてきたであろう「読書の大切さ」。しかし、読書の大切さを理屈では分かっていても、実になる読書を実践するのは難しいもの。

本の読み方にしろ選び方にしろ、読書法は人それぞれで正解がないものです。でも、せっかく本を読むなら、意味のある読書をしたいですよね。ならば、エリートと呼ばれる人たちが実践している、「仕事の成果に結びつきやすい読書法」を試してみませんか? 

今回は、「文系エリート職」の弁護士と「理系エリート職」の医師、それぞれの読書方法を比較・検討して、ビジネスパーソンの皆さんの読書に活かす方法をまとめてみました。なかなかおもしろい結果になりましたので、ぜひ、仕事をよりうまくこなすための読書のヒントにしてみてくださいね。

弁護士の本の読み方

1. 間川清氏の場合

法律事務所を経営する傍らで書籍の執筆も手掛ける弁護士の間川清氏は、本で得た学びを行動に移すための読書を実践しています。著書『1年後に夢をかなえる読書術』によれば、間川氏が一番のポイントにしているのは「知っている部分や大事だと思わない部分は読み飛ばし、大事だと思う部分をとにかく実行する」という点です。

間川氏は、売り上げが思わしくなかった自身の法律事務所の経営を改善するために、1,400円で購入したビジネス本で広告の書き方を調べました。本に書かれていたことのうち、間川氏が大切だと判断したのは、タウンページの広告の書き方。タウンページの広告の書き方だけを実践した結果、売り上げが7,000万円にまで上がったそうです。「大事なことだけを実行する」読み方が、莫大な成果をもたらしたのですね。

2. 山口真由氏の場合

東京大学を首席で卒業し、ニューヨーク州の弁護士資格を持つ山口真由氏が実践しているのが、「7回読み」という読書法です。山口氏がStudyHackerのインタビューで述べたところによれば、「7回読み」のやり方は次のとおりです。

  • 1~3回目「サーチライト読み」→見出しなどを拾いながら読み流す。本の全体像をつかんでいく。
  • 4、5回目「平読み」→重要キーワードを意識しながら普通のスピードで読んで要旨をつかむ。
  • 6、7回目「要約読み」→内容を頭で要約しながら読んでいく。

「7回読み」で読めば、1冊の内容を頭のなかに写し取ることができると山口氏は述べています。1冊の本を最初からじっくり読み込むのではなく、短時間でサラサラと繰り返し読むことにより多くの情報をインプットするのが、「7回読み」なのです。

3. 荘司雅彦氏の場合

執筆や講演などを多数手がける弁護士の荘司雅彦氏も、前述の2人と同様に「1冊をじっくり読み込む必要はない」と考えています。荘司氏が実践している読書法は以下のようなものです。

  1. 「まえがき」と「目次」から本の内容を大まかに把握したうえで、自分にとって重要と思われる部分を読み、該当のページに付箋を貼る。
  2. 付箋を貼った個所の内容を、iPhoneなどのメモに転記していく。
  3. 転記したものをプリントアウトして家の中に貼り、何度も目に触れるようにする。

荘司氏の読書法も山口氏と同じで、1冊の本にかける時間を最短にしながら、多くの本の内容を頭に入れる読書術です。荘司氏は上述の読書術で旧司法試験の勉強をいちから始め、たったの2年で合格したそうです。

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医師の本の読み方

1. 名越康文氏の場合

精神科医で、相愛大学および高野山大学の客員教授を務めるほか、テレビのコメンテーターなど多彩な活動をしている名越康文氏が実践しているのが、「読む・考える・書く(ツイート)」の三角読みです。

名越氏は、本を読んでいる途中で思いつくことがあったときに、読むのを中断して、Twitterに書き込みをするのだそう(ツイート例はこちら)。考えをいったんTwitter上でアウトプットして頭の中を空にしたら読書を再開し、また考えたことをツイートするというプロセスを繰り返しているのだと言います。

「三角読み」により、1冊の本から自分なりの見解を多く示し、考えを残しておくことができます。そしてTwitterの反応からも、新しい考えや気づきが得られるそうです。

2. 野末睦氏の場合

あい太田クリニック院長の野末睦氏は、著者の主張に自分自身の解釈を加えながら読むことを大切にしています。

たとえあまり詳しくない分野について書かれた本であっても、自分なりの解釈を持ちながら読めば、10冊読む頃には自分なりのコンセプトが構築できるのだそう。未知の領域に対しても、自分自身で解釈するという読書法を実践すればある程度のエキスパートになれるのです。

もちろん、自分の解釈を加えながら読むという読書法は、自分の専門分野に関する知識をさらに強化するのにも有効です。野末氏自身、自分の解釈を加えながら読むという読書法で医療政策や福祉の仕組みなどを学び、自らが専門とする医療分野での視野を広げることができたそうです。

