勉強や仕事で成果を出すには、「記憶力」が欠かせませんよね。記憶力が不十分だと、せっかく学んだ内容や、重要なタスクを忘れてしまうかもしれません。
脳に情報を定着させるにはさまざまな方法がありますが、そのひとつは「食事内容を工夫すること」。特定の栄養素を摂取することで、脳のパフォーマンスの向上が期待できるのです。
この記事では、記憶力と食べ物の関係を解説したあと、記憶力を上げるのに役立つ食べ物(飲み物)を5つ紹介します。どれも手軽に入手できるものばかりなので、ぜひ今日から取り入れてみてください。
記憶力と食べ物の関係
記憶力をはじめとする脳機能は、食べ物の内容や質によって大きく左右されるものです。
東洋大学生命科学部生命科学科教授・児島伸彦氏は、脳の「シナプスの可塑性」を保つ条件のひとつとして、食生活のバランスを挙げています。シナプス可塑性とは、経験や学習によって、脳の神経細胞同士の結びつきが柔軟に変化する性質のこと。シナプス可塑性が低いと、新しいことを覚えたり、変化する環境に対応したりといったことが難しいため、脳を健康に保つには、正しい食習慣・生活習慣を心がける必要があるのです。
食事と脳の関連を調査した研究には、オランダ・エラスムス大学のMeike Vernooij教授らによる、2018年のものがあります。45歳以上の男女4,213人の食事の質を、オランダ健康審議会の食事ガイドラインに基づき、0~14点で評価しました。
調査の結果、食事の質が高い人ほど脳の容積が大きかったのだそう。「最も健康的な食事」をしていた人と、「最も不健康な食事」の人では、脳容積に約2mlの差があったとのことです。
ふだん口にしている食べ物は、記憶力を含む脳機能全体に関係しているようですね。
記憶力を上げる食べ物1:青魚
記憶力をアップさせるには、どのような食べ物が効果的なのでしょう?
まず紹介するのは、サバ・サンマ・イワシなどの青魚。「魚を食べると頭がよくなる」は、もはや常識となっていますね。
シニア野菜ソムリエの丸田みわ子氏によると、青魚には、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)といった「脂肪酸」が多く含まれているそう。脂肪酸とは、脳の約3分の2を構成している、非常に重要な栄養素です。2008年に米国国立衛生研究所が行なった実験によって、DHAを与えられずに育ったマウスは、記憶・学習能力が低くなることがわかっています。
DHAおよびEPAは、青魚以外にも、エゴマ油(シソ科の植物が原料)やアマニ油(亜麻が原料)などで摂取することができます。記憶力の向上が期待できる食べ物として、積極的に取り入れましょう。
記憶力を上げる食べ物2:チョコレート
記憶力を高める食べ物としては、チョコレートも挙げられます。菓子メーカー・明治と愛知学院大学が2014年に行なった共同研究によって、チョコレートを食べると、脳の成長に欠かせない「BDNF(脳由来神経栄養因子)」が増加することがわかりました。
BDNFは、記憶をつかさどる脳の部位・海馬を含む「中枢神経系」に多く存在し、記憶や学習に深く関わっているのだそう。先述のDHA・EPAと並び、BDNFは脳を正常に機能させるために不可欠なのです。
チョコレートには、集中力をアップさせる効果もあります。米ロマリンダ大学が2018年に発表した研究では、カカオ70%のチョコレート48gを被験者に摂取させてから30分後、集中力に関係する脳波「ガンマ波」が強まったそうです。
記憶力だけでなく集中力もアップさせてくれるチョコレートは、仕事や勉強に役立ってくれる食べ物なのですね。
記憶力を上げる食べ物3:海藻類
記憶力アップに効果的な食べ物としては、ワカメやヒジキなどの海藻類もあります。海藻類には水溶性食物繊維が多く含まれているためです。
水溶性食物繊維は、腸内環境を健全に保つのに役立ちます。帝京平成大学健康メディカル学部教授・松井輝明氏によると、水溶性食物繊維は善玉菌のエサとなるため、結果として腸内環境を整えてくれるそうです。
脳のストレスが腸へ伝わったり、腸の不調が脳に悪い影響を与えたりと、脳と腸は影響を及ぼし合っています。九州大学院医学研究院の須藤信行教授によると、脳と腸のつながりは「脳腸相関」と呼ばれるのだそう。緊張してお腹が痛くなるのは、脳の緊張が腸の不調として現れた、脳腸相関の一種です。
つまり、腸の調子が悪いと、記憶力が悪化しかねません。九州大学大学院医学研究院教授・須藤信行氏によれば、腸内環境が乱れると、生体防衛の枢軸である「HPA axis」(視床下部・下垂体・副腎軸)が乱れ、海馬神経細胞が壊れることで、記憶力に悪影響が及ぶことがわかっているのだそうです。
