たとえば朝一番、部下や後輩から「この業務、どう進めればいいでしょうか?」と相談を受けて、つい「まず○○をして……」と答えを提示してしまうことはありませんか?
もちろん、その場は解決するかもしれません。ですが、この方法だけに頼っていると、相手が自分で考える力を身につける機会を逃し、結果的に成長のチャンスを奪ってしまう恐れがあります。
部下や後輩には、「一人でも自発的に考えて動けるようになってほしい」「もっと大きな仕事を任せても大丈夫な人材に育ってほしい」と思いませんか?
本記事では、そのための“答えを与えるのではなく、考えを引き出す”アプローチを詳しく解説します。特に、
- チームを率いるリーダー
- 部下に考えさせるマネジメントをしたい上司
- 同僚や後輩から相談されることが多い立場の人
こういった方々が活用できる、具体的な問いかけの仕組みやステップをご紹介。あなたが背中を押すだけで、部下や後輩が主体的に動き、ぐんぐん成長していくようになるはずです。ぜひ最後までお読みください。
1. 自発的思考を促すふたつの条件
相手の自発的な思考を促すには、「オープンクエスチョンで質問すること」と「相手の意見を否定しないこと」が効果的です。
逆に、クローズドクエスチョンをする、意見を否定するといった手法は、相手に考えさせたい場面においては不向きです。
ひとつずつご説明しましょう。
オープンクエスチョンで質問する
オープンクエスチョンとは、「はい」や「いいえ」で答えられるものではなく、相手が自由に考え、答えを表現できる質問のこと。
一般社団法人日本産業カウンセラー協会は、部下の育成など「相手に考えてほしいとき」に、オープンクエスチョンの活用が効果的だとしています。*1
一方、相手が「はい」または「いいえ」のどちらかで答えられるようにする質問はクローズドクエスチョン。自分が会話をリードしたいときや、会話を終えたいときには有効 *1 ですが、相手の思考を促すには不向きでしょう。
相手の意見を否定しない
相手から自由な回答を引き出すと、意外な答えが返ってくることもあります。ですが、たとえ期待はずれの回答でも、相手の意見を否定してはいけません。
ベストセラー作家であり、麗澤大学客員教授、経営コンサルタントの星渉氏は、相手の自発的な思考を促すには、指示や助言を与えるのではなく、相手が自ら答えにたどり着く状況をつくることが大切だと言います。
具体的には、「相手が検討違いの答えを言っても否定せず、気づくまで質問を続ける」ことだと同氏。*2
――ですから、相手の思考を促したいときには、相手が自力で気づきを得た状況になるまで、意見を否定せず、根気よくオープンクエスチョンを繰り返しましょう。
2. 具体的な問いかけ事例
これまでの内容をふまえ、「目標の再確認」「行動理由の深掘り」といったふたつのシーンを想定し、具体的な対話の例を挙げていきます。
目標の再確認
白:リーダー / 青:チームメンバー
今月の、売上目標の達成が難しいと感じているんだよね。現時点では、どんなことが課題だと認識してる?
店頭での宣伝があまり効果を上げておらず、ターゲット層に響いていない感じです。特に、新製品の提案がうまくいっていません……。
なるほど。それでは……、ターゲット層に響いていないのは、なぜかな?
製品の特徴だけを伝えているせいかもしれません。お客様にとってのメリットを強調すべきでしょうか……?
(うなずいて)メリットを強調することは重要だよね。そのためには、どんなアプローチが効果的かな?
実際に製品を使用したお客様の意見を参考に、具体的なメリットを発信する方法にしてはどうでしょうか。
そのアプローチはよさそうだね。どんなステップで進めていく?
既存のお客様にインタビューしたうえで、SNS上の口コミも確認します。さっそく、本日からインタビューを開始します!
うん、いい感じだね! さっそく始めてください。
この対話では、目標達成のために何をすべきか、相手が自分で気づくまでオープンクエスチョンを重ねています。最終的なアクションプランを相手本人が決めることで、より行動しやすくなるでしょう。
行動理由の深掘り
白:よく相談される先輩 / 青:よく先輩に相談する後輩
Aプロジェクトの進捗が遅れているんだって?
はい、じつは、ほかのタスクに追われていまして……。Aプロジェクトの締切はまだ先なので……。
たしかに、やること多いよね。ただ、締切が先というだけで、Aプロジェクトをあと回しにしても大丈夫?
締切が先であれば、問題ないかと……。
そうか。じゃあ、締め切りはまだ先だし、ほかへの影響もまったくない感じかな?
あ……、でも、もしかしたら、Bプロジェクトのスケジュールには影響が出るかも……。
だとすれば、締切だけでなく、全体のスケジュールを意識することが必要だね。これ、結構大事かも。
はい。おっしゃるとおりです。早急に始めます。今後は締切だけでなく、プロジェクト全体への影響も考慮するようにします……!
この対話では、相手の間違った意見(締切が先ならあと回しにしてOK)を否定せず、いったん受け止めています。
見当違いの回答に対しても、無理やり答えを押しつけず、相手が自力で答えにたどり着くまでオープンクエスチョンを続けましょう。
3. 対話後に必要なフォローアップ術
相手と対話したあとは、そのあとのフォローも必須です。
株式会社パーソル総合研究所のトレーニングパフォーマンスコンサルタント・渡邉規和氏は、次のように説明しています。*3
- 定期的に進捗を確認しながら、適切にフィードバック。
- 振り返りの頻度を決めて、計画的にサポート。
- やや難しい業務を任せて部下の成長を後押し。成功すれば自信につながる。
相手の自発的な思考を導き出したあとは、その成長の過程を見守るだけでなく、できるだけ多くの対話を設けるといいかもしれません。強い信頼関係も生まれることでしょう。
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答えを急がず、相手の思考を引き出す問いかけについてご紹介しました。自発的に解決策を見つけることで、相手の成長を促し、あなた自身も新たな気づきを得られるはずです。ぜひ、お試しください。
*1: 働く人の心ラボ|ビジネスの成功のカギは、オープンクエスチョンとクローズドクエスチョン!
*2: 東洋経済オンライン|優秀な人の「あえて答えを言わない」超会話術 指示待ち部下は上司が作っているという事実
*3: PERSOL|部下育成で意識したい7つのポイント|育成に長けた上司の特徴とは
こばやしまほ
大学では法学部で憲法・法政策論を専攻。2級FP技能検定に合格するなど、資格勉強の経験も豊富。損害保険会社での勤務を通じ、正確かつ迅速な対応を数多く求められた経験から、思考法やタイムマネジメントなどの効率的な仕事術に大変関心が高く、日々情報収集に努めている。