3. 樺沢紫苑氏の場合

精神科医でベストセラー作家としても知られる樺沢紫苑氏の読書術も、「量より質」にあります。1冊の本の内容を議論できるレベルになるまで理解する「深読」を大切にするため、以下のようなことをしているそうです。

  • 気付きを与えてくれた文にマーカーを引く
  • 読んだ本を複数の切り口で人に勧める
  • 自分の気づきをSNSでシェアする
  • (翌日以降に)レビューを書く

樺沢氏は「深読」で、月に20~30冊もの本を読みながらも、内容を忘れずに記憶していると言います。そして、本で得た知識は、診療時の説明や、世間話、執筆などの際、いつでも引き出せるのだそうですよ。

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「弁護士読書」と「医師読書」の違いは?

弁護士の3氏に共通するのは、「わからないところは読み飛ばす」「必要なところだけ読む」という点。1冊にかける時間や読む際の負担をできるだけ軽くしています。1冊を読了するスピードを上げて何冊も読むことで、知識や価値観の幅を広げているのが「弁護士読書」だといえそうです。

弁護士の読書法に対して医師の3氏の読み方の共通点は「読みながらアウトプットする」「自分なりの解釈を持ちながら読む」ということ。読み方の質を上げ、1冊からいかに多くのことを吸収するかを重視しているのが分かります。考えたことをシェアしたり、解釈を加えながら読んだりすることで、より深い知識や見解、新しい発想や気づきを得るための読書術が「医師読書」だといえそうですね。

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「裁判に勝つ」弁護士と「命を扱う」医師。仕事の特性の違い

「多く広く」の弁護士読書と、「少なく深く」の医師読書。「弁護士読書」と「医師読書」の違いはなぜ生まれているのでしょう。

青山学院大学法学部教授の木山泰嗣氏は、弁護士に大切なことについて以下のように語っています。

結局のところ、裁判そのものは説得をする行為です。法律のルールに則るとは言っても、裁判官の結論が違うことはご存じの通り普通にあることです。最後はどれだけ弁護士が裁判官に対して説得力のある資料を提出し、説得力のある主張を展開できるか。人の心をつかんで動かせるかということで、それが上手な弁護士ほど勝ちます。

(引用元:BIZLAW|物事の本質を捉えることが分かりやすさのキー)※太字は筆者が施した

木山氏の解説を考察すると、弁護士は裁判で勝つために裁判官をどう説得するかを常に考えている仕事だと言えます。提出資料の作成や弁論の準備のために、膨大な情報の中から説得力のあるものを見極め選び出すという特性が、速いスピードで重要な部分を吸収していくという読書術にも表れているのではないでしょうか。

一方、福井大学医学部附属病院総合診療部教授の林寛之氏は、医師に大切なことについてこのように語っています。

(医師をめざす人たちには)ズブズブと知識を吸収できる時期に真面目にコツコツ努力する人材を医学部が要求している、ということをわかってほしい。
(中略)
好き嫌いを言っていたら、患者さんに直接その不勉強が反映されてしまうのですから、愚直に真面目であることが必要最低条件なんです。

(引用元:AERAdot.|林寛之医師が選ぶ「医学部を目指すなら読んでおきたい3冊」)※太字は筆者が施した

医療という現場で常に患者1人1人の命と向き合わなくてはいけない医師に知らないことがあれば、直接命に関わる可能性もあります。林氏の言をひも解くと、医師は命を扱う仕事であるため、自分の知識を穴がないように深めていくのが大切な職業。だからこそ、読書法もおのずとより知識を深める読み方になっていると言えそうです。

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「弁護士読書」と「医師読書」の共通点は?

弁護士と医師の読書法は真逆のように見えますが、本の選び方については「役立つ本を選ぶ」「知りたいことを知るために選ぶ」といった内容のことを全員が述べています。つまり「目的を持って本を選ぶ」ということが共通点だと言うことができそうです。

目的を持って本を選ぶのは、弁護士か医師かに関係なく、読書術において重要なこと。レバレッジコンサルティング代表取締役兼社長の本田直之氏は、ベストセラー著書『レバレッジ・リーディング』の中でこのように述べています。

まず第一に必要不可欠なのが、「目的を持って本を選ぶ」ことです。「自分の人生の目標は何か」「現状の課題は何か」という大きな目標があれば、「今、自分にはどんな本が必要か」ということがはっきり意識できます

