頼まれ事をなかなか断れない――そんな人はいませんか。嫌われるのが怖くて……上手な断り方がわからなくて……理由はさまざまあると思いますが、時間も労力も限りがあるなか、あらゆる頼まれ事を引き受けるのは現実的ではありませんよね。
「断る」とは、すなわち「選択と集中」ができるようになるということ。本当に重要な仕事や得意な仕事に専念できるため、本来は自分がやらなくてもいい仕事や苦手な仕事に翻弄される心配がなくなります。結果、高い生産性を発揮できるのです。「ノー」と断れることは、仕事のパフォーマンスを上げるうえで大切なスキルと言えるでしょう。
今回は、「断る力」の高め方をご紹介します。
自分も相手も傷つかない「アサーティブ」な断り方
人間関係を大切にしたい人、他人を優先してしまう優しい人ほど、頼まれ事を断ることに抵抗を感じるのではないでしょうか。「嫌われたらどうしよう」「相手が傷ついたらどうしよう」と恐れるあまり、いつも引き受けてしまう……思い当たる人も多いはず。誰も損しない上手な断り方があったら知りたいですよね。
『心が軽くなる! 気持ちのいい伝え方』などの著書をもつ森田汐生氏は、「アサーティブ」な断り方を推奨しています。森田氏が代表理事を務める特定非営利法人アサーティブジャパンのホームページには、「アサーティブ」について次のように書かれています。
アサーティブな「ノー」は、相手を否定することも自分を否定することもしません。相手も自分も大切にしながら、「自分はここまではできるが、これ以上は難しい」ということを明確に伝えたうえで、解決策を考えていくのです。
森田氏によれば、アサーティブに「ノー」を伝えるポイントは3つあるとのこと。営業担当なのに事務作業も手伝ってほしいと同僚に頼まれて断るケースを例に見ていきましょう。
1. 相手の立場も理解して、まずは気持ちを受け止める
最初から「無理だ」「できない」と結論だけ伝えると、攻撃的な「ノー」になり、相手は否定されたと感じてしまいます。「役に立ちたい気持ちはあるんだけど……」と、まずは相手に配慮する姿勢を見せましょう。
2. 「ノー」の理由を絞る
何が「ノー」なのかを明確にします。このとき大切なのは、自分の心に正直になること。嘘をついたり見栄を張ったりする必要はなく、「営業ノルマが未達だから営業活動に専念したくて」「事務作業はちょっと苦手で」といった具合でかまいません。
3. お互いにとっていい代案を示す
相手が頼み事をしてくるのは何かしらの理由があるわけですから、単に断るだけではなんの問題解決にもならない場合があります。そのため、代替案を考えて相手に提示することも「ノー」の適切な伝え方です。「営業ノルマを達成したあとだったら手伝えるけど」など、現実的なラインで交渉するのも手ですね。
注意:やみくもに断るのはNG
とはいえ、毎回毎回断ってばかりなのも考えものです。いつも断ってくるAさんと、いつも引き受けてくれるBさんがいたら、どちらに仕事を任せたいと思うかは一目瞭然ですよね。おいしい仕事が出てきたらBさんにお願いしたいと思うのが人情というもの。つまり、きちんと考えずに「ノー」を出すのは危険が多すぎるのです。
『仕事の9割は断っていい!』著者で精神科医の和田秀樹氏によれば、断ることも念頭に置きながら、まずはしっかり相手の話を聞いて吟味することが、一流の断り方への第一歩なのだとか。和田氏が述べる、失敗しないポイントを3つ見ていきましょう。
1. 後先をしっかり考えておく
断ることで将来に生じるであろう状況を予測しておきましょう。たとえば、普段からたいへんお世話になっている相手の頼み事を断るのは、長期的に良好な関係を築いていくうえではマイナスになるかもしれません。なんらかのかたちで協力できないか模索する必要性は大きくなりますね。
2. 優先順位をつける
緊急度や重要度、人間関係を考慮して優先順位をつけましょう。何を優先するかに応じて、何を断るのかを考えればいいのです。たとえば、急ぎの案件を抱えている最中に仕事を頼まれた場合、「納期が少し遅くなりますが、それでもよろしいでしょうか」と切り返せますね。
3. 自分の能力に対して見積もりをする
自分の能力であれば、どれくらいの時間でどれくらいまで仕上げられるのか、見積もることも重要です。そうすれば、「今日中に終わらせるのは難しいですが、3日あればできます」などと交渉することができ、安請け合いを防げますね。
このように、いろいろな要素を考慮しつつ、断るか否かを慎重に見極めていきましょう。
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仕事のパフォーマンスを高めるために、時にはアサーティブに断ることも必要です。時間に追われたり心身が疲弊したりする前に、戦略的な「選択と集中」ができるようになりましょう。
(参考)
アサーティブジャパン|はじめに
森田汐生(2015),『心が軽くなる! 気持ちのいい伝え方』, 主婦の友社.
アサーティブジャパン|「No」を上手に伝えるコツ
和田秀樹(2016),『仕事の9割は断っていい!』, リンダパブリッシャーズ.
【ライタープロフィール】
SHOICHI
大学院修了後、一般企業に就職。現在は会社を辞め、執筆活動をしている。読書、音楽、YouTubeが好き。