記憶力アップを助けてくれる水溶性食物繊維は、海藻類のほか、以下の食べ物に多く含まれています。
- 根菜類(ゴボウ・ニンジン・ジャガイモなど)
- キウイ
- アボカド
- 納豆
- なめこ
- ラッキョウ
- 大麦
- プルーン
記憶力を上げる食べ物4:バナナ
記憶力アップに貢献する食べ物としては、バナナも外せません。管理栄養士の殿本祥子氏によると、バナナには、ブドウ糖・果糖・ショ糖という3種類の糖分が含まれており、エネルギーに変換されるスピードがそれぞれ異なるため、エネルギーが長時間持続しやすいのだそう。
ブドウ糖は、脳の重要なエネルギー源です。ほかの臓器は脂質やタンパク質などをエネルギーに変換できますが、脳がエネルギー源とするのはブドウ糖のみ。そのため、ブドウ糖が不足すると、記憶を司る海馬などの働きが弱まり、記憶力が低下してしまう恐れがあるのです。ブドウ糖を取り入れるには、ご飯やパン、麺類などの炭水化物が基本ですが、上記の理由から、エネルギーを補う間食として、バナナがオススメというわけ。
ブドウ糖がエネルギーに変換されるには、ビタミンB群が必要です。一般財団法人・食と健康財団の副理事長・池上公介氏によると、特に重要なのがビタミンB1とビタミンB6。ビタミンB1はブドウ糖をエネルギーに変換する役割を、ビタミンB6はデンプンをブドウ糖に分解する役割を担っています。
ビタミンB1およびB6を多く含む食材は以下のとおり。優れた記憶力を保つため、バナナだけでなくこれらの食べ物も取り入れたいものです。
- ビタミンB1:豚肉、ウナギ、タラコ、ノリ、大豆など
- ビタミンB6:マグロ・カツオ・サケなどの魚介類、ゴマ、ノリなど
記憶力を上げる食べ物5:水
食べ物というわけではありませんが、記憶力を保つには、水を飲むことも大切です。東京大学薬学部教授の池谷裕二氏によると、水は身体の60~70%を構成する重要な成分。少しでも不足すると、さまざまな不調が現れてしまうのだそう。
2011年にコネティカット大学のアームストロング博士らが発表した論文でも、体重のわずか1%以下の水分が失われるだけで、記憶力や認知能力が低下することがわかっています。
水には、脳を活性化させる効果があるのです。頭がボンヤリする、なんだか調子が出ない、と感じるときには、コップ1~2杯の水を飲むとスッキリするかもしれませんよ。
記憶力を保ちたいなら、食べ物を食べるだけでなく、こまめに水を飲むようにしましょう。
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記憶力アップの効果が期待できる食べ物を紹介しました。しかし、身体の健康を保つには、さまざまな栄養素が必要です。本記事で紹介したもののほかにも、いろいろな食べ物を選ぶよう心がけましょう。
Wiley Online Library|Behavioral Deficits Associated with Dietary Induction of Decreased Brain Docosahexaenoic Acid Concentration
The FASEB Journal|Dark chocolate (70% organic cacao) increases acute and chronic EEG power spectral density (μV2) response of gamma frequency (25–40 Hz) for brain health: enhancement of neuroplasticity, neural synchrony, cognitive processing, learning, memory, recall, and mindfulness meditation
Frontiers|Subjective thirst moderates changes in speed of responding associated with water consumption
J-STAGE|脳機能と腸内細菌叢
LINK UP TOYO|医学博士に聞く、記憶力・学習力アップに影響する脳機能「シナプス可塑性」とは?
化学と生物|ω3系脂肪酸の脳機能への影響と周産期(妊娠期,授乳期)での重要性現代の「油断大敵」を考える
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佐藤舜
大学で哲学を専攻し、人文科学系の読書経験が豊富。特に心理学や脳科学分野での執筆を得意としており、200本以上の執筆実績をもつ。幅広いリサーチ経験から記憶術・文章術のノウハウを獲得。「読者の知的好奇心を刺激できるライター」をモットーに、教養を広げるよう努めている。