(引用元:本田直之(2006),『レバレッジ・リーディング』, 東洋経済新報社.)※太字は筆者が施した

本田氏によれば、目的意識を持って本を読むと「カラーバス効果」が期待できるそう。カラーバス効果とは、自分が意識していることに関係する情報ほど自分のところに舞い込みやすくなる効果のこと。知りたいこと、解決したい課題を意識しながら読めば、自分が興味を持つことに関する役立つフレーズが記憶に残りやすくなるのです。

弁護士読書も医師読書も、読み方に違いはありますが、ともに本による学習効果を高めることを大切にした読み方であることは間違いないようです。では、私たちはどのようにしてこの2つの読書術を使い分ければよいのでしょうか。

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ビジネスパーソン向け「弁護士読書」と「医師読書」の活かし方

「弁護士読書」の活かし方

何か課題を抱えており、解決策を得てすぐに仕事で活かしたいのであれば、弁護士読書を実践してみてはいかがでしょうか。知識や価値観の幅を広げることで停滞や不安を打開していきましょう。

例えば、営業成績に伸び悩んでいるのであれば、自分の営業手法を一度見直してみる必要がありますよね。そこで、プレゼンや質問の技術、書類の作り方や取引先との付き合いの仕方などを説いた多くの指南書の中から、今の自分に足りないと思われることを解説している本を複数冊選び、読んでみましょう。

話題にできる知識を増やす目的で読むなら、山口氏の「7回読み」で、どんどん本を読むのが有効だと思います。話し方や相手との接し方など技術を獲得したいときは、間川氏の読み方で実践を増やしてはいかがでしょうか。マインドセットをスムーズにしたいのであれば、荘司氏の読み方で本から得た学びを自分の目に触れるところに貼っておくとよいかもしれません。

「医師読書」の活かし方

研究や開発の成果に繋がる知識を増やしたいときや、クリエイティブに発想したいときなどは、1つの分野について知識をより深く獲得できる医師読書がよさそうです。

例えば、広告の仕事で良いコピーが思い浮かばず、なかなか成果が出せずに行き詰まっていたら、同じ分野のほかの専門家による著書をじっくり読み、専門家の解釈や視点を自らの発想の引き出しに加えてみたらいかがでしょうか? 既に熟知している分野であるからこそ、分野の中での視野を広げることもまた大切であるはずです。

新しい発想を得たいなら、名越氏のように本を読みながら考えをアウトプットし、アウトプットに対する意見に耳を傾けてみる、という流れが有効に働きそうです。自分の考えが世間にどう響くかの気づきにつながるでしょう。自身の分野の専門性を高めるときは野末氏の読み方を、読んだ内容をいつでも引き出せるようにストックしておきたいときは樺沢氏の読み方を、それぞれ取り入れてみてはいかがでしょうか。

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「多く広く」の弁護士読書と、「少なく深く」の医師読書。きちんと目的を持って本を選び、シーンや職種によって、どちらの読み方も活かせたらいいですよね。

あらゆる本は私たちを成長させてくれます。自分に合った読み方と読みたい一冊を見つけ、ぜひ仕事に、ひいては人生に、役立てて頂ければと思います。

書物の新しいページを1ページ、1ページ読むごとに、私はより豊かに、より強く、より高くなっていく。

(引用元:チェーホフ著, 佐藤清郎訳(1997),『チェーホフの言葉』, 彌生書房.)

(参考)
間川清(2012),『1年後に夢をかなえる読書術』, フォレスト出版.
山口真由(2018),『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある。』, 扶桑社.
StudyHacker|最速で確実に結果がついてくる「7回読み」勉強法——東大首席卒・NY州弁護士 山口真由さんインタビュー【第1回】
荘司雅彦(2007),『最短で結果が出る超勉強法』, 講談社.
PHPOnline衆知|本が読めなかった精神科医を救った「三角読み読書術」
名越康文(2018),『精神科医が教える 良質読書』, かんき出版.
病院経営事例集|生涯成長し続けるための読書術とは?―医師への選択、医師の選択【第46回】
BIZLAW|物事の本質を捉えることが分かりやすさのキー
AERAdot.|林寛之医師が選ぶ「医学部を目指すなら読んでおきたい3冊」
樺沢紫苑(2015),『読んだら忘れない読書術』, サンマーク出版.
本田直之(2006),『レバレッジ・リーディング』, 東洋経済新報社.
チェーホフ著,佐藤清郎訳(1997),『チェーホフの言葉』, 彌生書房.

【ライタープロフィール】
月島修平
大学では芸術分野での表現研究を専攻。演劇・映画・身体表現関連の読書経験が豊富。幅広い分野における数多くのリサーチ・執筆実績をもち、なかでも勉強・仕事に役立つノート術や、紙1枚を利用した記録術、アイデア発想法などを自ら実践して報告する記事を得意としている。

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