「インテグリティ(Integrity)」という言葉を知っていますか? 一般的には「誠実さ」「真摯さ」「高潔さ」などと訳される言葉です。
ただ、著書『INTEGRITY 正しく、美しい意思決定ができるリーダーの「自分軸」のつくり方』(東洋経済新報社)を上梓したラッセル・レイノルズ日本代表の岸田雅裕(きしだ・まさひろ)さんは、「インテグリティはそういった一語で置き換えられる言葉ではない」と語ります。そして、このインテグリティこそ、ビジネスパーソンにとって重要なものなのだそう。
構成/岩川悟 取材・文/清家茂樹 写真/石塚雅人
インテグリティとは「自分に対しても他人に対しても誠実な状態」
「インテグリティ(Integrity)」は、一般的には「誠実さ」「真摯さ」といった言葉で訳されますが、私自身はそういった一語では表現できない言葉だと考えています。私の解釈をあえて日本語で言うなら、「自分に対しても他人に対しても誠実な状態」だとか「自分の内側に対しても外側に対しても一貫性がある状態」となるでしょうか。このインテグリティこそ、ビジネスパーソンにとってとても重要な要素だと考えています。
インテグリティがない人のケースを考えてみます。「自分の内側に対しても外側に対しても一貫性がある」に対して一貫性が “ない” のですから、たとえば相手によって言うことが変わるような人はインテグリティがある人とは言えません。そういう人が周囲から高い評価を得ることはないでしょう。
あるいは、他人に対しては一貫性があったとしても、自分に対して嘘をついているような人もインテグリティに欠ける人です。そういう人は無理をして自分ではない人間を演じていますから、ともすれば精神的に壊れてしまうということもありえるでしょう。やはり、ビジネスパーソンとして成功を収める可能性は低くなります。
ビジネスパーソンにとってインテグリティをもつことのメリット
では、インテグリティがある人はどんなメリットを得られるのでしょうか? 私は、結果はどうあれ、自分の意思決定に対して「後悔しなくなる」ということが大きなメリットのひとつだと考えます。
先に逆のケースを考えてみましょう。インテグリティに欠けていて、自分に嘘をついてまで「こちらのほうがよいだろう」と計算して下した意思決定の結果が大きな失敗につながったとしたら、「やっぱり自分に正直になるべきだった……」と後悔することになります。
一方、インテグリティがある場合は、他人に対してはもちろん自分にも嘘をつかない、外側にも内側にも誠実に意思決定を下すのですから、その意思決定の先にどんな結果が待っていたとしても後悔することはありません。そのため、精神的な安定感を得られます。たとえ意思決定の結果がよくないものだったとしても、その結果を冷静に受け止め、よりよい方向に軌道修正することができるのです。
これからの時代にインテグリティが求められる理由
このインテグリティが、これからの時代に特に重要になってくると考えています。いまは資本主義が大きな転換点を迎えている時代です。利益を高めることを求めながらも、環境問題など配慮すべきことがどんどん増えています。さらには、今回のコロナ禍に代表されるパンデミックや激しい気候変動も起こります。
そうした激しい変化のなか、これまでのように「これをやっておけばOKだよね」という正解がない時代でもあります。変化が起きるたび、私たちは多くのことを考えなければなりません。
そうなってくると、自分のなかに「これが正しいんだ!」という「軸」が存在していないと、自分が「揺れる」と思うのです。その軸が、インテグリティです。
大きな変化にたびたび見舞われる時代だからこそ、あらゆる場面で自分のなかの一貫した価値観に従って意思決定をしなければなりません。変動的な時代においてビジネスパーソンが精神的な健全さを保ち、仕事に邁進するには、インテグリティが欠かせなくなってきているのです。
インテグリティが欠ける人には、周囲の人がついてこない
特に注意が必要なのは、いわゆる頭がよくてデキる人です。物事は、長い目で見ると結局、多くの人が正しいと心から思えるほうに転がっていくもの。
ところが、頭がいい人はどうしても計算が先に立ちます。その計算をもとに相手を丸め込もうとするようなこともあるでしょう。そういうときは、やはり自分に嘘をついていたり、相手に対する誠実さが欠けたりすることが多いのです。
そうなると、先にもお伝えしたように意思決定の結果に対して後悔することもあるでしょうし、もっと言えば「まわりの人がついてこない」ことにもつながります。言っていることが、相手や状況に応じてころころ変わるような人を慕ってついて行くという人はほとんどいないわけです。
どんな職種や立場であれ、ビジネスパーソンである以上は周囲の人と関わりながら仕事を進める必要があります。周囲の人を巻き込んだり周囲の人から助けてもらったりして大きな成果を挙げるには、インテグリティが欠かせないのです。
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【プロフィール】
岸田雅裕(きしだ・まさひろ)
1961年3月30日生まれ、愛媛県出身。ラッセル・レイノルズ日本代表。東京大学経済学部経済学科卒業。ニューヨーク大学スターンスクールMBA。パルコ、日本総合研究所、ブーズ・アレン・アンド・ハミルトン、ローランド・ベルガー、ブーズ・アンド・カンパニー、カーニーを経て2021年より現職。2014年カーニー日本代表に就任してからは、企業戦略、事業戦略、リーダーシップ開発、M&Aなどの支援を多数行なうと同時に、カーニーの日本オフィスを利益と成長の両面でグローバルにも有数のオフィスに導いた。2021年からは、ラッセル・レイノルズ日本代表として「日本の経営者の質を高める仕事」に取り組んでいる。著書に『コンサルティングの極意 論理や分析を超える「10の力」』『マーケティングマインドのみがき方』(いずれも東洋経済新報社)などがある。
【ライタープロフィール】
清家茂樹(せいけ・しげき)
1975年生まれ、愛媛県出身。出版社勤務を経て2012年に独立し、編集プロダクション・株式会社ESSを設立。ジャンルを問わずさまざまな雑誌・書籍の編集に携わる。